ガチャ010回目:お約束
冒険者証を貰って喜んでいると、服の中のイリスも嬉しそうにプルプル震えている。あとで見せてあげなきゃな。
そう思っていると、お姉さんは申し訳なさそうな顔で耳打ちをしてくる。
「それでショウタくん。発行してからこんな事を言うのも手遅れだけど、ゴブリンを倒したうえでこのステータスだと、冒険者の活動をしていくのは、ちょっと……」
あー……。この反応を見る限り、ここに表示された全ステータス『FFF』というのは、とんでもなく弱いんだろうな。けど発行そのものを履行してくれたのは、ゴブリンを倒したという俺の発言から、問題ないと判断してくれてたんだろう。
「冒険者に向いてないってことですよね。大丈夫ですよ、周りからもよく言われていた事ですし、覚悟の上です」
「そう……全て承知の上なのね」
「それにここに書かれてるように、こんな俺でもゴブリンには勝ててますから」
なんなら1体は、素手からの武器奪取だ。本当の初心者ならこんな真似はできまい。
「……分かりました。ではショウタくん、今からギルドの説明を始めますね」
「お願いしますっ」
そうして最初に教えられたのはSからFまであるランクの説明。そして掲示板に貼られている依頼書の受注ルールと、失敗時の違約金と報告義務などについて教わった。
受注は自分より1ランク上の物までは受注可能だが、それ以上は不可能。また、成功報酬も記載通りだったりすることもあれば、完全歩合制で、出来栄え次第で増減する場合もあるという。そして失敗時の違約金は、同ランクやランク以下の依頼であれば記載通りで、自分より上のランクを受けて失敗した場合は1.5倍になるという。
自分の実力を過信して、無駄に上のランクに挑むなということだろう。あと、ランクについては地球と大差のないよくある内容だった。詳細は割愛するが、要するに上に行くほど偉くて、皆から尊敬されるという話のようだ。
「次に、常駐型の依頼についての説明をするわね」
常駐型の依頼は、特定の誰かが依頼を出すのではなく、この街の領主や自治体、商業組合から出されている恒常的な依頼であり、基本的に誰でも受けられて、条件さえ満たしていれば何度でも達成可能かつ違約金も存在しないクエストなのだそうだ。ただ、そのメリットがある反面、報酬が安いらしい。
その常駐型には討伐と採取の2種類があり、討伐は冒険者証に記載された【討伐モンスター】が、この地域で指定されているモンスターならその場ですぐに換金してくれるという仕様のようだ。
「今回の場合で言えば、ショウタくんの討伐したゴブリン3体ね。ゴブリンもそうだけど、モンスターは1体討伐する度に報酬が発生するの。レベル2が2体と、レベル3が1体だから、合わせて銅貨50枚。50Gね」
「おおー」
この世界での単価はGなのか。
てことは、レベル2は銅貨15枚で、レベル3は20枚か。これがどのくらいの価値かは分からないけど、50Gってことだし端金なんだろうな。となると銀貨って何Gなんだ?
