ガチャ014回目:内緒話
異世界2日目。
カリンに起こしてもらった俺は、夕食同様、朝食2人前をイリスと一緒にぺろりと平らげ、冒険者ギルドへと向かっていた。
「イリス、今朝は起こしてくれてありがとな。危うく寝過ごしちまうところだった」
『(プル~)』
「やっぱ、思ってたより疲れてたのかな? それとも、レベルアップはしたけどこの身体での戦闘は初めてだったから、見えない所で疲労がたまってたとか?」
『(プルル~?)』
「もしくは、いつもの慣れ親しんだ布団じゃなかったからかな。……枕は最高級のイリス枕だったけど」
『(プルプル)』
独り言のようにブツブツと話しかけていると、目的の冒険者ギルドへと辿り着いた。そしてそこは、昨日とは打って変わって戦場と化していた。
「それは俺が狙ってた依頼だぞ!」
「うるせえ、早い者勝ちだ!」
「おい、誰だ俺の足踏んだの!」
「ちょっと、どこ触ってんのよ!」
「はいはいどいてどいて~!」
「いてえなコラ!」
「くそ、どけよ!」
「あぁ? なにすんだよ!」
「……あ~、カオスだな」
『(プル~)』
依頼が貼られた掲示板には、大勢の冒険者らしき連中が群がっていた。
掲示板には冒険者ランクごとに区切りが存在しているようなのだが、本来F~Sまで7つの区分があるにも関わらず、あそこの掲示板には4つの区分しか存在していないようだった。昨日は依頼がほぼ空っぽだったから判別はできなかったが、遠くから覗き込んでみれば、掲示板にはF、E、Dの3つとC~Sランクの全4区分に分けられているようだった。
恐らく、この地域には高ランク用の依頼というものがほとんど存在しないようだな。それであんな感じになってるんだろう。そして大混雑しているのは主にFとEの依頼で、俺のステータスであそこに入り混んだら死にかねない。圧し潰されてぺちゃんこになるのがオチだ。昨日のゴブリンやおっさんを相手したように、相手の動きを予測して回避する技術も1対1だからこそできた事で、集団相手には機能しないだろうしな。
うん、触らぬ神に祟りなし。今の俺なら、通常依頼じゃなく常駐型の依頼で十分だろう。幸い、掲示板前は大混雑でも受付エリアはまだ余裕があるようだ。
せっかくだし、昨日のお姉さんがいるラインにでも並ばせてもらうか。丁度聞きたい事もあったしな。
「お姉さんのラインは……中央だな」
そうして順番が回ってくるまで待つ事10分ほど。ようやく俺の番が回って来た。
「あらショウタくん、おはよう。よく眠れたかしら?」
「はい、バッチリです!」
お姉さんは俺を見ると、優しく出迎えてくれた。そして俺が掲示板ではなく真っ直ぐこちらに来たことも見えていたようで、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ショウタくん、ごめんなさいね。通常依頼はあそこから直接紙を取って持って来てもらう必要があるのよ」
「いえ、大丈夫です。あそこに飛び込む勇気はまだないですし、そもそもまともな依頼をこなせる自信はありません。なので昨日の常駐依頼について、何があるのか詳細を教えて頂ければと」
欲を掻いて町中で死ぬなんて、アホらしくて死んでも死に切れん。
「うんうん、その心がけも大切よね。分かったわ。けどここで長話はできないから……向こうの廊下を進んで、3番の部屋で待っててくれる? この人達の流れが捌けたら色々と教えてあげるわ。それと待っている間、中にある本は自由に読んでていいからね」
「わかりました、ありがとうございます!」
確かに、ここは受付だし相談に時間を掛けると後ろに並んでる人達にも迷惑になるよな。それにいきなりこの世界の本に触れるチャンスが巡って来るなんてな。この世界の情報に触れれば、成り立ちや歴史、世界情勢とかスキル、アイテムにモンスターまで、色々得られるチャンスだ! 今の俺に一番必要なものだと言って良い!
