ガチャ015回目:勉強会
「……読めん!」
『……プル!』
俺達はお姉さんに言われた通り、3の数字が刻まれた部屋にいた。
3番の部屋……というか、3の数字もいきなり出されたら理解はできなかっただろうが、1から順番に見れば理解出来た。これだけは、象形文字のように1本ずつ縦線が増えていくタイプだったので何とかなったのだ。
だが、問題は本の内容だ。どれを見ても何が書かれてるかさっぱりわからない。見知らぬ言語だが、文字の総数的にアルファベットと同数くらいはあるかもしれない。よくよくみればアルファベットの大文字に似てなくもないが、本当にその認識であっているのかも怪しいところだ。解読できればその内読めるようになるかもしれないが、俺の今の『知力』じゃまともに記憶する事も困難だな。
「イリスでも読めないか? 俺と違って『知力』は30あるだろ?」
『プル!? プル~……』
イリスは相変わらず俺の首元から先端をニュッと出して本を見ているが、やっぱり俺と一緒で全く分からんそうだ。アニメやら漫画やらは問題なく見れていたところからして、知識は俺と同種かつ同レベルってところなんだろう。つまり、今の俺が分からなければイリスだってわからない訳だ。
「はは、だよな。無茶言ってごめんな。これは俺が覚えるべきだよな」
『プルル~』
そうしていくつかの本を開いては閉じ、開いては閉じ、挿絵がついているものは最後までパラパラめくり……。そうして本棚を片っ端から制覇していると、図鑑のようなものが出てきた。これは……この辺の植生か?
「お待たせ~!」
「おわっ!?」
本に夢中になっていたら、お姉さんの接近に気付かなかった。慌てて本を閉じると、イリスもニュッと服の中に戻っていった。悪さをしてたわけではないが、イリスを隠してる後ろめたさからついドキッとしてしまったな。
本屋でエロ本読んで注意された子供じゃないんだから、これはちょっとビビりすぎだろう。注意しないと……。
「驚かせちゃってごめんなさいね。図鑑を見てたの?」
「あ、はい。この辺りで何が採れるのか知りたくて」
「勉強熱心ね~。貸し出す事はできないけど、ここにいる間は好きに読んでいいわよ」
「あ、ありがとうございます」
「それで、何か成果はあったかしら?」
正直に言うべきか……? でも、代筆をお願いしたし今更か?
「あの……」
「うん?」
「すみません、文字が読めなくて……」
「ああ、そうだったわね! じゃあ……この辺りで採れる素材と、常駐依頼の対象になってるアイテムを重点的に教えるわね」
「よろしくお願いします!」
「うんうん、素直でよろしい♪」
受付のお姉さん、優しいなあ。こんな見ず知らずの俺にここまで……ん? 待てよ?
今の俺の『運』はたったの4だ。最初値の0に比べれば天と地との差はあれど、俺の中での一般的な数字で見ればだいぶ低い方だ。この世界の住人の平均的『運』は知らないが、こんなにラッキ―な事が続いて良いのか? そりゃ、初期配置に俺の前の『運』が作用したって説は濃厚だし、そういう良い人に出会いやすい環境ってのもあるだろうけど、ただの善意でここまでしてくれるか……?
ああ、やばい。不安で疑心暗鬼になってきてしまった。けど、今この世界における不安要素って、実のところ路地裏から感じた視線くらいのものなんだよな。……じゃあやっぱり、お姉さんは信頼するべきか?
……うん、最初は信頼しなきゃ何も始まらないよな。失敗したらその時はその時だ。
「あの、お姉さんはどうしてこんなに良くしてくれるんですか?」
「そうね~……。ショウタくんとは昨日出会ってばかりだけど、真面目だし礼儀正しいし、自分の弱さも自覚してるわ。だから、仕事に慣れて来てもきっと依頼は1つ1つ丁寧にこなしてくれるだろうなって思うの。冒険者ギルドって、野蛮な人が多いからあなたみたいな人は結構貴重なのよ? だから先行投資ってやつね」
「な、なるほど」
……そんなに礼儀正しかったか? お姉さんにはまあ、年上の女性だしできるだけ丁寧にはしたけど、あのオッサンには相応の態度で返しちゃったんだけどな。あれはお姉さん的にはノーカンなのかな?
「ありがとうございます。それでその、お姉さん」
「あら、なあに?」
「お姉さんの名前を伺っても?」
「あら、伝えていなかったわね。ごめんなさい、私の名前はミランダよ。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」
そうして俺は、ミランダさんからこの『ガラナの街』周辺で採取可能なアイテムとその見た目、注意事項などを習いながら、常駐依頼について以下の事を教えてもらった
【討伐対象モンスター】
・ゴブリン
・キラーラビット
・フォレストウルフ
・フォレストラム
・オーク
【採取対象アイテム】
・リーフ草
・リフレス草
・解毒草
・シビレ花
・ドクテング
基本的にこの近辺に出没するモンスターとアイテムは以上であり、モンスターに関しては他にもいることはいるが数がそう多くはなかったり危険度が少なかったりと、討伐しても常駐依頼としての討伐報酬は支払われない可能性が高いらしい。その代わり、対象のモンスターが常駐依頼扱いされている街に行けば、他所の街で討伐したモンスターでもしっかりとまとめて換金ができ、素材についても掲示板で依頼されていれば報酬が得られるとか。
ただ、どうしても素材は劣化が発生してしまうようなので、『運』が悪いとダメにしてしまう事の方が多そうだな。……今の俺がやっても、大多数は駄目にしそうだし、余計な物は拾わないように気を付けよう。
「あとは、採取アイテムについての注意点ね。他のアイテムの重みで潰れちゃったり花粉やエキスが別のアイテムに付着すると、効能が変質したり低下したりするから、集めるときは専用のアイテム入れを用意する事をお勧めするわ。大袋にまとめて放り込むなんてしちゃダメよ。そして、1番大事なのは図鑑通りに採取する事。粗雑に扱ったって良い事なんて1つもないんだから」
「なるほど」
これも要注意だな。今の俺には『魔法の鞄』はない。あれもこれもと手にしたところで、碌な結果にならない訳だ。今までと同じようにやろうとしたところで失敗するわけだな。勉強になる。
「ありがとうございます! 勉強になりました!」
そう言って立ち上がると、ミランダさんも慌てたように立ち上がった。
「あ、待って待って。まだお話は終わってないわよ」
「え!? あ、すみません。早とちりしちゃいました」
「良いのよ。今得た知識を早く実践してみたいのよね。その気持ちは分かるわ」
さすがベテランっぽい雰囲気の受付嬢。こっちの機微にも聡い。
「ただ、せっかくの機会だし……ショウタくん。共通語を読めるように学んでいかない? これさえ覚えておけば、今後なんとかなると思うわ」
「良いんですか!? お金、無いですけど……」
「良いのよ。これから強くなって、いっぱい依頼を受けて還元してくれたら良いわ」
「ありがとうございます! そういう事なら、是非教えてください!」
そうして、ミランダさんによるマンツーマンレッスンが始まった。
ここまで来たらほぼ疑いようもなく、ミランダさんは善意の塊のような人と見て間違いないだろう。見知らぬ人間にここまで優しくできるなんて、頭が上がらないや。
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