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鳴り響いた爆発音に意識を取られたシルヴァンの加護が途切れる。
落下するユーリを受け止めるため、シルヴァンが再度ジルコンを光らせ力を込めた。
しかし。
極度の疲労が襲う中、殆ど気力だけで保っていたそれが途切れたのはあまりにも致命的だった。
一瞬巻き上がった風がふっと凪ぎ、首元のジルコンから輝きが消える。
「……やべぇなこりゃ」
低い声で呟きながら、シルヴァンが視線だけで周囲を見渡す。
シルヴァンの隣には、長時間の繊細な加護の使用によって既に限界を迎えているリオルと、後方には複数の負傷者とそれを守るように結界を張る者達。
この場には、落ちてくるユーリを受け止められる者など誰ひとりとしていなかった。
その間にも、ユーリの身体は確実に地面へと近付いていく。
「ユーリィィィ!!!」
目を見開いたリオルの絶叫が響き渡る。
リオルの目の下のサファイアに光が灯り、無情にも消える。
指先に浮かべた水の玉が形を保てず弾けるように霧散した。
「……どうしてっ!!出ろ!出ろよっ!!……ユーリィ……っ!」
リオルが眉を下げ、両手で青ざめた顔を覆う。
指の間から覗く瞳はただ落ちてくるユーリだけを追い、爪が頬を抉って真っ赤な線を描いた。
ユーリの身体が地面に叩きつけられるまで、あと僅か──。
何度も加護の発動を試みては失敗を繰り返していたシルヴァンが奥歯を噛み締め、落ちてくるユーリへと一歩足を踏み出した。
自身の身体で受け止めようと腕を伸ばす。
遥か上空から投げ出されたユーリを生身で受け止められるはずがない事を知りながらも、シルヴァンは動き出す身体を止められなかった。
その時──シルヴァンの視界を、コーラルピンクが埋め尽くす。
身体にずしりと重たい何かが伸し掛り、背中に小さな衝撃が走った。
「風を!!」
彼が状況を把握するよりも早く、少し離れたところから誰かの声が耳を刺す。
シルヴァンはそのひと言で全てを理解したかのように、にやりと口角を釣り上げた。
首元のジルコンが瞬く間に光を取り戻し、強い風が地面を一気に駆け抜ける。
そのやり取りの間にも落ち続け、地面すれすれにまで迫っていたユーリの身体がふわりと優しく着地した。
「……ぷはぁっ!」
シルヴァンの腕の中で、コーラルピンクの瞳の少女が大きく息を吐き出した。