ガチャ045回目:工作部隊
身をかがめている俺達から少し離れたところを、ホブゴブリン2体が率いる集団が通り過ぎようとしている。連中は完全にこちらの事に気付いていない。連中が向かう方角へ1分ほど進めば、先に倒したゴブリンの死体が転がっている。仕掛けるなら急いだほうが良いだろう。
「んじゃ、イリス。槍形態だ」
『プル!』
イリスは『形状変化』のスキル使用し、自身を槍……というよりも、バリスタの砲弾を意識した形状へと変化した。この状態のイリスは元のステータス的に貫通力が高い上に、持ち手もしっかりと用意してくれているので俺としても投げやすい。
ただまあ、まだこのスキルを使っての身体の変化には慣れていないのか、先端はちゃんと鋭いのに持ち手の部分の表面はぷにぷにしていた。ちゃんと芯はあるので、投げる途中で変形したりする心配はなさそうだけど。
「狙いは奥のホブゴブリンだ。行くぞ!」
『ドシュッ!』
イリスによって脳天を貫かれたホブは、勢いよく向こう側へと倒れた。連中も意味が分からなかった事だろう。なにせ、ホブの脳天に突き刺さっていたのは虹色に輝く見た事もない槍だったのだから。そうして連中が倒れたホブに気を取られている内に、俺自身も突撃。もう1人のホブへと斬りかかった。
「でりゃっ!」
『グオッ!?』
浅い! もういっちょ!!
もう片方に持っていた亜銀で、傷口の上から更に斬り裂いた。
『斬ッ!』
それにより、2体目のホブも地に倒れ伏した。
【レベルアップ】
【レベルが13から14に上昇しました】
【スキルの獲得条件を満たしました】
【スキル:暗殺術Lv1を取得】
わかりやすい死亡確認通知だな。
『ゲギャ!?』
『グギャギャ!』
『ギャギャギャ!』
「ホブがいないなら、お前らにビビる事もない」
そう言い捨てて、残りの連中も剣の錆にしてやった。
真っ先にホブを落としたのには訳がある。勿論戦うと乱戦になるのが目に見えているというのもあるが、それ以上にここはもう集落に近い場所のはずだ。そんな中でホブに叫ばれるのは増援を呼ばれる危険がある。
相手の規模も分からないのに、それは流石によろしくないだろうと判断して、即座に落とす事にしたのだ。
「イリス、もういいぞー」
『プル~?』
イリスはデロデロと元の姿へと戻っていく。こういう時、イリスには自身の見た目の希少性から、注目を集めた時はしばらく形状変化したまま動かないように指示していた。おかげで連中……特にホブの注意を引いてくれたのは本当に助かった。
「えらいぞー」
『プル~!』
「さて、そろそろ集落に近いようだし、ちょっとこいつらの装備を拝借したら飯にするか」
「プル!」
「ああでも、その前にイリス。悪いけどこいつら血なまぐさいし、見られると厄介だから、埋めちまおう。今回のホブは何故か鉄の巨大シャベルを持ってたしな。使わせてもらおう」
『プルプル!』
それに、もう1体は前回と同じくまた鉄の斧だったんだよな。
……もしやこいつら、工作作業でもするつもりだったのか? ダンジョン壊滅の報を受けた翌日に、襲撃を警戒して周囲に罠でも掘るつもりだったとか? 先に遭遇した4組も、道を確保するなり、ポイントを吟味する為の先遣隊だったりするか……?
それだとだいぶ不味い事になりかねんな。それを実行に移せる行動力もそうだし、ここから先はトラップが既に展開されているかもしれない訳だ。
「まあとにかく、掘って埋めて、匂いも消したら少し戻って飯にしよう」
『プルプル!』
食事という事もあってイリスはやる気に満ち溢れ、俺も手伝いはしたがものの10分ほどで全ての装備を剥ぎ取り、全ての痕跡をこの森から消し去った。
『プルプル!』
「わかったわかった、向こうで食べような」
『プル~!』
◇◇◇◇◇◇◇◇
食事を終えた俺達は、再び証拠隠滅ポイントまで戻って来た。流石にすぐに気付かれた様子も無ければ、別の組がやってくる事も無かった。
「まあホブは連中にとっては怖い上司みたいなもんだし。それも2体いるようなところには好き好んで寄ってはこないか」
『プルル~』
「よし、イリス。この先は危険が待っている可能性は十二分にある。俺の直感は今のところ貧弱すぎて期待はできないから、現場判断で動こうと思う」
『プル!』
「ここで判断すべき分岐は2つだ。1つは連中の拠点を直接拝んで、規模を確認すること。理由を言うまでもなく危険が伴う。そしてもう1つは、この周辺に展開しているであろう連中の部隊を各個撃破するというものだ。連中はダンジョンが止まったことでこれ以上増えないのなら、敵の戦力を削るだけでも今後が楽になるだろう。イリスはどう思う?」
『プルー……プルプルプル。プルル、プルル』
イリスは懸命に触手を伸ばして、敵の集落がありそうな方角へと指差した。そして自分達が埋めた連中を指し、集落の外側をなぞる様に触手を横に薙いだ。
「んー。要するに、外の連中を削ぐのは後からでもできるし、せっかくここまで来たのなら敵の大将の顔でも拝んでやろうと。そう言うことかな?」
『プルル! プル!』
「ま、そうだよな。もしそれでジェネラルが数体いるだけなら何とかなるだろうし、ビビってるうちに他の連中に手柄を取られるのも癪だしな」
『プルー!』
「そんじゃ、進むとしますか! けど、落とし穴の類には気をつけていこうな」
『プルル』
そうしてプルプルするイリスを肩に乗せ、俺達は慎重に南下を始めたのだった。
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