ガチャ081回目:命名
両肩にイリスとハーブラビットを乗せながら森の奥地から普通の森に出て来た俺は、そのまままっすぐ西へと向かい街を目指す。
「なあイリス、この子に名前とかあるのか?」
『プル~?』
『キィキィ』
『プル』
無いのか。なら、簡単に名前だけでも付けておくか。いつまでも種族名で呼ぶのもなんだしな。
「んー、じゃあ……。ラビで良いか?」
『プルル。プル』
『キィ? キィキィ』
『プル~』
『キィ~!』
「じゃあラビ。一応お前は便宜上モンスターではある。そんなお前を街中に連れて行くと騒ぎになる訳だが、無害であることさえ証明できればとやかく言われることは無いと思う。多分な」
『プル~。プルプル。プルル』
『キィ』
「だから無害な存在であることをアピールするためにも、合図を決めておこう。そうすれば、知らない人達から見れば芸を仕込まれてると誤認するはずだ。そうなれば警戒心はグッと下がる」
はず。
『プル~。プルプルル。プルル。プル』
『キィ!』
うん、了承は取れたかな。
あとは芸らしきものを仕込むだけだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ラビとの間に簡単な取り決めを交わし、最悪分からなければ服の内側に隠れたイリスが小声でアドバイスをする形に落ち着いた。そうしてイリスはいつもの定位置に戻り、ラビは俺の腕に抱えられる形で森を出る。
森の外はまだ日が沈んではおらず、明るかったが、あと1時間もすれば空は赤くなりそうな感じがした。そして小川よりちょっと北側に出てきたせいか付近にはキラーラビットの姿はなかった。
「……やっぱ、数が減ったままだな」
『(プル~)』
『キィキィ』
キラーラビットが少なくなった光景を視て、思うところがあったのだろう。ラビが甘えるように頭をスリスリ押し付けてくる。一見可愛らしい行動ではあるが、角がゴツゴツするんだよなぁ。
どこぞの、角丸出し状態の嫁を思い出してしまった。やっぱ角のオンオフができるのって大事だよな~。
そんな事を考えつつ街の門まで辿り着くと、案の定警戒心を丸出しにした衛兵たちに呼び止められた。
「君、モンスターを連れ帰って来たのか!?」
「この子はモンスターじゃなくて、ペットです。なので問題ありません」
「何、ペットだと? なら従魔登録は済ませてあるのか?」
従魔登録。あったのか、そんなもの。
「いえ、してませんけど。どこでするんです?」
「冒険者ギルドと提携している魔導具店だ。だがあの店はギルドが認めた者しか入ることはできないぞ」
「もし従魔登録を済ませていない状態でモンスターを持ち帰り、そのモンスターが住人に危害を加えたりしたら、冒険者証剥奪の上、一発で犯罪者扱いだ。その覚悟はできているのか?」
おー。だいぶ重たいな。
まあ、モンスターなんて戦わない人間からしたらどんな些細な連中でも脅威ではあるか。でも、全ステータスFFFが哀れに見られるような世界で、こんなハーブラビットに後れを取る人間がいるとは思えないけども。
「大丈夫です。それにこの子は大人しい子なので。ほらラビ、皆さんにご挨拶」
『キィ!』
俺がラビのお腹を2回トントンすると、ラビが元気よく鳴き、ぺこりと頭を下げた。お辞儀は立派な挨拶の1つだ。ペットだろうと、挨拶がきちんとできるのは大事だと思う。
「おお……」
「随分と仕込まれているな」
「それに愛くるしい……」
「それにしても緑色のキラーラビット? 見た事がないが、もしや新種か?」
やっぱハーブラビットって認知すらされてないのか。まあギルドでもキラーラビットの話しかされなかったもんな。
「ザインの奴が珍しく褒めちぎっていたが、こんな妙なものまで拾ってくるとはな……」
「良いだろう。通行を許可する。だが魔導具店は……」
「大丈夫ですよ。そもそもこの子は、もともと魔導具店のお姉さんのところに連れていく予定だったので」
「なんだ、そうだったのか。彼女からの依頼だったわけだな」
本来はスタートではなくゴールが彼女なのだが……まあ事実とは少し違うが、ここは笑って誤魔化そう。
そうしていると衛兵さん達は妙に納得をしてくれたようで、そのまま街中へと通してくれた。衛兵の1人くらいはついてくるかと思ったが、ルミア姉さんの信頼なのか、素通りとはな。
そのまま目的地の魔導具店に到着したわけだが……。
「留守かな?」
扉には鍵がかかっており、ノックしても反応がない。
「ラビ」
『キィ?』
「俺の予想通り、1日預かることになりそうだ。ご飯は薬草で良いんだよな?」
『(プルプル。ププルプル)』
『キィキィ!』
よし、じゃあこのままギルドに向かうかー。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「「か、可愛い~!!」」
『キィ!』
いつものようにギルド長のおっさんの部屋に行くと、ラビはモテモテだった。
「……で、お前さんは今日キラーラビットを倒しに行ったはずだが、なんで連れて帰って来たんだ?」
「あれはキラーラビットとは別種です。恐らく、前回のダンジョンが閉まった時に、現地に残った奴らが変異した存在か、それよりももっと前から森に棲んでいた種かと思います。こいつらは臆病で賢く、人を襲いません。それにルミアの姉さんに会わせたくて連れて来たんですけど、留守だったんですよね」
「アイツが? まあ明日の朝ならいるだろうよ。で、キラーラビットは倒したのか? 報告では、最近数が増えて来ているそうだが」
俺は冒険者証と一緒に『魔素転送装置』を手渡した。
「ついでにダンジョンも潰してきました。これが例の機械です」
「……おま、こいつは! それに何だこのモンスターは!?」
【討伐モンスター】
キラーラビットLv5:19体
キラーラビットLv6:24体
キラーラビットLv7:22体
マーダーラビットLv18:1体
どうやらおっさんは、『マーダーラビット』を知らないらしい。
「……初日でやってくれるじゃねえか。流石だな坊主」
「それで、1つ頼みがあるんですが」
「なんだ、言ってみろ」
「解体を手伝っていただけると……」
「お前もしかして、そこに……」
「全部入ってます」
「……」
おっさんは頭を抱えた。
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