ガチャ011回目:換金
次話の投稿タイミングを12:10⇒12:30に変更します
グレインのおっさんは本気で俺の事を気に入ってくれたのか、尚も俺に手を出そうとして来るが、受付のお姉さんが止めに入ってくれた。
「グレインさん、それ以上彼に手を出されるのであれば、3日間ギルド内での飲酒を禁止させて頂きますが?」
「うげっ!? わかった、もうなにもしねえよ」
おっさんは両手を上げて一歩下がった。やれやれ、やっと気が抜ける。
このステータスじゃ一発受けるだけで骨身にこたえそうだったからな。ずっと臨戦態勢は疲れるんだ。
「それではショウタくん、晴れて冒険者になれましたけどどうします? もう夕暮れ間近ですし、今から依頼を受けても門が閉まるまでに戻って来れるかどうか……」
ああ、やっぱり俺が目を覚ましたのは昼過ぎだったのか。確かにそんな時間じゃ外に出るのには遅すぎる。お姉さんが心配してくれているのは、俺の残金の問題を考えてくれているんだろう。ザインさんから借金してるってことは、宿代すらまともに持ってない事も分かってるだろうしな。
「今日はやめときます。代わりに、この短剣が売れれば良いなと思ってまして、買い取ってくれる武器屋とか紹介してもらう事ってできますか?」
「おー、随分輝いて見えるが、これはお前さんがやったのか?」
「企業秘密です。それでお姉さん、どうでしょうか」
「そうですね、元は『鉄の短剣』に見えますが、刃こぼれもなくしっかり研がれているようですし、管理された武器のように見えます。これなら売りに出しても問題はなさそうですね」
ほっ、良かった。
受付嬢の目をもってしてもそう評価されるのであれば、誰もこれが元はゴブリンが持っていた薄汚れた短剣などとは思うまい。……イリスなら安く買い叩かれている武器も簡単に整備して高額で再販することもできるだろうけど、あんまりやり過ぎて変なのに目をつけられるのも厄介だしな。イリスの力はなるべく借りないほうがいいだろうか?
そうしてそのままお姉さんからおすすめの宿と、そこの最低宿泊費を聞いた俺は真っ直ぐに武器屋にやって来た。その武器屋は冒険者ギルドから徒歩一分程度の距離に存在していて、大きくはないが内部には数々の武器や防具が所狭しと並べられており、俺の少年心をくすぐらせるには十分すぎる雰囲気だった。
そんな店の店主のおじさんは『磨かれた鉄の短剣』を売りつけてくる俺の存在を訝しんでいたが、受付の姉さんの紹介であることやグレインのおっさんの名前を出せば態度がコロっと変わり、買い取りに応じてくれた。
「この『磨かれた鉄の短剣』は1本銀貨1枚、合わせて銀貨2枚で買い取ってやる。次にお前さんが希望した冒険者用のベルトに鞘、財布にアイテム用の背負い袋、最後にそれらを隠すためのマントで、合計銀貨1枚と大銅貨1枚だ。だが、珍しい武器を持って来たからな。銀貨1枚に負けといてやる」
「ありがとうございます!」
買い物をする事である程度わかった事だが、この世界の貨幣の種類は基本6種類あるらしい。
大金貨:1億G
金貨 :100万G
大銀貨:10万G
銀貨 :1千G
大銅貨:100G
銅貨 :1G
上から順番にこうなるようだ。更に上があるらしいが……今は関係ないな。
こうやって並べてみると、大貨幣から次のランクへの必要枚数は10枚だが、同じランクから大貨幣に行くまでは100枚必要と。まあ割と分かりやすい分類ではあったな。
「だが、コイツは基本スペックで言えばただの『鉄の短剣』と大差はねえ。俺の見立て通りなら、この輝きを失えばコイツはただの『鉄の短剣』に逆戻りになるだろうな」
流石武器屋。武器の本質をちゃんと見極めている。
「だから、次にもしコレと同じ物を持って来たとしても、この価格じゃ買い取らねえ。精々大銅貨5枚ってところだ。分かったな?」
「はい、分かりました!」
