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ガチャ026回目:御使い様?

「ふあー……。カリンちゃん、おはよう」

「おはようお兄さん! ふふ、寝癖がすごいよー? 裏庭に井戸があるから、ご飯の前に顔を洗ってきた方が良いよー」

「ああ……そうするよ」


 盛大に欠伸をして、伸びをしているとカリンちゃんは俺が起きたことに満足そうな笑みを浮かべ、部屋から出ようとしていた。


「ああ、あとカリンちゃん」

「なーに?」

「悪いんだけど、俺が泊まってる間はこの部屋のシーツを変えないでくれないかな。もしチェックアウトする時に、シーツが洗いきれないくらいに汚れてたら弁償するからさ。ご両親から許可をもらってくれないかな?」

「うーん……」


 カリンちゃんの視線がベッドに向けられた。


「分かった。お母さんに伝えておくね!」

「うん、ありがとう」


 まあ『運』もそれなりにはあるし、後はなるようになれだ。さて、顔を洗いに行くかー。ついでに、昨日と一昨日にイリスが吐き出したアレがどうなってるか見ておこう……。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「っていうことがあったの!」

「そうかい。それで今日はシーツが1枚少ないんだねぇ」


 朝食を終え、宿泊客がいなくなったお昼前。カリンは今朝あった出来事を母親に伝えていた。


「カリンはどう思うんだい?」

「うーんと、お兄さんはお部屋を綺麗に使ってくれてるし、ご飯も綺麗に2人分食べてくれてるの。だから大丈夫だと思う!」

「ふふ、そうかい。ならわたしはカリンの判断を信じるよ。アンタの人を見る目はわたしたちの中で一番だからねぇ」

「えへへ。お兄さんに伝えとくね!」


 そう話ながらもカリンはテキパキとシーツを物干し竿に掛けていく。幼い頃から手伝いをしているだけあって、彼女はこうして会話しながらでも、的確に仕事をこなしていた。


「それにしてもね、お兄さんのシーツもベッドも、お部屋も、全部すっごく綺麗だったんだよ」

「確かにねぇ。昨日は1枚だけ新品みたいに綺麗なシーツがあったから、驚いたよ」


 昨日の母親の反応を思い出し、カリンはくすくすと笑った。


「それとね、昨日のお兄さん、すっごい泥だらけで帰ってきたの。けど、汚れたまま食堂に入っちゃダメって言ったら、部屋に入ってすぐ綺麗になって戻ってきたんだよー」

「はー……。そんな事ができるということは、そのお兄さんは『神の国』の御使い様かもしれないねぇ。神都に住んでいらっしゃる神官様は『浄化の奇跡』を起こせるそうだ。もしかすると、それを使われたのかもしれないねぇ」

「お兄さん、凄い人だったんだー」


 凄い人だと思うと、途端に年上の彼の事が格好良く思えてきてしまった。カリンは自覚こそなかったが、ミーハーの気質があるようだった。


「でもだからって、面と向かって御使い様ですかって聞いちゃいけないよ。カリン、『夜のとばり亭』ルールその3は?」

「お客様の個人情報を無闇に聞いて回らない!」

「そう、ちゃんと覚えていたねぇ。今まで通り普通に接するんだよ?」

「はーい!」


 なんて事のない親娘の会話。

 そしてその様子を、フードを目深に被った謎の人物が物陰から聞き耳を立てていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「今日も混んでるな~」

『(プル~)』


 むしろこのギルド、混んでない日なんてあるのか?

 ……雨の日とかかな?


「本来は今日ここに寄る必要は無かったんだけど……いや、食堂のテイクアウトは必要か」

『(プルプルプル!)』

「昨日の帰り際に、ミランダさんに冒険前に寄るよう言われたんだよなぁ」


 彼女の姿を探していると、奥へと続く通路の入口付近にいるのを見つけたので、一直線に向かう。


「ミランダさん、おはようございます」

「おはようショウタくん。早速だけど良いかしら」

「はい、大丈夫です」


 そのまま昨日と同じ3番の部屋に入り、今日この場に呼ばれた理由の説明を受ける事にした。


「昨日あなたが報告してくれたホブゴブリンなんだけど、実は十数年前までは当たり前のように現れていたの」

「十数年前……。何か大きな変化が?」

「ええ。昨日も言ったように天界の陣営と魔王の陣営は長きに渡って争ってきたのだけど、その争いは突然収束したわ。理由は分からないけれどね。それから時を同じくして、世界各地からダンジョンが消えていったのよ」

()()()()()!?」

「ええ、聞いた事ないかしら。無尽蔵にモンスターが溢れる特殊な場所の事よ。この街の周辺にもいくつかあって、その1つが南の森の奥地よ。昔はホブゴブリンなんかも、そこから沢山出て来ていたそうよ。けど、ダンジョンが無くなって以降あの森にはゴブリンしか出現しなくなっていたはずなのよ」

「……いくつか気になる事があるんですけど、ホブゴブリンは、ダンジョンからでしか出現しないんですか?」

「そんなことは無いわ。湧き出たゴブリンが長年かけて成長する事で、進化する事があるの。ただ、その場合はホブゴブリン以外にも色んなパターンがあるみたいだけどね」


 ……確かに、思えばゴブリンはやたらと種類が豊富だったな。あれも進化の系譜が枝分かれしている事によって起きた変化だったのか。けど、ダンジョンはその進化を無視して最初から強い状態で出現させるのか。


「じゃあ、今回も進化したのでは?」

「そう思いたいのだけれど、長い間あの森ではレベル5以上のゴブリンを見かけていないのよ」

「つまり、進化の過程を全く目撃していない状態で進化先が出て来たから不自然ということなんですね」

「ええ、その通りよ」


 なるほどな。ギルドとしては、最悪ダンジョンがまた出て来ているかもしれないと警戒しているのか。


「だから本来なら、練度の高い冒険者に調査を依頼するところなんだけど、ショウタくんは関係なしに行くでしょう?」

「そうですね。面白そうなので行ってみたいと思います」

「お姉さんとしては危険だし反対なんだけど、ホブゴブリンにも勝てる強さを持っているのなら、止める訳にもいかないのよね。……だから、そんなあなたにこれを渡したかったの」


 依頼書:南の森の探索

 依頼人:冒険者ギルド(ガラナの街)

 報酬:最低銀貨1枚

 内容:南の森にダンジョンが出現した可能性がある。その調査に赴き、それが事実かどうか確かめてくる事。詳細は受付嬢から説明を受けられる。

 注釈:ダンジョンに入る必要は無い。


「おおー」

「ギルドからの依頼、引き受けてくれるかしら?」

「もちろんです!」

『(プル~!)』


 初めての依頼だ!

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