第13話
土煙が舞い、鈍い音とともにリオルが地面に倒れ込んだ。
誰もが一切の加護を禁止され、その身ひとつで組手を交わす。
今しがたユーリに吹き飛ばされたリオルが息を切らせながら立ち上がり、苦笑いを浮かべて呟いた。
「……少し前までは、授業中に寝ないようにするのがいちばんの課題だったのにな」
向かいで構え直していたユーリが、肩で息をしながら顔をしかめる。
「国が“十六歳以上を徴用”って言い出してからだろ。教師まで軍に取られて、残されたのは俺らだけで、さ!!」
目の前で構えたリオルに向かってユーリが拳を振り下ろし、リオルはそれを咄嗟に両腕で防いだ。
「うわっ!……そう、だね。家にも帰れなくなっちゃった、し!!」
二人は言葉を交わしながらも組手を続け、リオルが大きく拳を振り上げたその時──派手な音を立てながら、すぐ近くでゼクが背中から地面へと叩きつけられた。
「貴様ら、あの一件があってから既に三ヶ月も経ったというのにまだそんな事を言っているのか」
ゼクを投げ飛ばした張本人──ノーランが、眉をしかめてリオルとユーリにため息をつく。
──その声に気を取られたユーリの頬に、リオルの拳が勢いよく食いこんでいた。
「……うわぁっ!ユーリ……っ、ごめんね!!」
訓練だというのに、慌てふためいたリオルが小さな水の玉を出し、腫れ上がったユーリの頬へと押し当てる。
そんなリオルを片手で制し、ユーリがノーランへと詰め寄った。
流れ落ちる鼻血を腕で拭いながら、見上げるように睨みつける。
「何なんだよお前は……毎度毎度絡んで来やがって……っ」
「それが嫌なら浮ついた己を省みる事だな」
ノーランが腕を組み、冷ややかな目でユーリを見下ろした。
ユーリが無言で低く構えると、ノーランは一歩も引かずに真正面から歩み出る。
少しの沈黙の後、先に仕掛けたユーリが大きく一歩踏み込んで拳を振り下ろし──
「甘い」
ノーランは短い言葉と同時に、その拳をあっさりと避けた。
ユーリが体勢を崩したところ、腹部に目掛けて鋭い肘が叩き込まれる。
「ぐっ……!」
息が詰まり、ふらついた身体が後退した。
それでもなお食い下がるようにユーリが拳を振るうも、無駄のないノーランの動きに軽くいなされ背中を取られる。
「集中しろ。感情に走るな」
背後から放たれたノーランの一撃に身体がよろめき、一度ユーリが間合いから逃れるように距離を取った。
「はぁ……はぁ……クソっ!」
汗が頬を伝い、顎の先から地面へ落ちる。
ユーリは肩で息をしながら今も変わらず涼しい顔のノーランを睨み据え、強く拳を握りしめた。
──こんなにも差があるっていうのかよ。
あの事件で痛い程に思い知った自身の無力さが、抉るようにしてユーリの胸に突き刺さる。
「……ざ…けんなよ……っ!!」
ぶわり、と。
ユーリの身体の奥底から、熱が溢れ出す。
次の瞬間、拳の先から漏れ出るように──淡いルビーの光がその熱を孕み、大きな炎となって立ち上った。