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ガチャ022回目:バトルスタイル

「お、ようやく外だ」

『プル~ン!』


 俺達は無事に森を抜け、街道が見える位置まで帰ってくることができた。空を見れば、茜色に染まりつつある。まだ鐘の音は聞こえていないが、そう遠くない内になり始めてもおかしくはない。早く帰らなくては。


「よし、ここから走る。イリスはもう中に入っててくれ」

『プル!』


 そうして俺は、息切れしないよう小走りで街へと向かった。この斧もそうだし、行きと違って荷物が大幅に増えちまったからな。あんまり飛ばし過ぎると到着前にバテちまう。

 そうしてえっほえっほと走り続けていると、ようやく衛兵さん達の顔が見える距離まで近付き、向こうも俺の存在を視認してくれた。


「おお、少年! 遅かったじゃないか、心配したんだぞ」

「あはは、すみません。ちょっと強敵と遭遇しちゃって……」

「あ、君が持っているその斧、もしかして……」

「少年、まさかホブと遭遇したのか!?」

「奴が南の森に出没したのか?」

「君、怪我はなかったか!?」


 あれ、そんなに騒ぐことなのか?

 なんというか、ホブごときでここまで騒ぐなんて、『初心者ダンジョン』に最初に訪れた日の事を思い出しちゃうな。あの頃の方が俺のステータスもスキルも充実してたけど、強さで言えば今の俺とどっちが上だろうな。

 ……モンスター討伐速度なんかで競わされると勝ち目はないが、タイマン勝負なら負けはしないと思いたいな。

 なんて昔の事を思い出していると、何も言わない俺を気に病み、彼らの心配はヒートアップしていた。


「少年、傷薬は持っているか? 壊死しては大変だから、今すぐ教会に行かないか?」

「この案件、すぐにギルドに報告をしなければ……」

「奴らの規模はいかほどか、威力偵察を……」

「あ、すみません、待ってください。俺は無事です! ちょっと考え事してただけなので!」


 慌ててそう言うと、彼らは盛大に笑いだした。


「はは、教会は冗談だ。見たところ怪我らしい怪我をしていないようだしな」

「君の強さはよくない意味で噂になっていたが、どうやら虚偽の情報だったようだな。初心者の域でホブなど、逆立ちしても倒せまい」

「だが、ギルドに報告すべき案件なのは嘘ではないぞ。ギルドの職員達も君の帰りが遅ければ心配するだろう。すぐにでも報告に行くと良い」

「あ、ありがとうございます! ……あ、そういえば通行料って」

「あれはこの街に初めて訪れる際や、長期的に町を離れてた者が支払うものだ。この街に在籍している者は免除されるから安心していい」


 ほ、良かった。毎回通るたびに支払わされてたんじゃ破産するからな。


「それでは失礼します!」


 そう言って俺は門を通り抜け、そのまま()()()へと直行した。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「武器屋のおじさーん」

「お、なんだ。今回は随分と泥だらけだな。察するに、陽が落ちかけてたから慌てて帰って来たってところか?」

「う、当たりです……」


 そんなに分かりやすかったかな。

 確かに、イリスに頼んで泥落としをする間もなくダッシュで帰ってきちゃったからな。もう街中で人目はあるし、宿の自室でこっそりイリスに掃除してもらうか。


「それで、今日も武器を売ってくれるのか? それとも何か買うのか?」

「お金はないので武器を買ってください。お金が余るようなら明日防具を買いに来ますよ」

「ふ、そうか。……ってお前、その斧!」

「はい。昨日のと同じ感じにできたと思います」


 俺は斧をカウンターの上に置いた。そして若干戻って来た『直感』が、この人を信じても良いと判断したため、ありのままの気持ちを伝えた。


「へっ、()()()()()()()()、ね。もう隠すつもりはないってことか?」

「あの短剣の仕様上、隠すの無理じゃないですか。おじさんも気付いた上で黙ってくれてるんでしょ?」

「まあそうだな。だが、アレを作ってるなんてここ以外で口が裂けても言うなよ。何をどうやって生み出してるのかは知らねえが、こんな技術はこの国にはねえ。特に裏路地の連中には気を付けろよ」

「はい、御忠告ありがとうございます」


 やっぱり、俺の『直感』は間違ってなかった。この人は信頼できる大人だ。


「……で、短剣は無いのか?」

「今回は普通のです。流石に流し過ぎるのも良くないかなって」

「分かってんなら良い。さて、査定に入る訳だが、通常の『鉄の短剣』は新品同様だから、大銅貨3枚ってところだ。文句はないな?」

「はい、構いません」


 今回討伐したゴブリンの総数は11体。短剣11本で銀貨3枚に大銅貨3枚だ。


「次にこの斧だが、錆び無し、傷無し、歪み無し。そしてこの研磨された状態を加味して……銀貨4枚ってとこだな」

「そんなに!?」

「ああ。このサイズの鉄の斧はそれだけ鉄を使うから、当然短剣なんぞより高い上に、作るのも面倒なんだ。その上例の輝きがあるおかげで威力まで跳ね上がってる。武器がデカい分元の威力も大きいのに、そこから更に威力が増しているというのは中々にロマンがある」


 おお、流石武器屋。ロマンを語れる人だったか。


「しめて、銀貨7枚の大銅貨3枚だ。文句はあるか?」

「いえ、全く!」


 でもそうだな、こんなにお金が入るのなら……。


「あの、やっぱりこの手持ちにある『磨かれた鉄の短剣』を売っても良いですか?」

「なに?」

「代わりに、この銀貨で買える中で丁度良い片手剣を売って欲しいです!」

「お前さん、さっき防具を買うと言ったばかりじゃないか」

「いえ、俺は攻撃こそ最大の防御だと思いますし、当たらなければどうということはないですから」

「……お前さん、さては馬鹿だな?」

「失礼な。俺は至って真面目ですよ」


 地球でもこのスタンスでずっと戦い続けてきたんだし、このバトルスタイルは付け焼刃じゃないんだぞ。それにレベルアップで傷が治るんなら、優先度はやっぱ下がるよな。


「いいや馬鹿だ。……よくよく考えればお前さん、防具も無しにホブの相手をしたのか!?」

「そうですけど」

「……頭痛くなってきた」


 おじさんは頭を抱えてしまった。

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