ガチャ008回目:気になる視線
現状の詰み具合に頭を悩ませていると、衛兵さん達から手が差し伸べられた。
「ふむ……。少年、まずはこれに触れてみてくれないか?」
「え? あ~……」
取り出されたのは水晶玉で、その中に真っ白な煙というか、靄みたいなものが封入されていた。なんかこういうの、見たことある気がする。
『(プルル~)』
イリスが微かに震える。どうやら、俺と同じことを考えているようだ。
とりあえず手を伸ばして触れてみると、内部にあった靄がぐるぐると渦巻き、青色に輝いた。
「よし、やはり君に犯罪歴はなかったか」
『(プル~!)』
やっぱりそういう代物だったか。青で安全なら赤がアウトとかそんなんだろうな。イリスも実物が経験できて嬉しそうだ。
「少年は知っているかもしれないが、他所から来て街へと入る際には入門税として銀貨2枚を払う形となる。一文無しの君にとっては払う伝手もないだろうから、ここは私の方で立て替えておこう。それと、冒険者に必要は登録金は銀貨3枚だが、これも今渡しておこう」
「え、良いんですか!?」
「ああ、本当に困っているようだしな」
困ってはいたけど……そこまで顔に出てたかな。思わず顔に手を当ててしまう。
「全く、ザインはお人よしだな。この前も似たようなことしてたよな」
「良いだろ別に。こんな若いのに旅をして、一度の失敗で全てを失うなんてあまりにも可哀想だ。それともお前は少年を追い返して野垂れ死にさせろと?」
「あーあー分かったよ、俺が悪かった」
仲間の衛兵さんの反応を見るに、ザインさんは本当に善性の人のようで、他にもこうやって新人の援助をしてるみたいだな。これには頭が上がらない。早々に何とか稼ぐ手立てを見つけて返金しなきゃな。
てか、『運』がたったの4でもこういうことはあるんだな。……いや、他人が持っている根っこの善意までは、『運』の影響は受けないか。『運』が0なら、たまたま休憩中で不在とかありそうだけど。
「ザインさん、ありがとうございます!」
「ただし、この銀貨5枚は7日以内には必ず返してもらうぞ。もし返済できなければ、街の中で特定期間タダ働きをしてもらう事になる。そして逃げれば犯罪歴が付くようになるから気を付けてくれ。こんな些細な事で犯罪者にはなりたくなければ、しっかり働いて返す事だ」
「はい!」
「良い返事だ。では早速この街について軽く教えてあげよう」
そうしてザインさんからは街の簡単な地図とお金。それからおすすめの各種店舗、門の開閉時間、それから近付いてはいけない場所を教えてもらった。やっぱこの手の街にはそういう場所もあるんだな。
弱い内は……いや、強くなってもこういう場所にいる手合いとはあまり関わり合いになりたくはないが、この『運』じゃ出会うときは出会うだろうしな。覚悟だけはしておくか。
「ありがとうございます。ザインさんはいつもこの門に?」
「ああ、この南門を担当している。何かあれば声をかけてくれ」
ザインさんに頭を下げ、俺達は地図に掛かれた冒険者ギルドを目指した。
門の中はよくみる西洋のファンタジーな街並みで、中央通りは商店が並ぶエリアのようだ。このエリアは2階建ての建物がずらりと並んでいて、材質は石や煉瓦作りのものがほとんどかな。中央を外れれば3階建て以上の建物や木造建築もちらほらと見受けられるが、そっちの場合は商店用ではなく雰囲気的には集合住宅だったり宿だったりといった感じだろうか。
地図を見る限り、この街は東西南北の四方に門があるが、一般開放されているのは3つだけ。北は近付いちゃいけないエリアになっていた。門そのものが近付いちゃいけないって事は、もしかすると貴族だとかお偉方がいるエリアなのかもしれないな。地図にも北側だけ×印以外何にも書かれてないし。
「とりあえず、言われた通り冒険者ギルドに向かうか」
『(プルプル~)』
「ん? どうしたイリス」
『(プル! プルプル!)』
「あー……なんとなくわかるぞ。門でもそうだったが、お約束って奴だな?」
『(プル!)』
冒険者ギルド。
『運』がない状態。
まともな装備もないほぼ裸一貫。
冒険者にもなってない子供。
貧弱ステータス。
何も起きない訳もないよな。
『(ププル~ン)』
「ま、なんとかするしかないよな」
『(プル!)』
しばらく大通りを進んでいると、道ゆく人から俺は注目を浴びていた。最初は知らない人間がきたから見ているだけかと無視していたんだが、どうにも違うらしい。そうして彼らの視線の先にあるものが何なのか把握することで、ようやく彼らが何を気にしているのかが理解できた。
誰もが、俺が剥き出しで持っている3本の短剣に目を向けていたのだ。陽の光に当たるだけで小さく輝く剣だからな。子供は大はしゃぎしているし、大人も珍しいものを見るかのように視線を向けているようだ。
「……ここでも『運』の悪さが出たかな」
『(プル)』
どうみてもカタギじゃない連中が、裏路地からこちらを吟味するように視線を投げかけているのが見てとれた。こっちに来るまではあの手の悪意ある視線には、どういった感情が含まれているか何となく読み取れたものだが、今では全然分からん。だが、あれに良い意味が含まれてるとは微塵も思えんな。
まあ何にせよ、よくない連中に目をつけられたのは確かだ。ここで絡まれる前に、さっさと冒険者ギルドに駆け込んで、頼れる先の1つでも見繕おう。
「急いで行くか」
『(プル!)』
俺達は大通りを早足で駆け抜けた。
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