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穏やかな春の風が教会を包むその日、一人の赤子に『晶授の儀』が静かに執り行われていた。
祭壇に置かれたゆりかごにどこからか温かな光が降り注ぎ、中で眠る赤子をゆっくりと包み込んでいく。
やがて片方の瞳に埋まっていた黒い石が柔らかな輝きを帯び、金を散らしたようなネイビーブルーの宝石へと変化した。
それに続けて雪のように真っ白だったもうひとつの瞳と髪に、そのネイビーブルーが溶け出すように色づいていく。
そんな様子を窓の外から覗き込む、好奇心に満ち溢れたツインテールの少女──アリカと、アリカの肘に押されて顔をしかめる少年──ユーリ。
その二人のやや後ろから背伸びをして中を覗きこむおかっぱ頭の少年──リオル。
三人は揃って息を呑んだまま、温かな光の中の儀式に目を奪われていた。
「見て見て、あの子の夜空みたいに綺麗な瞳!」
窓の向こうに目を輝かせながらアリカが声を弾ませ、後ろでリオルが目を細める。
「ラピスラズリかな?」
「へぇ、珍しいな。瞳に石を宿してるのか」
アリカの肘を払いのけながら、ユーリも物珍しそうにぼそりと呟いた。
この国では赤子は皆、白い瞳と白い髪、身体のどこかに黒い石を宿して生まれ落ちてくる。
一歳になると『晶授の儀』によって身体に宿す石が宝石になり、それに応じる特殊な力を授かると同時に、宝石の影響を受け瞳と髪の色も変わった。
──ゴーン
街の時計塔が十五時を告げる。
「……あ!そうだ!夕方までに森へ行かなきゃ」
その音色にリオルが顔を上げ、何かを思い出したかのようにぽんと手を叩いた。
「なんかあんのか?」
そんな彼に視線を移し不思議そうに首をかしげたユーリに、リオルがにこりと笑顔を向ける。
「あのね、姉さんに赤ちゃんが出来たんだ!でも悪阻でずっと辛そうだから薬草を取りに行こうと思って」
「うそうそ!エアリエル姉様に赤ちゃん?すっごくおめでたい事じゃない!」
アリカが両手の指を絡ませ、「きゃーっ」と感激に声を上げながら飛び跳ねた。
「なら、さっさと行こうぜ」
小さく口元に笑みを浮かべたユーリが、返事も待たずに踵を返し歩き出す。
「へ?一緒に行ってくれるの?」
ぽかんと口を開けるリオルにアリカが可笑しそうに笑った。
「何言ってんの!そんなの当たり前でしょ!エアリエル姉様のためだもの!」
彼女もユーリの後を追うように歩き出し、数歩進んだところで「早くー!」とリオルに振り返る。
少しの間固まっていたリオルも、ぱっと顔いっぱいに笑顔を浮かべると二人の元へと駆け出した。