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「僕もやつのように飛ばしてください」
ユーリを飛ばした後も爆弾の処理に休む事なく当たっていたシルヴァンの背中に、ノーランの低い声が届いた。
「ここでは僕の炎は役に立たない」
ノーランは畳み掛けるように言葉を続け、シルヴァンの背中をじっと見つめる。
しばらく黙ったまま返事を待つも、シルヴァンの背中は変わらず沈黙を守り、降りかかる爆弾をただ空へと受け流し続けるだけだった。
「聞いているんですか」
痺れを切らしたノーランが、シルヴァンの前へと回り込む。
「……っ!」
そして、その顔を見て息を呑んだ。
ノーランの真っ赤な瞳が、額に大きな汗の粒を浮かべ、眉間に深い皺を刻みながら苦しそうに短く呼吸を繰り返すシルヴァンを捉える。
飛空挺の侵攻開始時からは既に三十分以上が過ぎており、その間彼は降り注ぐ爆弾の殆どをひとりきりで防いできた。
多すぎる爆弾の数と、それをひとつひとつ正確に拾う緻密な風の制御を休む事なく繰り返してきたシルヴァンの限界はそう遠くない。
「……っ!……おい!誰か!隊長を補助できる者はいないのか!」
ひと目でそれを悟ったノーランの怒声が、砂埃と爆風の飛び交うグラウンドを駆ける。
しかし、返ってくる声はない。
この場の誰もが自身の命を守る事に必死で、他者に気をやれる余裕などとうになかった。
──全てが後手に回っている。
一雫の汗がノーランの頬を伝って地面に染みを作った。
「……一体どうすれば……っ!」
呆然と立ち尽くし、悲痛な声で呟いた彼の耳に、突如──これまで経験した事のないような轟音が轟く。
茜色が降り注ぎ、全員が弾かれたように顔を上げ、音のした方へと視線を向けた。
「……あれは……!」
巨大な飛空挺が真っ二つに破裂し、小さな影が落ちてくる。
その影──ユーリを確認したシルヴァンが「……最悪のタイミングだ」と額の汗を雑に拭った。