ガチャ042回目:最初の変化
「カリンちゃんただいまー」
「あ、み……お兄さん! おかえりなさーい」
み? ……まあ良いや。
それよりも延長代を支払うか。丁度ジェネラルが乗ってたアイテム小袋の中に、銀貨が入ってたからな。ここでその3枚を使わせてもらおう。
「カリンちゃん、何度も申し訳ないんだけど、延長と食事内容の変更をお願いして良いかな?」
「はいっ、喜んでー! どう変更されますか?」
初日に2日分、2日目にも2日分支払ったから、今宿泊可能数は残り2日分まるまる残ってるんだよな。それも、朝夕の2食を2人前で。
けどイリスは頑張ってるし、それぞれ1食分追加してあげようと思う。
「えーっと、計算がややこしいと思うんだけど、まず今日から1回の食事を3人前でお願いしたいんだ。だから1泊550Gだね。それから5日分延長で2750G。それと、今残ってる2泊分も3人前に変更だから200G追加で2950G。あとはカリンちゃんのモーニングコール延長分とベッド周りの迷惑料込みで、銀貨3枚の3000Gでお願いして良いかな」
カリンちゃんは指を折って必死に数えていたが、計算が追いつかなくなったのか煙を上げてしまった。
「えと、えっと……」
「カリン、そのお兄さんの計算で合ってるよ」
そう言ってカウンターの裏から出て来たのは、この宿の女将さんだった。朝の時間帯に厨房で動いているのを見た記憶がある。
「お母さん!」
「あ、どうも。無茶言ってすみません」
「良いってことよ。お得意様がうちの料理を気に入って金を出してくれてるんだ。断る理由はないだけさ。ここまで贔屓にしてくれてるんだし、今晩は追加でもう1食出してあげようか?」
「良いんですか? 助かります!」
ありがたい話だ。
正直、俺もそれなりに食うけどなんだかんだで昼間に2人前を食べてるから、朝と夕は1食ずつで問題はなかった。けど、今日は飯が早い時間だったのと、それなりの激戦で腹減りっぷりがイリスと同じくらいだったんだよなー。
「それじゃおまけに、奥のテーブルに仕切りを立てておくよ。お兄さんも食べてるところはあんまり見られたくないタチなんだろ?」
「何から何まで、本当にありがとうございます」
「構わないさ。さ、カリン。お兄さんを案内してあげな」
「はい! お兄さん、こちらへどうぞー!」
そうして俺とイリスは、2人でそれぞれ個別に2人前の料理を平らげるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【とある研究施設】
男は魔導具から計測された数値を紙に書き込み、エネルギーの流れを観測していた。そしてその中で、不自然に数値が低くなっているポイントを発見した。
「おい、どうした?」
「あ、主任。ランタスマ王国から届いている魔素の量が少し下がっておりまして」
「ほう、どのくらいだ?」
「現時点で1割ほど落ちています。なにかトラブルがあったのではないかと」
主任と呼ばれた眼鏡の男は観測データを覗き見るが、すぐに興味を失くしたかのように歩き始めた。
「放っておけ。あの地域のモンスターは弱い上に知能指数の低い連中が出る事が多いからな。どうせ装置の上にモンスターが居座って、稼働が止まっているだけだろう。近隣でも過去に似たような事例があったからな」
「ですが、万が一転送機が露呈していて、人の手で止められた可能性も……」
「馬鹿馬鹿しい。そもそもあの地域一帯のダンジョンは最近活性化したばかりだ。あの国の連中はダンジョンが復活した事など知る由もない。まだ稼働した事に気付いてすらいないのに、ダンジョン跡地に入る訳が無かろう。その上、あんな程度の低いダンジョンしかない街には、相応の人材しか寄り付かん。その数値もその内戻るだろう」
「ですが、せめて調査だけでも……」
「くどい。そんな事よりももっと優先すべきことがあるだろう。例の兵器の完成が近いのだ。わかるな?」
「はい。これが完成すれば、奴らが支配する上位のダンジョン跡地からもエネルギーを奪えるでしょう」
「そう言う事だ。では行くぞ」
そうして彼の言葉は主任に届く事はなく、例の数値の変動を気にしていた彼もまた、多忙により次第に忘れて行くのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【とある神殿】
神殿の最奥にそびえ立つ荘厳な神像に、数十人の男女が祈りを捧げていた。そんな集団の中で、一際光り輝く聖衣を身に纏った女性が、不意に感動に打ち震えるかのように涙を流した。
「ああ、神よ……!」
そう口にした女性は、2対の純白の翼を広げ光り輝く。主神の言葉に感謝を告げる為、彼女は自身の神聖力を解放したのだ。それにより彼女の頭上には上位の天族を現す光輪が出現。その光景に、周囲で祈りを捧げていた下位の者達は、男女問わず見惚れてしまった。
「皆々様。長らくの間お隠れになっていた我らが主神との通信経路が、今この時をもって復活しました」
「おお……!!」
「我らが神よ……!!」
「ついにこの時が……」
「あの方の計画が、ついに成就されたのですね!!」
「さすがです、天使長様!」
「皆様、お静かに。神の御言葉を遮ってはなりません」
高位の法衣を身に纏った初老の男が叱責すると、場は静まり返り彼女の言葉を待った。天使長と呼ばれた女性は逸る気持ちを押さえ、一呼吸を置いてから神の言葉を口にする。
「神は仰りました。『始まりの地にて、我が使命を背負いし使徒が君臨せり。其は我が力の一端を持つ人族の少年と、万色のスライムである』……と」
「おお、ついにこの地にも使徒様が!」
「これでこの世界も……!」
「神よ、我らをお救い下さい……!」
「それでは皆々様、神が定めた神法第六条に沿って行動を開始してください。派遣するのは他国の情勢も考え、見習い天使達にしましょう。ですが、くれぐれも使徒様に粗相のないよう厳命してください」
「「「「「「はい、天使長様!」」」」」」
翼の生えた男女が慌ただしく出ていく。
天使長は再び神像に向け祈りを捧げる為に膝を折った。
「どうか使徒様に、祝福があらんことを」
これにて第一章終了です!
次回からは1日1話形式にしていきたいと思います。
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