ガチャ085回目:来客
「ここが話にあった、森の子がいるお店ですね。ようやくたどり着く事ができましたっ」
燐光を纏う見習い天使の少女は、店に辿り着けた自分を誇らしく思っていた。少女はよく道に迷う上に極度の方向音痴であるのだが、天使に口出しできる存在が周囲にいない為、残念な事に自覚がなかった。最終的に辿り着ける運命力と天性のポジティブ思考により、その事で悩む事も無かった。
今回も、ギルドで場所を聞いてからここにたどり着くまでに日付が変わってしまっていたが、本人はまるで気にしていなかったのである。
「森の子よ、入りますよ」
少女がノックして入店すると、中ではルミアがぼんやりと虚空を見つめていた。
「森の子よ、聞こえていますか?」
「はぇ……? ……!? ……!!?」
ルミアは慌てて立ち上がり、そしてゆっくりと座りなおした。
「……ええと、今日はどんなご用事でしょうか」
「はい。私達はとある目的のため、この近隣の調査をしているのです。近頃何か不穏な事が無かったか、調査をしに来たのですっ」
「調査なら、情報を扱う冒険者ギルドで聞かれてみては?」
「確かにそうなのですが、迂闊でした。私は冒険者証を持っていなかったのですっ。どうにかお願い出来ないかと頼んでみたのですが、大きな身体の人間さんに、冒険者でない者に教えることはできないと言われてしまいまして……」
「(グレインの坊やね。見習い天使相手とはいえ、毅然とした態度がとれるなんて、やるじゃない)」
ルミアは表面上は平静を保っていたが、知人の対応に内心喜びを見せていた。
「ではどこでなら教えてくれるのかと聞いてみたところ、この店を紹介されたのですっ」
「(前言撤回。あの坊や、扱いに困ってあたしに投げて来たわね!?)」
「あの人間さんは、森の子の事をこの街一番の古株であり、知見も広く情報通であるとも言ってたのですっ」
「(……ま、まあそこまで言われちゃ仕方ないわね~!)」
「森の子よ。この地で最近何があったのか。教えてもらえませんか?」
「そうですね~……。ここではなんですし、奥へどうぞ。ちょっと店を閉めてきますから」
「ありがとう森の子よ」
そうしてルミアは、最近まで南の森でゴブリンのダンジョンが活性化をしていた事を話し始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日。
カリンちゃんから特製弁当を受け取った俺は、そのまま魔導具店へと足を向けた。
「おじゃましまーす」
「あら坊や、いらっしゃい」
「……なんか、良い事ありました?」
ルミア姉さん、昨日見た時よりツヤツヤしてるというか、機嫌が良さそうに見える。
「あら、分かる? ギルドから久々に良いお肉が卸されていてね。それがとっても美味しかったのよ~」
「あー、もしかしてそれって、1枚で銀貨クラスの値がする肉ですか?」
「ええ、そうよ! 坊やも知ってるなんて流石冒険者ね」
それでこんなにテンション高いのか。エルフは地球では菜食主義者なんてレッテルもありそうだけど、こっちのエルフは普通に肉も食べるんだな。
「昨日の本ですけど、キラーラビットの解体においても非常に役に立ちました。ありがとうございます」
「ふふ、良いのよ。気にしないで~」
「お肉が好きなら、お土産に用意しておけばよかったですかね。でも昨日は店が閉まってたし、結局無理か」
「あっ、昨日来てたの? ごめんなさいね、ちょっとお客様が来てたから……」
「そうなんですね。なら仕方ないですね」
この店も、人が来ない訳じゃないんだな。やっぱり、来店のタイミングの問題か。
「それで話は変わるんですけど、ラビ」
『キィ!』
ラビを呼ぶと、マントの中に隠れていた彼が飛び出しカウンターに乗った。
「あら、この子って……ハーブラビット!?」
「『エルダーラビット』からの伝言を預かってるそうです。俺はよく分かりませんけど、この子を連れて行けば分かるとだけ」
内容は俺も聞いてないんだけど、通訳も無しに大丈夫かな?
『キィキィ!』
「え? えぇ!?」
『キィキィキィ!』
「な、なんですってー!?」
と思っていたが、どうやらルミア姉さんは彼らの言葉が分かるらしい。もしかすると、イリスのように『魔物言語理解』のスキルを持っているのかもな。
『プルプル』
「俺も言葉が分かればいいんだけどなー」
『プル~ン』
まあ、ラビよりも早くイリスと会話できるようになりたいところだが。
「ねえ坊や。この子が、白い巨大な氏族を倒したって言ってるんだけど、本当?」
「はい。その肉は昨日好評だったみたいで何よりです」
「なんてこと、まさかあの肉が『マーダーラビット』のものだったなんて。……もっと味わって食べればよかったわ」
落ち込むとこそこかよ。
「まあダンジョンを潰したんで、またしばらくは湧かないと思いますけどね」
「グレインの坊やからも軽く話しは聞いていたけど、本当にダンジョンを無効化させているのね」
「まあ俺は原因を取り除いてるだけですけどね」
諸悪の根源はあの謎の機械みたいだし。
まあ、俺が処置しないと結局モンスターは湧き出ちゃうみたいだけど。
「なるほど、だから……。そういうことだったのね」
「ん?」
何に納得したのか不明だが、ルミア姉さんは深くうなずいていた。
「坊や、昨日の客人なんだけど……」
「あ、はい」
「気を付けなさい。貴方、狙われてるわよ」
「え?」
俺が、狙われてる??
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