店内を見れば、ただの『鉄の短剣』は大体大銅貨4枚から5枚程度で販売されていた。
つまりは、物珍しさと俺に対する先行投資、それから未知の研ぎ技術を見定めるために高く買い取ってくれたってところだろうか。……武器磨きをメインに稼ぐことはしないまでも、ゴブリンを倒せば『錆びた短剣』はほぼほぼ得られるだろうし、ほどほどに磨いて普通の『鉄の短剣』として小金を稼ぐくらいなら良いかもしれないな。でも『運』を高める前にやりすぎるのは良くないからな……悩ましいな。
「それじゃ、また来ます!」
そうして武器屋を出れば、外は陽が傾き空は赤く染まっていた。そして武器屋の入口には、見覚えのあるおっさんが壁にもたれかかっていた。
「よお、買い物は終わったか?」
「あれ、おっさん。何してるんだ?」
「なあに、野暮用よ。俺もここの武器屋には世話になってんだ」
「なら入ればいいのに。客は俺しかいなかったぞ」
「ははっ、そうするよ。じゃあな」
そう言ってグレインのおっさんは武器屋に入って行く。
「なんだったんだ? ……ん?」
不意にどこからか視線を感じた。この街に来た時に感じたのと同じ連中だろうか?
やっぱあの時に目を付けられてたんだろうか。けど、武器そのものはもう別の装備に変えちゃったし、残りの1本も鞘に入れたからこれ以上目立つ事はないはずなんだが……。
そう思っていると、煩わしい視線が消えた気がする。こっちもなんだったんだ?
「まあ良いか。イリス、宿に向かうぞ」
『(プル!)』
◇◇◇◇◇◇◇◇
『ゴーンゴーン!』
街中に鐘の音が響き渡るころ、冒険者ギルドに紹介された宿、『夜のとばり亭』に到着した。そこでは、1人の幼い少女が出迎えてくれていた。
向こうで言うと小学校低学年くらいか? 幼いのに立派だなぁ。
「いらっしゃいませ! お食事ですか? お泊りですかー?」
「両方いける?」
「はい! 夕食とお泊りがセットで大銅貨3枚。朝食付きなら、銅貨50枚プラスです! それから3連泊してくださるなら、おまけで銀貨1枚にしちゃいます!」
「商売上手だねー。じゃあ3連泊でお願いしようかな」
「ありがとうございます!」
うん、元気で可愛らしくて大変結構。うちの娘達もいつかこんな風になるのかなぁ……。楽しみではあるが、それを見届ける為にも早く強くなって、帰れる算段を見つけなきゃな。
「夕食の準備はすぐにできますけど、どうされますかー?」
「あー、じゃあすぐに頂こうかな~。……あ、ごめん! さっき3連泊にするって言っちゃったけど、やっぱ無しで!」
「ええーっ!?」
「その代わり、夕食と朝食を2人分で作ってくれないか。ちゃんと料金は払うからさ」
「えっと、お兄さんはいっぱい食べられるんですか?」
「ああ。俺の胃袋は結構な大喰らいでさ。1人前だけじゃ物足りなくなっちゃうんだよ」
やろうと思えば10人前だろうとペロリと平らげる無限の胃袋持ちが、俺のお腹の上でプルプルと震えているのだ。財政状況は分かってるだろうから、1人前でも文句は言うまい。
『(プルプル!)』
イリスがいい加減我慢の限界だと空腹を訴えている気がする。この金はイリスが用意してくれたようなものなのだ。俺としても早く食べさせてやりたい。
「わ、わかりました! ではえーっと、えーっと」
少女が指を折って必死に数えている。なんとも愛らしい。
「食事が1食1人前で銅貨50枚、夕食付き宿泊が大銅貨3枚なら、1人2泊2食2人前付きで大銅貨9枚だと思うんだけど、合ってるかな?」
「は、はい! 合ってるとおもいます!」
「了解。そんじゃ間違っているようなら後で教えてくれな」
「はい! それでは改めまして、ようこそ『夜のとばり亭』へ!」
『(プル~~!!)』
いやー、良かった。実は俺も結構腹ペコだったんだよな~。
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