ガチャ005回目:研磨
まあステータスの事については考えても仕方がない。無いものは無いのだ。
「イリス、もうここに用はないし街を探そうか」
『プル!』
そう思って立ち上がった次の瞬間、木々の向こうにある茂みが揺れた。
『ガサガサッ』
「ん?」
『プルーン?』
なんだ、また何か来るのか?
『ガサガサガサッ!』
『ゲギャ?』
『グギャ?』
またゴブリンが現れた。
今度は2体!
『ゲギャ!?』
『グギャギャ!』
奴らは足元に転がる同胞の死体を見て驚いているようだ。まずは確認だ。コイツらに、魔石はあるのか?
*****
名前:ゴブリン
レベル:3
腕力:9
器用:7
頑丈:5
俊敏:6
魔力:3
知力:2
運:なし
装備:錆びたナイフ
*****
ん?
*****
名前:ゴブリン
レベル:2
腕力:5
器用:6
頑丈:3
俊敏:4
魔力:2
知力:1
運:なし
装備:錆びたナイフ
*****
んん!?
コイツら、ステータスに個体差があるのか! でもそうか、ダンジョンに出現するような規格のある存在ではなく、外で自然に生きてるモンスターなんだもんな? 人間と同様にバラつきがあるのは当然か。
とにかく、2体を同時に相手するのは不利だ。そして個体差があってもゴブリンは俺より格上だ。レベルアップしたとはいえ、舐めてかかったら死ぬ。
「イリス、右の弱い方を頼む!」
『プル!』
今回は、最初から俺の手には武器がある。油断さえしなければ負ける気はしない!
『プルル!』
『ギャギャ!?』
『グギャギャ!』
イリスが右手のゴブリンに体当たりを仕掛け、連中が驚いている隙にもう一方目掛けて突撃する。
「うおおっ!」
『ギャ!?』
先ほどゴブリンを解体した折、奴らの胸部にも刃が通りにくい場所と通りやすい場所があることが判明した。だからそこを狙って、心臓目掛けて短剣を突き刺した。
『ギアア!!』
奴の胸から血液が噴き出してくるが、こちらは事前に回避行動を取っていたため、直撃する事はなかった。だが、今の俺には『器用』もそうだが、『腕力』がない。
だから生きているモンスター相手に、ナイフ一突きで心臓を穿つような真似は難しく、即死させることは叶わなかった。
『ゲッ……グギャ……』
「はぁ、はぁ……」
それでも、左胸は人体の急所だ。例え人間じゃなくてもそれはゴブリンでも同じはず。そう思ってジタバタともがき続けるゴブリンを眺めていると、先ほどの一撃はしっかりと致命傷だったらしく、胸を押さえながら倒れ伏した。そして何度かビクンと身体を痙攣させながら、次第に動かなくなっていった。
どうやら、なんとか倒せたらしいが……だいぶ苦しませる形になっちゃったな。モンスターとはいえ、ダンジョンで生成されたパーツではなく、生きている生物なのだ。レベルを上げる為とはいえ、せめて倒すなら苦しませずに逝かせてやりたいところだな……。
『ゴキンッ!』
【レベルアップ】
【レベルが2から3に上昇しました】
「うおっ……相変わらずエグい殺し方するなぁ」
隣を見れば、イリスがゴブリンに纏わりつき、首の骨をへし折っていた。イリスのスライムボディは粘体にも液体にも個体にもなれる。だから体当たりもできれば、激突後に纏わりついて敵を取り込み、圧殺することも可能だった。
本来ならそこから消化して食べることもできるのだが……。
『プルプル……ぺっ』
汚いと思ったのか、それとも単純に不味かったのか、ゴブリンは無惨にも吐き出された。まあ気持ちは分かる。こいつら臭いもんな。現実に存在する生物になった事で、こいつらの醜悪さと臭気の威力は数倍に膨れ上がってる気がする。ダンジョンのモンスターって、割と綺麗な身体だったのかもな。
あれ? だけど、心なしか吐き出されたゴブリンは身綺麗になってる気がする。取り込んだ際に半分自動で汚れを落としたのかな?
ん、これは……?
「なあイリス。このゴブリンが身に付けてた短剣、最初からこんなに綺麗だったか?」
『プル? プルーン??』
「流石に記憶に留めてないか?」
『プル』
「だよな。けど、いくらゴブリンに個体差があるからって、装備にここまで顕著な差は無いと思いたいんだよな……」
その短剣には鉄錆もなければ血糊もなく、汚れもほとんどない。多少の刃こぼれはしてるが、普通に武器屋の在庫一掃セールで売られてそうなくらいには、価値がありそうな感じがした。
改めて俺の手元にある2本の短剣に目を遣るが、どちらも同じ鑑定結果だった。
名称:錆びた短剣
品格:≪普通≫ノーマル
種別:短剣
武器レベル:2(-2)
説明:錆びてしまい本来の輝きを失った短剣。刃こぼれしているため、武器レベルと共に威力も低下している。
「イリス、悪いがこっちの2本もまとめて掃除できるか試してくれないか。可能な限り念入りにだ。もし綺麗にできるんなら、今晩の晩飯代くらいにはなるかもしれん」
『プル!? プルプル!!』
飯の一言でやる気になったようで、イリスは先ほど吐き出した短剣も合わせて体内に取り込み、まるで洗濯機のように身体の中で洗い始めた。
『プルルルル……ぺっ』
相変わらず汚れについては無造作に吐き捨てられるが、短剣は大切に扱うかのように触手に乗せて俺に手渡しして来た。その短剣達はどれもが生前の輝きを取り戻したかのように磨かれており、刃こぼれ一つとしてない磨き上げられたかのような状態で出て来た。
これじゃあまるで、新品を通り越して強化したかのような輝きである。
名称:磨かれた鉄の短剣
品格:≪普通≫ノーマル
種別:短剣
武器レベル:5(+1)
説明:特殊な手段で磨き上げられた短剣。刃こぼれ一つなく美しく磨かれており、その輝きは人を惹きつけ、本来以上の切れ味を誇る。
いや、本当に強化されてたわ。
「おおー。イリス、どうやったんだこれ!? 綺麗に研磨までされてるじゃん!」
『プルー。プルプルルン!』
うん、そうだった。何言ってるか分からないんだった。
でも多分、「やったらできちゃった」とか、そんな感じのことを言ってそうな雰囲気ではあるな。
「まあいいや。よくやったぞイリス」
『プルーン? プルプル!』
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