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ガチャ084回目:肉パーティー

「ただいまー」

「お帰りなさいお兄さん!」


 宿屋に帰ると、いつものようにカリンちゃんが出迎えてくれる。そんな彼女の視線は、吸い込まれるように俺の腕の中で眠るラビへと向かっていった。


「お兄さん、その子は?」

「んー、まあ。ペットかなー」

「ペット! 貴族様みたいだね!」

「はは。ラビ、起きなー」


 首元をトントンすると、ラビがゆっくりと目を開けた。


『キィ?』

「ここは俺が世話になってる宿屋だ。挨拶しなさい」

『(プルプルプル)』

『キィ!』


 シュバッと片手を上げ、お辞儀をするラビ。寝ぼけてるのかな? まあ可愛らしいので結構だが。


「ふわぁ。お兄さん、この子触っても良いの?」

「良いぞー。この子は大人しいからな」

「わぁ……」

『キィ~』


 少女と愛玩動物というのはいつでもどこでも絵になるものだ。さて、本命を伝えるか。


「カリンちゃん。お父さんにお願いしたい事があるんだけど、良いかな?」

「今日のご飯? 多めが良いの?」

「というより、S判定の肉を取ってきたから焼いてもらおうかなと。勿論余った分はカリンちゃん達で食べて良いよ」

「ほんとっ!? お父さんは今忙しいから、お母さんに聞いて来るね。お母さーん」


 カリンちゃんがスタッフルームへとパタパタと走って行き、しばらくすると女将さんがやって来た。


「お客さん、今日の食事は()()()()が良いんだね?」


 女将さんの視線がラビに注がれている。


「あ、いえ。こいつはペットなんで違います」

「あら、そうなのかい?」

「もうお母さん! ラビちゃんは違うよー!」

「ギルドでS判定と判じて貰った物をここに入れてるんですよ」


 魔法の鞄を叩くと、ようやく女将さんも理解してくれたようだ。


「ただ変に注目浴びちゃいそうなら、他のお客さんが捌けた後でもいいですけど」

「そうさね……。まずはそのお肉を見せて貰えるかい?」

「こちらですね」


 俺はマーダーの肉の塊を取り出した。すると、女将さんはすぐに目の色を変え、仕舞うように言って来た。


「わかった、これは確かにそこらの市場じゃ見かけない肉だね。香りも良いし状態も良い。あの人も目の色を変えるだろう。けど良いのかい? あたしらにまで配るなんて」

「構いませんよ。これと同じ塊があと3つあるので、俺だけじゃ新鮮なうちに喰いきれないでしょうし、色々とわがままを聞いてもらっているので」

「ありがとうね。なら早速、うちの食糧庫に案内しよう。そこにおいておけば、肉もしばらくは長持ちするだろうさ」


 そうして案内された地下の食糧庫に、判定Sのキラーラビットの肉を4体分。判定Sのマーダーラビットの肉を4kg分置かせてもらった。ちなみに今日の晩餐については、キラー1体分とマーダー1kg分を焼いてもらうようオーダーもしておいた。

 今の俺じゃ肉1kgでも辛いけど、暴食の魔王がいるので問題はないだろう。まあ、女将さんからは「相変わらずよく食べるんだねぇ」と感心されてしまったが。

 そうして部屋で待機している間、『炎魔法』をどうやって取得するかで頭を悩ませたり、イリスにも『土魔法』を覚えて貰ったり、ラビにリーフ草を食わせたりして時間を潰す。


「お兄さん、準備できたよー」

「ああ、今行く」


 その後いつものテーブルに、所狭しと並べられた肉料理の数々に舌鼓を打ち、俺もイリスも大満足の結果を得た。マーダーの肉はキラーと比べて、味の深みや力強さははっきりと感じられたし、肉そのものの旨味も深かった。けどまあ、俺が貧乏舌なのもあるのかもしれないが、毎日食べるにはちょっと刺激が強すぎるというか、攻撃力が高いというかで、結局俺はどちらも300gくらいで満足し、残りは全部イリスが平らげるのだった。

 ちなみにラビは、目の前で敵が調理された姿で出て来たことに思うところは特になかったらしく、膝の上ですぴすぴしていた。


「ふぅ、御馳走様」

『(プル~!)』


 そうしてパーティションの向こうでは仲睦ましくカリンちゃん達親娘も一緒に食事を取っていたようで、俺が食事を終えて仕切りから顔を出すと深く感謝された。


「お客さん、こんなに上等な肉をありがとう」

「お兄さん、すっごく美味しかったよ!」

「感謝する」

「どういたしまして。ただ、この肉を朝からはちょっと重いので、昼飯に今回の半分くらいの量で作ってくれると助かります」

「分かった。腕によりをかけて作ろう」

「お願いします」


 そうして部屋に戻って来た俺達は、大量に食った直後に眠る事も出来なかった為、窓の外に向けて『風魔法』と『水魔法』を狙った的に当てる訓練を開始した。そしてイリスは潤沢に魔力があるものの、俺は10発も撃つ前に息切れしてしまうため、買ったはいいけど一度も使う事なかった飴玉の効果を体感する事にした。

 これがあれば魔力が枯渇してもほんの数秒で回復するし、即座に必要になっても噛み砕けば全回復するという仕様上、実戦でも役に立つのは間違いなさそうだった。


「あとはイリスの『性質変化』だな。今はレベル1の時に覚えた可燃性の液体だけだけど、2になった時に何かできるようになったかもしれないというところだ」

『プルー』

「最初の時も、可燃性の液体が出せるようになったという確証は無かったんだよな?」

『プル』

「問題はそれが、たまたま場面に則した事ができるようになったのか、それともこんな能力が欲しいと願ったからそれが出せるようになったのかだ」

『プルル』


 この辺、謎が多いスキルだよなぁ。

 もしも本当に後者だった場合に備えて、イリスに覚えて欲しい物がないか考えておくか。

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