ガチャ020回目:最初の激戦
イリスの考えた工作を手伝っていると、ようやくホブゴブリンが追いついて来たのを肌で感じた。感知能力はまだ全然戻ってきていないが、奴の体臭っていうのかな。汗臭い匂いはアレが近付くたびに段々と強くなっているし、歩くたびに聞こえてくる騒音もまた奴の位置を教えてくれていた。おかげで、こっちも万全の態勢で待つことができた。
そうして待っていると、奴が木々の影からぬっと姿を現した。こっちでも相変わらずのドレッドヘアーなんだな。それ、誰が手入れしてるんだ?
「よお、待ってたぜ」
『グオッ!? グオオオッ……!』
俺の背後で転がるゴブリンの死体を見つけたらしい。奴はすぐさま臨戦態勢に移り斧を構えた。
しかし斧か……。向こうの世界で奴が持っていたような両手剣と比べて、武器の長さは同じでも刃の部分は短い。けど、その分刃先の威力は高いだろうし、あの柄の長さなら両手持ちする事も可能だろう。そうなってくると片手で扱うよりも威力は膨れ上がるだろうし、ただの短剣じゃまともに受け流す事も難しい。
「ちょっとリーチに難があるが、回避と攻撃回数重視の二刀流でなら、まだ勝機はあるはず」
奴が来るまでに、イリスに他の短剣も研磨して貰って正解だったな。
俺の手元には2本の『磨かれた鉄の短剣』があり、腰に装着した鞘にも2本予備として装備してある。その上イリスの工作もある。……これでも足りなきゃ、今度こそ本気で逃げるしかないな。
でもそれは、1度も被弾をしなければの話だ。
「行くぞ!」
『グオオオッ!』
◇◇◇◇◇◇◇◇
『……』
イリスは今、戦場を見渡せる高所に陣取っていた。木が密集している場所で枝を織り合わせ足場にすることで、多少バランスの悪い状態でも、その場からずり落ちたりしないようにしていた。
そして視線の先ではホブゴブリンとショウタが死闘を演じていた。ショウタの攻撃は致命傷には程遠いが、逆に相手の攻撃は一度でも当たれば死に至るレベルだ。明らかに分が悪い戦いだが、ショウタの顔には諦めるという感情が一ミリもなかった。
『プルル……』
イリスは自身の背後にある罠を確認した。以前遊んだテレビゲームに登場した対人間用の罠を、ホブゴブリンにも通用するよう魔改造した殺傷能力マシマシの簡易トラップだ。
仕組みは単純だが、発動チャンスは一回キリ。うまく行く保証はどこにも無く、試す時間もなかったためぶっつけ本番だ。
多少の不安はあったが、それでもショウタが「失敗してもいいからやろう!」と言ってくれたので、イリスは気負わず準備に専念することができた。
「ここだっ!」
『グォッ!?』
ショウタが狙いを澄まし、振り下ろし攻撃でできた隙を突き、斧の持ち手を直接攻撃した。ホブゴブリンは武器こそ手放さなかったが、これ以上この手で持ち続けるのは難しいと判断し逆の手へと持ち替える。
「ちっ、親指を狙ったつもりなんだがな。繊細な動きが全然できん」
イリスは今この瞬間に罠を発動するべきかと考えたが、ショウタは首を横に振る。まだ、その時ではないとの指示だ。
確かに罠の予測線からも目標の立ち位置は若干ずれているし、今発動しても致命傷には程遠いだろう。だが、ホブゴブリンの体力は落ちて来ており、利き手も負傷。攻撃にも粗が出てきた。
……発動の時は近い。
イリスはそう判断し、『形状変化』を実行。自身の形状を鋭い槍のように見立て、貫通力のある姿へと変えていく。そして身体の一部は足場にしていた木に向かって可能な限り伸ばし、本体の槍は背後に仕掛けていたネットに向かって、限界まで自分自身を引っ張る。
今回の罠は即席のスプリングショットのようなもので、本来は岩や丸太などを仕掛けて威力を高めるが、相手はステータスのあるモンスターだ。だからこそ、自らが砲弾となる事で威力を高めるよう改良されていた。
また、ネットは周囲にあった蔓を代用品として用いており、更に強靭性を高めるために自身のコーティング能力を使用して壊れにくくしていた。
『プルルルル……!』
だが、少し判断を早まったかもしれない。ネットを限界まで引き絞り、発射のタイミングを伺っているが、想像以上にこの態勢を維持し続けることは難しく、イリスは先走った行動を若干後悔し始めていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「む」
視界の端に映ったイリスが、発射態勢に入っちゃってる。もう少しホブを疲れさせたくもあったが、そろそろ潮時か。だが、失敗した時のために『次元跳躍』は使えない。だから地力だけで奴の隙を作る!
まずは所定の位置まで奴を運ぶか。
『グオ、グオオッ!』
「よっと」
これはまあ難なくクリア。戦ってる最中、奴を疲れさせ苛立たせる目的であっちにこっちに移動しまくってたからな。今更奴も違和感など持つまい。
続いて奴が武器を持っている左手だ。最初に持っていた右手は、反応を見るに利き手だったんだろう。何度か動かそうと試みていたから、その度に空いた右手を攻撃して、ボロボロにしておいた。一撃で致命傷を与えるのは困難でも、繰り返し攻撃する事で傷を増やす事はできるのだ。
ただ、これは強化された『磨かれた鉄の短剣』だからこそダメージが通っていただけで、コーティングが解けただの『鉄の短剣』となってしまうと傷を負っていない場所を攻撃してもほとんどダメージを与える事ができなかった。
『鉄の短剣』の武器としての性能もそうだが、俺の『腕力』が低すぎるのも問題だな。せめて『Pスキル』さえあれば……。まあ、無いものは仕方がない。今できる事をする。
残りの『磨かれた鉄の短剣』は1本。これで勝機を掴む!
「うおおっ!」
『グオッ!』
わざと大声を上げ、ボロボロになった右手を狙うように動くと、奴も右手を庇うように身体を回転させた。
「そこだ!」
俺の短剣が、斧を握る奴の親指と人差し指を切断した。だが、今まで以上に間合いを詰めた事で、奴が痛みによる反射で振るった丸太のような腕に対処しきれなかった。
『グオアッ!!?』
「ぐはっ!」
間近にいた俺は回避が間に合わず、そのまま吹き飛ばされる。だが、幸いにも指に力を込める事ができていなかった為、持っていた斧は途中ですっぽ抜けていた。喰らったのは、丸太のように太い奴の腕くらいのものだった。
「ごはっ! ……ぐ!」
だけど、俺の貧弱なステータスではそれだけでも致命傷だった。骨がやられたのか、まともに起き上がることすらできないし、呼吸もしづらい。
けど、身動きができないのは、どうやら相手も同じだった。
『グオォ……!』
「ぐっ……イリス!!」
『プルルー!!』
限界まで引き絞られたイリスは目にも止まらぬ速さで射出され、その勢いのままホブゴブリンに激突。
『ズドンッ!!』
『グ、オ……』
イリスの槍は奴の胴体を易々と貫き、ホブゴブリンは地に倒れ伏した。
【レベルアップ】
【レベルが5から9に上昇しました】
【スキルの獲得条件を満たしました】
【スキル:体術Lv1を取得】
【スキル:剣の心得Lv1を取得】
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