「お金は今すぐ用意出来るけど、渡しておく? それともギルドに預けておく?」
「預けておきます。50Gあったところで大したことできないでしょうし」
「分かったわ」
お姉さんが手元の機械に冒険者証を設置して何かを操作した。そうして戻って来た冒険者証の表面には『預金50G』の記載があり、裏面をタップすると先ほどとは違った表示になっていた。
*****
【討伐モンスター】
なし
【精算済みモンスター】
ゴブリンLv2:2体
ゴブリンLv3:1体
*****
おお、こうなるのか。そして精算済みのリストは非表示も可能と。うーん、この異世界、思っていた以上にハイテクだな。預金通帳代わりにもなるし、便利だ。
これはこの世界が全体的にそのレベルまで文明が進んでいるのか、それとも冒険者証を作るアイテムが、たまたま『遺産』だったからこそできたと判ずるべきか。……悩ましいが、文明レベルを推察するにはまだ情報が少なすぎるな。
「理解して頂けましたか?」
「はい、ばっちりです!」
でもやっぱり、前の世界での情報が入ってなくて本当によかったな。懸賞金掛けられてた奴さえ倒してきたし、ゴブリン単独で見ても、あいつらなんて軽く4桁は蹴散らしてきたからな。そうなったら、ゴブリンだけでギルドを破産させてしまうんじゃないかって気さえしてくる。
「あとは注意事項ね。良い? ちゃんと守らないと最悪犯罪者になっちゃうからね」
そして最後に教えて貰ったのは、冒険者として活動する上で最低限のルールだった。
1つ、他の冒険者と喧嘩になっても、武器は抜かないこと。どうしてもお互い相容れない時はギルド立会いの下、正々堂々決闘をすること。
2つ、一般人に危害を加えない事。
3つ、依頼者を恐喝しない事。
4つ、依頼者に値上げ交渉はしない事。
5つ、仲間を見捨てない事
これは、本当に最低限の道徳的な内容だった。
「これだけですか?」
「そう。たったこれだけを守れないお馬鹿さんが多いのよ。ショウタくんも気を付けてね」
「おうおう、お前が新人か?」
おっとぉ?
いつの間にか背後に巨漢の男が立っていた。こんな分かりやすく存在感を垂れ流している男の存在を、真後ろに近付かれるまで全く気付けなかったなんてな。
本当に勘が鈍ったものだ。
てかコイツ、どこかで見たことがあると思ったが、さっき飲んだくれてた奴じゃん。
「おいおいおい、マジかマジか!? お前全ステータスFFFかよ! ここまで弱い奴は初めて見たぜ! ハハハ!」
男が笑うと、あちこちから失笑が飛んでくる。普通なら羞恥に耐える場面かもしれんが、俺は逆にこの弱さに懐かしさすら感じていた。『レベルガチャ』を得られるまでは、俺の周りは大体こんな感じだったよなぁ。うん懐かしい懐かしい。
「グレインさん! 他人のステータスを覗き見るのもそうですが、それを公開するなんてマナー違反です!」
「お姉さん、それさっきのルールに含まれてなかったですけど……」
「あれは冒険者のルールであって、今のは人としての最低ルールです」
つまりこのオッサンはただのクソ野郎ということか。
「へっ、こんな雑魚が冒険者になったって早死にするだけだ。お前がどこで死のうと構わねえが、モンスターの餌になったらそれだけ連中の数が増えるだろうが。他人に迷惑かける前にとっとと帰りな。発行手数料は俺が恵んでやるからよ」
と思いきや、割とそれなりの気遣いはあったようだ。口は悪いしやり方は改めた方が良いと思うけど。
俺の『運』は悪いが、ここで折れたり弱気な態度を見せるのはもっと良くないだろうな。悪い状況を良くするか、より悪くするかは俺の選択次第だ。
「ご心配どうも。けど俺は1人でゴブリンだって倒せてるし、自分の弱さを誰よりも理解している。だから無茶はしないし、モンスターにだって喰われてやらないよ」
「……おい坊主。お前、俺が怖くねえのか?」
「ん?」
なんかさっきから妙な圧力を感じるなと思ったら、コイツもしかして……。
「『威圧』か? 俺には効かないぞ」
「おお、お前特殊スキルについて知見があるのか。その上その胆力! 気に入ったぞ坊主!」
おっさんは笑いながら手を振り上げた。この動線は、間違いなく俺の背中を叩こうとしている!
俺は咄嗟にしゃがんで回避を選択した。
「……おい、避けんなよ。興が醒めるじゃねえか」
「言ったろ、俺は弱いんだ。例え背中だろうと、アンタのそれを食らってタダで済む訳ないだろ」
「ははっ! ちげえねえや!」
どうやらこのおっさんに気に入られたらしい。
とりあえず、初っ端から敵を作ったりするような、選択肢を間違ったりすることは無かったみたいだな。
うおっ! だから叩こうとすんなって!
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