ガチャ018回目:引き継いだスキル
森をゆっくり進み続ける事数分、俺達は目の前で自生している見覚えのある植物を凝視していた。
「これ、図鑑に載ってた『リーフ草』って採取アイテムだよな?」
『プル~。プルルル』
「採取方法は確か、根っこも傷つけず完全な状態で採取する事で、そんな風に根こそぎ採っても環境さえ合えばまた勝手に生えてくる……だったかな?」
『プルプル!』
「俺の手先は器用とは程遠いからな。イリス、頼めるか」
『プル!』
イリスは『リーフ草』が生えている地面に触手を伸ばした。するとその近辺の地面がボコボコと音を立てて崩れ落ちていき、イリスが『リーフ草』を持ち上げれば、根っこに纏わりついた土ごと持ち上げられた。あとはイリスが丁寧に土と根っこを分離すれば、完璧に綺麗に処理された『リーフ草』の採取完了だ。
「おー、さすがイリス。完璧な処理だぞ」
『プル~!』
「さっきミランダさんから預かった薬草用の小袋に収納してっと。よし、続けてどんどん行こう。繊細な処理が必要ない奴は俺が採取するからな~」
『プル!』
そうして薬草を発見しては採取しては探索してを繰り返していると、この森に生息している連中と遭遇した。
『ゲギャ!』
『ゲギャギャ!』
『グギャギャ!』
レベル2のゴブリンが2体に、レベル3のゴブリンが1体だ。この組み合わせが、この近辺にいるゴブリンの標準的なチームなのかもしれないな。
「今日は3体まとめてか。イリス、中央の1体は頼むぞ」
『プル!』
イリスが吶喊し、中央のゴブリンの頭部に直撃した。敵対存在が俺しかいないと錯覚していたのか、イリスの存在にゴブリン連中は混乱したようだ。その隙を突く形で左にいるゴブリンの喉を掻き斬る。
『ギッ!?』
血飛沫が舞う中、残った一体が慌てて攻撃を仕掛けてくる様子が見てとれた。
その攻撃を避けてカウンターを入れるのは簡単だが、ここはあのスキルを試してみるか。向こうの世界では、とある上位スキルが更なる進化を遂げた事で獲得に至ったチートレベルの存在であり、俺の戦闘レベルを大幅に引き上げたスキルだ。
「よし、『次元跳躍』!」
前方に踏み込んだ瞬間、俺の視界が一変し、残ったゴブリンの側面へと移動した。
『ゲギャ!?』
「ぐっ……!?」
相手を見失ったゴブリンは驚くが、それ以上にスキルを使った俺自身が驚きを隠せなかった。側面などという予定のない場所への移動もそうだが、この腹の底からよじ登ってくるかのような倦怠感に嘔吐感は……!
「ぐ、おらっ!」
『ゲギッ……!』
吐き気に耐えながらなんとか隙だらけの首を貫き、ゴブリンを無力化する。ゴブリンはあと1体残ってはいるが、イリスに任せていれば問題は無いはずだ。
二重苦に耐えていると今度は眩暈までやって来た。思わず膝をつき、肩で息をする。
「この気持ち悪さ……」
覚えがあるぞ。
『レベルガチャ』を入手した当時、調子に乗って魔法を使いまくった挙句に魔力を全消費してしまった時の、あの感覚だ……!
「『次元跳躍』め……。お前、実は魔力を消費するタイプだったのか……」
全然気付かなかった。これを取得した時には、もう魔力は潤沢にあり過ぎて枯渇する心配なんて要らなかったからな。そのせいで、こいつが使用の際に魔力が必要になるなんて、そんな考えは微塵もなかった。
くそ、これじゃ満足に動けそうもないぞ……。
『ゴキッ!』
【レベルアップ】
【レベルが3から4に上昇しました】
「……おっ?」
気持ち悪さが消えた。
レベルアップしたことで、ステータスが全回復したか。
『プル~?』
「ああ、イリス。助かった。マジで助かった……」
『プル~、プルプル』
触手を伸ばして、汗を拭ってくれる。
ああ、ひんやりしていて気持良い……。
「あの魔力枯渇の気持ち悪さは、そんなに経験してなかったから慣れてないんだよなぁ」
『プル』
「慣れる前に魔力が馬鹿みたいに増えて行ったせいもあるんだが」
『プルプル』
「それにさっきの『次元跳躍』、本来ならアイツの後ろに回り込むつもりで使用したのに、側面だったんだよな。魔力が足りなさ過ぎて、目標距離まで届かなかったけど、奴の身体が邪魔で移動できなかったから、横に弾かれたとかかな?」
『プル~?』
この辺は使っていかないと判断できないが、困った事に使うと即座にぶっ倒れそうになるんだよな。レベルは上がっても魔力は1しか増えてないんだし、さっきよりも飛距離は伸びてるだろうけど、こんな森の中で試すわけにはいかんな。
レベルアップ間近ならやってみても良いけど……。
「それでも、安全が確保できてないタイミングでは使わない方が良いな。完璧に切り札専用で、闘いが終わる直前に使うのがベストか」
『プル!』
「さて、気を取り直してと。イリス、剣と戦利品の掃除を頼む」
『プル? プルル?』
短剣を差し出すが、イリスはそれを取り込もうとはせず、俺に何か伝えるかのように触手を伸ばして、俺の手元の短剣をツンツンした。
「ん?」
よく見れば、そこにあったのは森に入る直前に見た輝きはなく、ちょっと血に汚れた『鉄の短剣』だった。
名称:鉄の短剣
品格:≪普通≫ノーマル
種別:短剣
武器レベル:4
説明:刃こぼれ一つない短剣。少し汚れている。
「あれ、普通の短剣になってら」
『プル~?』
「……てことはつまり、イリスによるメッキが剥がれた感じか」
『プルル』
なんだ、おじさんの見立て通り、本当に輝きを失えば元に戻るのか。ということは、回数制限付きの強化だったということか。戦闘以外でも、採取で使いまくったからかな?
いや待てよ……ってことは、俺が武器屋に売ったあれもだよな!?
「詐欺だって怒られたりしないかな……」
『プルル……』
「とりあえず、怖いから新規の3本は錆び落としだけにしておこうか。んで、この1本はこの後も使うから磨き上げておいてくれ」
『プル!』
先ほどのレベルアップで『運』は6になっていたが、まだまだ無事に乗り切れる自信はないので、無茶な行動はしないよう心掛けないとな。
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