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「……ストロベリークォーツとはなぁ」
自身の身体に手足を絡ませたまま息をつく少女を雑に引き剥がしながら、シルヴァンが少女の手の甲に輝く宝石を見た。
「胸とは言わねぇがせめて首にありゃ重宝したのによぉ」
そのシルヴァンの言葉に、コーラルピンクの少女──ハピ・アメルヘルツが「えへへ」と笑いながら眉を下げた。
そこへ少し遅れて走り寄ってきたアリカが頬を膨らませ、シルヴァンを見上げて目を細める。
「うそうそ、今どき宝石の場所で加護の強さが変わるみたいな迷信言うのありえない。いくら隊長でも最低ですからね!」
「ふんっ」と顔を背けたアリカの瞳がふと、地面に横たわったままのユーリを捉えた。
「……やだ……っ!」
目を見開いたアリカは、動かないユーリの元へと走り寄る。
「ユーリ!!」
傍らに膝を着け、血塗れのユーリの胸に耳を押し付けたアリカの瞳が薄く涙の膜を張る。
アリカは僅かに口の端を歪ませるも、すぐさま歯を食いしばってまだ微かに息のあるユーリに両手を差し出した。
青白い顔をしたリオルも二人の元へ駆け付け、祈るようにユーリの冷たい手を握る。
「……すぐ治してあげるわ…っ!」
ユーリの血で汚れた自身の頬を気にする素振りすら見せず、アリカがエメラルドに力を込める。
オーロラのように流れる緑の淡い光が、既に夜の帳を下ろしかけている薄暗いグラウンドで一際眩く輝いた。
ユーリの胸に空いた小さな穴が内側から修復され、押し出された銃弾が転がり落ちる。
皆が固唾を飲んで見守る中──ユーリが一度小さく咳き込み、ゆっくりとその目を開いた。
状況が掴みきれないのか、ぼんやりとアリカとリオルの顔を眺めていたユーリが突然ハッと息を呑み、勢いよく飛び起きる。
「ちょっと!まだ動いちゃ──」
制止するアリカの言葉に耳を傾ける事なく、ユーリははっきりとした口調で言った。
「あいつだ」
「あの日……五年前、森で会った変な奴。──敵は、あいつと同じ顔してた」