ガチャ016回目:明確な目的
ミランダさんに言葉を教えてもらうこと数時間。やはりというか、ここの言語はアルファベットに程近い形状の似た何かだった。ちょっと無駄にくねくねしてるし大文字のアルファベットと言われてもまあ分からないでもない何かだった。正直、ミランダさんから教えてもらう中で一番困惑したのが、アルファベットもどきの並び順がA~Zでは無かった事か。
この並びを覚えるのは流石に無理そうだったので、文字だけを覚える事にした。まあ根本さえ掴めてさえしまえば後は流れでなんとかなった。紙とペンを借りて時間を掛けて練習すれば、『知力』がたったの4でもできるのだ……。学生時代の苦労をちょっと思い出した。
よし、これでもう読めない本はないぞ! ……多少時間はかかるだろうけどな!
【スキルレベル上昇を確認】
【『異世界言語理解Lv1』が『異世界言語理解Lv2』に上昇しました】
んん!?
え、何? スキルって、こうやってレベルが上がるのか!?
いやでも、本来はそうあるべきだよな。スキルを持ったモンスターを倒してスキルを得てって順番は、あまりにも不完全で不健康だ。だって、それならどうしてモンスターはレベル違いのスキルを手に入れたんだって話になるからな。モンスターや異種族だけがスキルを成長させる手段を持っているのはあまりにも不公平だし、これが本来のスキルの取得方法なのかもしれないな。
つまりここは努力が明確に形となる世界であり、そんな俺が戦闘スキルもないままに冒険者登録に来たからこそ笑いものになり、帰るよう促されたのだろう。そりゃ笑われるわ。んで、心配もされるわ。
「ミランダさん、ありがとうございます。おかげでほぼ完璧にマスターできました」
「おめでとう、頑張ったわね」
ミランダさんは一瞬驚きが顔に出たが、すぐに引っ込め心から祝福してくれた。優しい……。
「今日はお昼まで時間があるから、もう少しだけなら話し相手になれるわよ。まだ何か知りたいこととかあるかしら?」
「あー、そうですね……。じゃあこの国、もしくは世界の歴史の本や世界地図があれば読んでみたいですね」
「世界の歴史……?」
「そ、そうです」
やべ、踏み込みすぎたか?
でもこの部屋の本棚は、冒険者の心得的な自伝書だったり、図鑑はあるんだけど、スキルや歴史に関する本はないんだよな。地図もないから情勢が読めないし、せめて街の周辺地図くらいは欲しいところだ。
「えっと、この街の地理に疎くて、どこにどのモンスターがいるのか分からないのでそれが知れたらなと」
「ああ、そういうことね。なら周辺地図を持ってくるから、ここで待っていてね」
そう言ってミランダさんは部屋から出て行った。
ふぅー、危ない危ない。なんとか誤魔化しが効いたか?
『(プル~?)』
「あ~、アウトだった?」
『(プルル~)』
微妙と。イリスからはそんな感じのニュアンスを感じた。
まあ仕方ない。言っちゃったものは取り返しがつかないし、改めて読めるようになった本の中で、必要そうなものを見返すか。
「ん~……。さっきは要らないかなと思ったけど、自伝書も見方によっては有りか? 誰の物かは知らんけども」
本のタイトル:俺の生き様
著者:グレイン
「……一気に本の信用度をなくしたな」
『(プル~)』
さっと開いて、ぱっと閉じ、そっと本棚に戻した。
文字が読めない時は注釈でモンスターの絵や他国の街の風景、異国の紋章などが入ってたりしたから、なんとなく冒険の自伝書なんだろうなと思ったが、読めるようになったら今度は字の汚さに目が行って内容が入ってこなかった。
ありゃダメだ。なんの参考にもならん。
「となるとやっぱり、図鑑で生き残るために必要な物を覚えるのがベストか」
『(プルル)』
そうして必要になりそうな採取アイテムなどをイリスと2人で覚えながら吟味していると、背後の扉が開いた。それと同時にイリスが顔を引っ込める。
「お待たせショウタくん、持ってきたわよ~」
「ありがとうございます、ミランダさん」
「どういたしまして」
彼女が持って来たのはこの『ランタスマ王国』の周辺状況やその配置が記された地図だった。この『ランタスマ王国』は全体的に緩やかな逆三角形型で、この『ガラナの街』が国の南端に位置している。そして首都はその中心部。北東と北西にはそれぞれここと同じような街があるそうなのだ。
首都は3つの街と繋がっていて、街の外へと続く街道はまた別の国と隣接しているらしい。そしてそこで興味深いことを教わった。
「ショウタくん、この国の首都は人間が治める国だし、国の王も人間よ。だけど貴方も知っての通り、国によっては魔王や天の神が支配している国もあったりするわ」
魔王や神か。知ってる名前も出てくるかな?
とりあえず初耳だけど、ここは大人しく頷いておこう。
「特にこの『ガラナの街』の南東方向へ伸びている街道の先にある国と、北西の街の先にある国は要注意ね。用事がない限りは極力近付かない方が良いわ」
「魔王や神……。それぞれの支配者の名前とかって分かってあるんですか?」
「ええ。ここから近い方が天界の陣営で、支配者は『戦神マルス』。北西の街の先は魔王の陣営で、支配者は『色欲のアスモデウス』よ」
どちらも聞き覚えのある名だ。特に後者。あいつの支配地域に関しては俺はかなり詳しい方だと自負してるぞ。といっても、俺の知ってる知識は、この世界にとって何年前かによるだろうけど。
さて、こんな身近な名前が出てきた以上、この世界は俺の知ってる世界の可能性が滅茶苦茶高まって来た。だが、まだ名前だけだ。確証には至らないな。
「その人たちって、危険な連中なんですか?」
「好戦的な陣営もいるから一概には言えないけど、この2陣営はどちらかというと友好的よ。ただ、彼らやそれに付き従う種族は、人間とは違って基礎的な力が全く違うの。ステータスのSSS~FFFだって、人間の中での強さの基準のようなものだしね」
「うわぁ……」
「彼らの国にも冒険者はいるのだけれど、出現するモンスターのレベルも比べ物にならないくらいの危険地帯なの。だからかの国を訪れるのなら、最低でもこの国に出現するモンスターを全て倒せるくらいの強さは欲しいわね」
まあ確かに、向こうからやってきた連中は、弱体化して尚強かった。それが一般的に求められる水準の強さだとしたら、確かに今行くべきじゃないな。けど、行けばきっとこの世界にやって来た理由は分かるはずだ。
強くなる目的はできたな。
「とりあえず、近隣の2国で生活していくには強さが必要だけど、争いが起きたりはしてないんですね」
「あら、ショウタくん聞いた事ない? 私が生まれる前にはこの国も何度か戦火に巻き込まれたみたいなのよ。けど、私が物心つく頃にはそういう衝突は少なくなって、今では完全に収束したみたい。理由は知らないけどね」
それは恐らく、地球にダンジョンが出現し始めたからかもしれないな。トップにいた連中が軒並み他所の世界に移動した事で、争いを継続できなくなったのか? いや、違うな。確か――。
――ザザザザ――
……ん? なんか記憶にもやが掛かってるな。
大事な事があった気がするけど、思い出せそうで思い出せない。
……これもアイツらの陣営に行けば、何か見えてくるのか?
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