ガチャ019回目:戦略的行動
俺は戦闘の直前に背後へと放り捨てた荷物が無事であることを確認し、イリスを抱きかかえた。そんなイリスは現在、絶賛短剣の錆び落としを実行中だ。彼の半透明な体内では、ドラム型洗濯機に放り込まれた衣服のように、ぐるんぐるんと短剣が回っている。
『プル!』
「ほい」
イリスの前に手を差し出すと、プププッと短剣が吐き出された。
うん、どこからどう見ても新品の『鉄の短剣』が出てきた。鑑定結果もそう言ってるので間違いない。よし、それじゃこいつは念のため、木の皮を剥いで、あとはぶら下がっている蔓みたいな植物の繊維で簡単な紐を作ってと……。よし、これで簡易的な鞘にはなったはずだ。
収納袋に入れても穴だらけになる事はあるまい。多分。
「イリス、俺も気を付けるけど、もし短剣が飛び出て落ちそうになってたら教えてくれな」
『プル? プルプル』
「ん、合図か? その時は……背中でもつねってくれ」
『プル~ン』
「じゃ、まだ時間はあるだろうし、もうちょっと探索しようか」
そうして俺達は再び移動を開始し、いくつかの採取アイテムを獲得。更には2回ほどゴブリンの集団と遭遇したが、問題なく撃破。レベルも4から5に上昇した事で『運』も8にまで上がってくれた。
これならまあ……向こうにおける一般人並みの『運』にはなったんじゃないか?
「よし。そろそろ良い時間だし、戻るか」
荷物を拾い上げ、そう判断した瞬間だった。
聞き慣れた雄叫びが聞こえて来たのは。
『グオオオオッ!』
「うげ!? オイオイ、この声はまさか……」
『プルル』
警戒して身を強張らせていると、森の影から巨大な斧が現れ、木に激突する。すると、根本から大きく切断された木は轟音を立てながら倒れていった。
『バキバキバキッ!!』
「随分と派手な登場の仕方をするじゃないか」
『グオオ……』
『ゲギャ!』
『ゲギャギャ!』
向こうの世界におけるレアモンスターであり、ゴブリンの順当上位種と思われるホブゴブリンが現れた。しかも、お供のゴブリンを引き連れてだ。
こんなん、異世界2日目に出会っていい相手じゃないだろ。
*****
名前:ホブゴブリン
レベル:8
腕力:38
器用:33
頑丈:44
俊敏:17
魔力:16
知力:12
運:なし
【Bスキル】剛力
装備:鉄の大斧
*****
んん?
コイツもまたえらくステータスが違うな。スキルも劣化しているし相変わらず魔石の反応もない。向こうに比べれば遥かに弱い。レベルも半分ならステータスなんてそれ以下だ。
だが、それでも今の俺にとっては驚異的な存在なのも確かだ。切り札である『次元跳躍』はないに等しく、戦闘スキルも身に着けていない。ステータス差は歴然だ。3メートルくらいはある巨体に高い『頑丈』。あれは、今の俺じゃまともにやってもダメージが通らないんじゃないか?
これは、こだわってる場合じゃないな。
「イリス、まずは撤退する」
『プル!?』
それだけ言って俺はイリスを掴み上げると、脱兎のごとく逃げ出した。
『グオオオッ!』
『ゲギャー!』
『ゲギャギャー!』
背後から連中の叫び声と、追いかけてくる音が聞こえる。
帰り道については木に傷を付けながら進んできたから大体は覚えているし、通るのに邪魔になりそうな枝や茂みは可能な限り取り除いて来た。だから逃げながらでも道に迷う心配はないし、ゴブリンの足の遅さを思えば体力を温存しつつ逃げる事は可能だ。
けど、ここで完全な逃走を選択するつもりはない。撤退を選択したのも、2対3では不利になると考えたからだ。
「イリス、まずはホブゴブリンと雑魚ゴブリンを引き離す。そこからゴブリンを優先して倒して、2対1に持ち込む」
『プル!』
『ゲギャッ!』
『ゲギャギャッ!』
『グオオ!』
背後から聞こえてくる声量と音的に、ゴブリンの方が小回りが利く分前に出て来ている。逆にホブゴブリンの方は『俊敏』はそれなりにあるが、図体がデカすぎるせいで木々が邪魔で回り道なり木を切り倒さなければ追いかけられないようだ。
このままもう少し距離を置けば、十分に引き離せるはずだ。
そうして1分ほど道なりに進んだ所で視界の開けた獣道に到着。すぐさま背後を確認し、連中の姿が見えない事を確認した俺とイリスは、そのまま左右の茂みに身を隠した。
『ゲ、ゲギャ!』
『グギャー!』
「……来たか」
連中は俺が隠れている事など微塵も考えてない様子で、まっすぐに突っ走って来ているようだった。ホブゴブリンもきちんと背後から来ているのか、遠くから奴の声も聞こえる。もしかしかしたら、アイツがいるからこいつらも諦めきれずに走っているのかもしれない。
そう考えるとなんだか哀れに思えるが、こっちも命が掛かってるんだ。最後まで手は抜かんぞ。
『ゲ、ゲギャギャ……!』
『グギャー……!』
連中は元々体力がないからか、既に息が上がっていた。走る速度も落ちているし、注意散漫といった様子だった。それでも走り続ける姿には涙を禁じ得ないが、これなら、容易く狩れる!
そして奴らがこの獣道に到着する時を俺達は待った。連中が発する音を頼りに、イリスにだけ視えるように指でカウントする。
5、4、3、2、1……。
「おらっ!」
『プル!』
『ブシュッ!』
『ゴキッ!』
瞬時に2体のゴブリンを無力化する事に成功した。残るは、ホブゴブリンのみ!
「イリス。ホブゴブリンに関してだが、この世界では初見だ。隠れたところで不意打ちが決まるかどうかも怪しい」
『プル』
「だからは俺は、正面から挑む事にする。代わりにイリスが不意打ちを担当してくれ。お前はまだ奴にとって、敵として扱われていない可能性が高いからな」
『プル! ……プル、プルル!』
イリスが少し考えたあと、触手をとあるところに伸ばした。その先を俺も追ってみると、そこには……。
「ん? アレをどうするんだ?」
『プルル!』
聞いてみると、イリスは自身の形状を変化させてみた。今までにない姿だが、『形状変化』のスキルはここまで形を変えられるのか。
言葉では通じないと判断して、自分の形を変えて説明してみせたということか。しかしその形状、まるで……。
「……ああ、そういうこと? 試してみる価値はあるな」
『プルーン!』
ま、やってみますか!
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