ガチャ002回目:知らない場所で
「……んぁ?」
土の匂いを感じた事に違和感を覚え、目を開けた。起き上がるとそこは、見覚えのない森の中だった。
「んん?」
おかしい。
本来であれば、いつも近くにいるはずの大事な人達の気配を感じないし、こんな森の中で寝た記憶はない。そもそも、俺は直前まで何をしていた……?
「まるで思い出せない……。つーかここ、何処だよ」
視線を下ろしてみれば、俺は寝巻き姿……などではなく、見覚えのない服を着ていた。こんな私服を持っていた覚えも無いし、着た覚えもない。寝ている間に嫁達に着せ替えられたならまだしも、近くには誰の気配も感じない。……いや、そもそも感知が機能していない?
周囲にある動植物の気配すら、希薄に感じる。存在が薄れているわけでもなく、単純に俺の感知能力にモヤが掛かったように、うまく動かせない感じだ。
「なんか、変な事件に巻き込まれたか?」
それはそれでおかしな話だ。俺の『運』と『直感力』をもってして、このような不測の事態に巻き込まれるわけがない。考えられるとしたら、俺が認知する事象のさらに外側の存在から干渉されたか、俺が自らこの渦中に飛び込み、その結果記憶が混濁しているかだ。
何にせよ、まずは情報を集めるところから始めるか。
「服装は見たことのない物、装備はなし。アイテムも無ければバッグもない。靴も……何だこれ、ペラペラの革靴か?」
本当に何だろう、この格好は。まるでファンタジー世界のゲームにでも迷い込んだ気分だ。けど、この空間がバーチャルだとはとても思えない。五感が感じるそれは間違いなく本物の質感だ。そして空高く見える月は、赤い月と青い月の2つが同時に存在している。
俺が元いた世界は、現代社会の地球に突如としてダンジョンが現れ、そこから発生したモンスターやテクノロジーにより、大きく発展したという経歴を持つちょっと特殊な世界だ。けど、そんな世界でもダンジョン内で空に惑星が見えた試しはないし、ここがダンジョン外だったとしても、あんなものは見たことがない。
本当に俺は、何処に迷い込んだんだ。
空を見上げても疑問が増すばかりなら、下を見るしかないわけだが、植生なんて専門知識は俺にあるわけもなく、目に映るのは雑草ばかり。
「……お?」
少し離れたところに、虹色の水溜りのような何かがあった。それは液体と表現するにはあまりにも質量があり、地面に染み込む様子もなければ流れていく気配すらない。むしろ粘体として地面にへばり付いているようにすら見えた。
そしてその存在を、俺はよく知っていた。
「お前、イリスか?」
『!』
そう呼びかければ、地面に広がっていた虹色の粘体は一箇所に集い、まんまるボディをプルプルと震わせながら起き上がった。そしてゆっくりと、目の前にいる俺を確かめるようにこちらを見た気がした。
彼に目となる部位や器官は存在しないが、明確に目と同等の感覚機能が備わっている事は知っている。この動きにこの気配、間違いなく彼は俺が知るイリスそのものだ。
『プルプル!』
んん?
「おー、イリス……だよな?」
『プル? プルル』
「あー……すまん。お前が何かを言ってるのは分かるんだが、言葉がまるで分からん」
『プル!?』
正確には、何を言っているのかは雰囲気である程度分かるが、言葉として聞こえてこなかった。
なんでだ? 感知機能だけじゃなく、その辺の機能もここに来る時に落っことしちまったのか?
『プル……』
「まあそう落ち込むな。お前と出会った時も大体そんな感じだっただろ。付き合いも長いし、今更言葉が通じなくても雰囲気や動きで何となく分かるからさ」
『プル! プルル!』
幸い、俺の言葉は完璧に通じてるみたいだしな。
イリスは嬉しそうに跳ね、感無量といった感じで飛び込んでくる。
「おー、よしよ――ぐほっ!?」
イリスを抱き留めようとするが、彼の体当たりを受け止めきれず、俺は盛大に背中から倒れ込んだ。
あ、あれ? イリスってこんなに愛が重かったっけ!?
『プル?』
「んな訳ないよな。イリスのステータスが変になってるのか? ちょっと視るぞー」
『プルー』
*****
名前:イリス
存在位格:『普通』
コア:極小魔石
レベル:1
腕力:30
器用:30
頑丈:30
俊敏:30
魔力:30
知力:30
運:なし
【Aスキル】悪食Lv1
【Mスキル】魔力回復Lv1
【Sスキル】形状変化Lv1
*****
んん???
「イリス、めっちゃ弱くなってるぞ。出会った当時くらいに逆戻りしてるな」
『プル!?』
特に『魔力』や『知力』に関しては最初期よりも弱いぞ。これ、『存在位格』が下がったせいか? 下がった原因はわからんけども。
それに、たくさん覚えさせたスキルが消えてるし。まあ、それでもなお残り続けている『悪食』にはちょっと微笑ましく思えるが。……はて? 『形状変化』なんてスキル、覚えさせてたっけ?
「いや待てよ、こんなステータスしかないイリスの体当たりでダメージを受ける俺も、もしかしてやばいんじゃ……」
*****
名前:ショウタ
年齢:17
レベル:1
腕力:4
器用:4
頑丈:4
俊敏:4
魔力:2
知力:2
運:0
【Uスキル】レベルガチャEX、特殊鑑定Lv1、異世界言語理解Lv1
【Sスキル】次元跳躍
称号:%#$£の###
*****
「……うわ」
こっちもステータスが初期化されてやがる。でも微妙に違うな。流石に最弱時代の俺でも、『運』は0じゃなかったぞ! スキルも残ってはいるけどそのままなのは1つだけだし、一部は名前も変わってたり知らないものまである。ガチャの名前はEXとか不安でしかないし『鑑定』も別物だ。『異世界言語理解』に至っては、現状を明確に説明しているまであるだろこれ。
それに、何処かで見たような称号まで付いてる。
一体俺に何が起きたってんだ!?
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