ガチャ055回目:読み歩き
「イリス、おいで」
『プル? プルルー』
「あぁん、もう終わり?」
「今日は終わりです。このあと予定があるんで」
いつまでも撫でさせる訳にはいかない。この後は大事な戦いがあるのだ。けど、ここで手にしたのは知識になりうる書物だけ。いずれ役立つとは思うけど、今急ぎで欲しい物でもなかった。だから、追加で何かしらを買っておきたいところではあるんだが……。聞いてみた方が早いか。
「お姉さん、この店って水筒とか置いてある?」
「あるわよ。なあに、それも欲しいの?」
「取引は終わったので、そっちはただの買い物です」
「ふふ、そう。どういうものがいい? 無限に水が入る水筒? それとも魔力を対価に中身が増幅する水筒?」
「いえ、普通の水筒でお願いします」
後半のソレには聞き覚えしかなかったが、今はまだ必要ないだろう。俺の魔力じゃ、使ったところですぐにガス欠だしな。
「そうね。ならこの特殊加工された丈夫な水筒とかどうかしら。それなりの容量が入るわよ」
名前:冷却の水筒
品格:『希少』
種別:魔導具
説明:中の液体が常に一定の温度に保たれる不思議な水筒。ダイヤルを回すことで維持する温度を変更することが可能。温度の維持には魔力や魔素を使うが、大気に漂っている微量のもので事足りている為、機能が停止することはない。
★容量:2L
おおう、結構な量だな。
「おいくらですか?」
「銀貨5枚……と言いたいところだけど、これ実は十数年前まではほとんど動かない不良品だったのよ。今ではちゃんと機能するんだけど、その時の皆の認識が残っているせいか、中々売れてくれなくてね。だから銀貨2枚で良いわ」
動かなかった?
それって、説明文から察するに、その時期は魔力や魔素が足りなかったのかもしれないな。それに、十数年前というとダンジョンが止まった時期や、戦争が無くなった時期と一致するな。
その辺りも気にはなるけど……。聞いたところでより一層怪しまれるだけか。ひとまず、適当に頷いておこう。
「今は問題なく動くんですよね?」
「ええ、保証するわよ!」
「じゃ、それください。お金はここから引いておいて下さい」
「じゃ、ちゃちゃっと処理するわねー」
再び冒険者証を渡して処理をしてもらう。帰って来た冒険者証からは、しっかり銀貨2枚が差し引かれていた。
残高は149980G。今朝と昨日でギルドの食事処でテイクアウトを計8人前購入したりしたのもあって、15万を割ってしまったな。
ま、また貯めれば良いさ。
「お水はサービスしておくわね」
お姉さんはそういうと、指先からジャボジャボと水を生み出し、水筒に注いでくれた。どう考えても水系統の魔法だな。
「後はこのダイヤルをひねれば、いつでも冷水が飲める水筒の完成よ」
「おー」
お姉さんは試しに実演してくれるようで、先ほど入れた水をコップに注いでくれる。触れれば確かに冷たく、氷は入っていないのに十分に冷やされていた。入れたばかりでもその温度へ強制的に変換されるとは、流石ファンタジーだ。物理法則をガン無視している。便利がすぎるな。
「うん、冷たくて美味しい。イリスも飲んでみな」
『プル……』
触手の先をコップに突っ込み、水をごくごくと吸引していく。
『プルーン!』
「そうか、美味かったか」
『プルプル』
「坊やは、この子の言葉が分かるの?」
「いえ、明確には分からないですけど、付き合いは長いですから」
『プルル!』
「ふふ、そうなのね」
イリスが飲み干したのを見届けた俺は、水筒を仕舞い、イリスを定位置に入れる。
「ではそろそろ行きます。今日でゴブリンは殲滅したいところなので」
「はい、いってらっしゃい。気を付けてねー」
◇◇◇◇◇◇◇◇
いやー、良いものは得られたけど、想像以上に時間を食ってしまった。大体30分くらいかな?
そうして駆け足で南門へと辿り着くと、そこでは10人くらいの冒険者たちが集まり、話し合いをしていた。恐らく彼らがダンジョン探査パーティなんだろう。挨拶は……トラブルになりかねんからやめとくか。
「ザインさん、おはようございます」
「ああ、おはよう。連日熱心だな」
「あはは。ただ、今日で最後になるかもしれないので、気合い入れていきますよ」
「そうか。話は大体聞いている。気を付けて行けよ」
「はい、ありがとうございます」
ザインさんと別れた俺は、真っ直ぐに南の森へと向かう。
「……道中は何もないし、通行人もいないから、さっきもらった本でも読みながら行くかな」
『(プルー)』
読み歩きを咎める人はここにはいないので、俺は教本を読み進めながら歩き続けた。そして――。
『プル!』
「ん?」
『プルル!』
イリスが俺と本の間に割り込んできた。何かと思って辺りを見回してみれば、もう森は目と鼻の先だった。なんなら、このまま後数歩進んでいれば、木に激突するくらいの位置にいた。
どうやら、想像以上に読むのに夢中になってしまったようだ。
「イリス、ありがとなー」
『プルー。プル、プルル?』
「ん? そうだなぁ。まだ触りの部分だけど、この世界にとって魔素ってのは、なくてはならないものらしい。それこそ、源泉が枯れ果て無くなれば、この世界は滅びるくらいには」
『プルルルル』
そんな大事な要素である魔素を、無理やり増幅させてどこかに転送している輩がいる訳だ。なかなか、きな臭い話になって来たな。
読者の皆様へ
この作品が、面白かった!続きが気になる!と思っていただけた方は、
ブックマーク登録や、下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へと評価して下さると励みになります。
よろしくお願いします!