……問題は、俺が字を読めるかどうかというところか。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ごめんミランダ、お待たせ~!」
「ありがとうレイチェル」
「って、冒険者さん達は完全にはけちゃった後みたいね」
「ええ、そうね。だいぶ時間掛かっちゃったわ……。あの子、まだいてくれてるかしら」
「それなら大丈夫じゃない? さっきちらっと部屋を覗いて来たけど、熱心に本を読んでいたもの」
「そうなの? 良かったわ」
ミランダはほっと一息吐いた。彼は昨日冒険者になったばかりの少年だが、他に類を見ないほど貧弱なステータスにもかかわらず、腐らず心根が真っ直ぐなため、応援してあげたくなってしまったのだ。
「あ、でもあの子、代筆を頼んでいたわね。文字、読めるのかしら……?」
「どこから来た子かにもよるけど、流れ者の子には難しいんじゃない? けど、本を粗雑に扱っている様子も無かったのよね。学が無い子には思えなかったわ」
「ねえねえミランダ。あの子文字読めないってほんとなの? 隣で見てたけど、物腰丁寧だし、教養がある感じがしたわよ」
我慢できなかったのか、右隣のレーンを担当していた受付嬢も顔を覗かせた。
そしてそれは左隣の受付嬢も同様だったらしい。
「あ、それあたしも思った~。あれで文字読めないのは冗談でしょ。冒険者になったら気が大きくなりがちなのに、ミランダの大きな胸じゃなくてきちんと目をみて話してたわ。商家の子や、無欲な神官見習いとかじゃないの?」
「あなた達ねぇ……。まあ、今は誰も並んでないから良いけど」
「にしてもミランダ、随分あの少年にお熱じゃない。珍しいわね、ああいう若い子が好みなの?」
「そんなんじゃないわ。流れ者の子だし、注意するに越した事はないでしょ。それに、ギルマスからも流れ者には注意するように言われたじゃない」
「ほんとにそれだけ~?」
「それだけよ、それだけ!」
「おーいお前ら。お喋りに夢中になってんじゃねえぞ。客が並んでるだろー」
受付のレーンに1人の男が立っていた。だが、その人物を視界に入れた受付嬢は誰もが顔をしかめた。
「グレインさんは客じゃないので」
「仕事しない冒険者に価値はありません」
「昨日彼を笑いものにしたこと、忘れてませんからね」
「どうせすることないんですからお酒でも飲んでれば?」
「つ、つめてぇ……」
グレインは受付嬢からぞんざいに扱われ、涙を禁じ得なかった。
普段の行いから自業自得ではあったが。
「しゃーねえ、なら仕事してやるよ」
グレインは表情を切り替え、机に身を乗り出し小声で話し始めた。
「ミランダ、坊主をしばらくここから出すな。外で裏路地の連中が目を光らせてる」
「裏路地ですか?」
「これは価値のある情報ですね」
「彼、やっぱりどこかの御曹司だったり?」
「何か情報を掴んだんですか?」
「恐らく、昨日の短剣が目的だろう。アイツの正体はいまだ不明だが、あのステータスで俺の『威圧』にビビらなかった以上、特殊な人間であることに変わりはない。だからこれは念のためだな。俺はその間に裏路地の連中とお話をしてくる」
グレインの判断に、ミランダは頷いた。
「わかりました。お昼まで足止めはしてみせますが、彼のお昼代はグレインさんの懐から出しても構いませんね?」
「何っ!? 俺が出すのか!?」
「仕事をするといったのはグレインさんではないですか」
「男に二言はないですよね?」
「無価値ではないと証明してください」
「お酒を我慢すれば食事代くらい出せるでしょ」
「……分かったよ、出せばいいんだろ、出せば。……はぁ」
グレインは大きく項垂れるのだった。
読者の皆様へ
この作品が、面白かった!続きが気になる!と思っていただけた方は、
ブックマーク登録や、下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へと評価して下さると励みになります。
よろしくお願いします!









