ガチャ023回目:クレーマー
「武器はちゃんと見繕ってやるが、防具を買う金も明日までに用意してこい!」
そう怒鳴られ、俺は店からたたき出されてしまった。俺はなぜ怒られたんだ?
『(プル~)』
「まあいいか。このまま冒険者ギルドに――」
『ゴーンゴーン!』
おっと、夕方の鐘が鳴った。
もうそんな時間か。早めに冒険者ギルドでの用事を終わらせないと、晩飯を食いっぱぐれてしまう。
急げ急げっと。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「あー……混雑してるな~」
流石に鐘の鳴る時間帯だけあって、あちこちから帰還した冒険者が溢れかえっていた。まあ仕方ない、次からはもうちょっと早く帰れるようにしよう。
えーっと、ミランダさんは……いないな。じゃあ空いてるとこにしよう。といっても、どこもかしこも似たような感じだし、列に並んでいるのは大抵ガタイの良い連中だ。しかもそんな連中が防具を身に着けているせいで、見通しが悪すぎる。どの列がどれだけ混んでるのか読めないんだよな。考えているうちにまた人が増えそうだったので、とりあえず直感で選ぶ。
そうして列がゆっくりと前へと進む中、ふと視線を感じてそちらを見ると、ローブを羽織った奴がこっちを見ていた。
「……」
「……?」
あからさまに怪しいが、冒険者ギルドは清廉潔白な組織とは言えないし、血の気が多い荒くれものや、素性が怪しい奴も多数所属している雰囲気があるからなぁ。あのくらいの怪しさなら誰も気にも留めないのかもしれない。それはそれで危機管理意識的にどうかと思うが。
ただ、じっと待っているだけでは暇だったので、見られている以上こっちも見てやることにした。『特殊鑑定』は……顔が見えないから発動しなかった。目に見えている範囲での装備は目立つあのローブと靴くらいのもので、それも特に一風変わったものでもなかった。まあ、俺のよりちょっと上質なくらいかな。
そうして列を進みながらも無言の睨み合いが続いた中、ようやく俺の番が来た。そうして出迎えてくれたのは、綺麗なミランダさんとは違って、ちょっと可愛い感じの受付嬢だった。
「こんばんは。ようこそ、冒険者ギルドへ。依頼ですか? 報告ですか?」
「お疲れ様です。報告でお願いします。依頼書は持っていないので、常駐型の清算をお願いします」
そう言って冒険者証と袋に入れた薬草類をカウンターに置いた。
「はーい、確認しますねー……!?」
お姉さんはバッと後ろへと振り向いた。そして事務作業をしていたであろう男性職員を身振りで呼び、彼に俺の冒険証を手渡し何かを耳打ちする。そしてその職員さんはどこかにいってしまった。
はて? ホブゴブリンって本当にそんな騒ぎになるような格でもないと思うんだがな……。
「では気を取り直して、素材の確認をしますねっ」
まあ良いか。今回俺が持ってきたのは、ミランダさんに教えてもらった以下のアイテムだ。
・リーフ草:12本
・リフレス草:8本
・解毒草:5本
・シビレ花:0本
・ドクテング:0本
流石に麻痺や毒やらの素材は、ゴブリンがいるあの森には無かったらしい。危険な素材はない事を喜ぶべきか、それがあればホブゴブリン戦でもうちょっと楽に戦えたかもしれないと嘆くべきか。
「は、はい。確認しました。『リーフ草』は全て完璧に採取されていましたので、判定S。全てまとめて銀貨1枚と大銅貨4枚、銅貨40枚で買い取りさせていただきます」
おー。さすがイリスが手ずから回収しただけあるな。S判定で1440Gだってよ~。
そういう意味も込めて、お腹の当たりを撫でるとイリスも中でウゴウゴしていた。
褒められて嬉しかったらしい。
「続いて『リフレス草』ですが、こちらは全体的に大きな傷こそありませんが、一部花びらの部分に欠損が見られますね。判定Aが6本、判定Bが2本です。こちらは『リーフ草』よりは珍しい為、銀貨1枚で買い取り致します」
これは俺が採取した奴だな。採取時は『器用』も一桁だったせいで図鑑通りに上手くいかなかったのもあるが、そもそも最初から花が欠けてしまっていたやつはどうしようもあるまい。
「最後に『解毒草』ですが、こちらも素晴らしいです。全て判定S、薬効の強い根の部分に、まったく損傷が見えません。こちらは銀貨2枚で買い取り致します」
「おお、ありがとうございます!」
これもイリスが頑張ってくれた奴だ。当然根の処理は彼が丁寧に処理していたから、傷なんてつくはずがない。お金は……うん、一旦預けておこう。持ち歩いても良い事なんて無いし、明日引き出せば良いや。冒険者証の預かり金額が、今ので50Gから4490Gに増えたぞ。
……あれ? にしても、割と簡単に稼げてしまったな。こうなると防具の新調も余裕なのでは?
そう思っていると、隣の列に並んでいた男が突如として激高した。
「納得いかねえ! なんで俺の素材はC判定なのに、このガキがS判定なんだよ!」
その言葉にギルド内の視線がその男に一瞬集まるが、皆興味を失くしたように元のざわめきに戻った。どうやら、この手の騒ぎはよくある事らしい。
俺も、その男がこちらを指差しているのを認識した後、そのまま隣のカウンターへと目をやり、あまりにひどい素材状態のそれを見て、つい鼻で笑ってしまった。
「おい、何笑ってやがる!」
「いや、すまん。あまりにも馬鹿らしくてな」
「なんだと!」
「むしろ、逆に感動したよ。よくもまあ価値ある素材を、そんなゴミみたいに汚してまで持ってこれたな」
どこの世界にでも、クレーマーってのはいるもんだな。世界はお前にとって都合の良いルールで作られてる訳じゃないんだぞと。
俺もまあ、判定Sはイリスが頑張ってくれたおかげだけど、今日初めて図鑑と実物を見た素材相手に、『器用』FFFの中で判定A~Bは頑張った方だろう。だというのに、なんだこの踏みつぶされたかのようにクシャクシャの、血に汚れた草は。こんなの買い取ってくれるってだけで感謝しなくちゃ。
なおも素材の状態を見て、また吹き出すと男は青筋を立てた。
「てめっ……」
「判定Cってことは一応薬効が無い事もないから買い取ってくれるって言ってんだろ? ギルドの優しさに感謝しろよ。ゴミを引き取ってくれるってよ」
『(プルプル)』
イリスもこんなゴミは食べたくないって言ってる気がする。まあでも、イリスならこのゴミを綺麗にして最低Bくらいには価値をあげられるか? ……いや、薬効が抜けてしまってるなら見た目だけ変えても無駄か。
「けど、こんなものを持ってくるのはほどほどにしておけよ。ここ、ゴミ捨て場じゃないんだからさ」
俺の言葉に同意したのか周囲で聞き耳を立てていた冒険者達が爆笑し、受付嬢達も口に手を当てそっぽを向いた。お上品だなぁ。
そんな和やかな空気とは裏腹に、目の前の男からは剣呑な雰囲気が垂れ流されていた。
「さっきから言わせておけば……!」
奴の手が腰にぶら下げた剣に向かってるが……良いのかね、ここでそれ抜いちゃって。そう思っていると、俺の両肩に柔らかい感触が乗せられた。
「ショウタくん、それくらいにしておきなさい」
「あ、ミランダさん。ただいまです」
後ろを振り返れば、ミランダさんがいた。やっぱりこの人綺麗だよな~。
「はい、おかえりなさい。ちょっとお話があるのだけど、今朝の応接室でお話しできるかしら」
「もしかして、怒られる流れですか?」
「そんなことないわ。ただちょっと、今日のあなたの冒険内容で確認しないといけない事があってね」
ああ、そういえば冒険者証渡しっぱなしだったな。それでアイテムの清算をしている間に、どこからか呼ばれて来た感じか。
「分かりました、行きます」
「ありがとう。それじゃ、彼は借りていくわね」
そうして口論相手に有無を言わさず、俺はそのまま今朝の部屋へと連れてかれて行った。これもある意味、熟練の職人技というべきだろうか。
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