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ヴィルニア村:1


「【旧】オラシオンは天へと昇る」を設定プロット完全見直しして全て書き直した新バージョンです。

旧版は削除しました。旧版読んでくれた方、ありがとうございます。新作もお楽しみいただければ幸いです。よろしくお願いします。



 空は雲一つない晴天。穏やかな風も流れ、比較的温暖な気候が流れている。

 太陽の光を浴びて嬉しそうに揺れる木々や草花で生い茂る森の中は、小動物や小鳥達が闊歩していた。

 ――そんな穏やかな環境を切り裂くように、森の中で爆音が轟く。

 その音に驚いて動物や鳥達は我先にと逃げ出し、生い茂っていた木々は爆風によって纏っていた翡翠の葉が何枚も抜け飛んで行った。


 「バカヤロー!森の中で火魔法使う奴があるかー!」


 爆発によって生じた黒煙は、森の一部を覆う程大きくなっていく。

 その黒煙から逃げるように、バッ!と二人の人影が姿を現した。

 漆黒の全身鎧(フルアーマー)を纏い、身の丈程の大剣を背負っている、鎧越しからでも分かる程鍛え上げられた筋骨隆々な前髪をかきあげている短髪な強面の男と、膝上までの朱色のスレンダードレスに包み、金色の花模様で装飾された黒のマントを肩から羽織っている、炎のように赤い髪を揺らす妖艶な女。その女の手には、金色の装飾が施された、先端に透明な水晶がつけられた杖が握られている。

 二人は所々装備を燃やした跡を残しながら、必死の形相で走っていた。

 横並びに走る中、男が隣を走っていた女に冒頭の台詞を言いながら怒鳴る。青筋を立てて怒鳴る男に、女はギッと睨みつけながら叫んだ。


 「しょうがないじゃないのよ!あのモンスターには火魔法が最も有効なんだから!」


 「だからってあんな生い茂ってるところで撃つ必要があるのかってんだ!もっと火が燃え移らねえ場所でやれよ!!」


 「はああ!?私が魔法を撃たなかったら、貴方死んでたかもしれないのよ!?まずはそこに感謝するべきじゃなくって!?!?」


 「いや、それには感謝してるがそれとこれとで話は別……ッ!?」


 ギャーギャー!と言い争っていると、後ろをちらちらと確認していた男が急に顔色を変える。

 次の瞬間、男は「あぶねえ!」と言いながら、女を押し倒した。「きゃっ!?」と可愛らしい悲鳴を上げながら、女は男に押し倒される。

 刹那、女のいた場所に、ヒュンッ!と音を置き去りにしながら何かが通り過ぎた。

 それは勢いを無くすとゴトンと地面に落ちて転がる。先端を緑の液体で垂らしている銀の針。しかしそれは針というには太く、大きかった。男の腕程ある大きな針は、刺されば一溜まりもないだろう。


 「うっそだろ……!」


 それを見た男が、後ろを振り返る。

 男達の背後には、女が起こしたであろう爆発の名残がまだ残っている。黒煙は充満し、木々に火が燃え移っているのが目視できる。

 そんな中で、黒煙を切り裂くように『ソレ』は現れた。

 ジジジと羽根の音を鳴らす『ソレ』は、男達の方を確かに見ながらギィー、ギィーと鳴き声を発している。下半身が大きく太った橙色の体躯からは、まるで生え変わるかのように先程地面に落ちた針と酷似しているものが生えてきていた。

 身近に存在する『蜂』を彷彿とさせる()()()()『ソレ』は、男達の方を見てゆっくりと近づいてくる。ギィー、ギィーと金切り声のように聞こえてくる鳴き声を聞いた男は、覚悟を決めて立ち上がり、背負っていた大剣を手に構えた。その隣では女も立ち上がり、杖を掲げて構える。


 「次も躊躇なく火魔法、使うから」


 「クッソ……後でどやされたら一緒に弁明してくれよ!」


 近づいてくる『ソレ』から一度も目線を逸らさない。

 最適なタイミングで、一気に仕留めなければならない。目の前の『ソレ』は、長引けば長引く程仲間を呼び寄せて、獲物が疲労で弱ったところを集団で攻撃する――『モンスター』だ。

 これ以上長引いてはさらに仲間を呼び寄せて、こちらの状況が不利になってしまう。それだけはなんとしても避けなければならない。

 

 「……【Flam/Gran……】」


 女が迎撃する為に、詠い始める。女が詠い始めると、彼女が持っている杖の先端が赤色に光だし、次の瞬間、杖の先端に集まるかのように火球が生成され始めた。

 それを聞いた男が身を屈め、一歩踏み込む。ふう、と息を吐いて、身体の緊張を解す。

 ジジ、ジジとモンスターが近づいてくる。モンスターの集団が、体躯から生えた針を男達に向ける。

 

 (こりゃ、一発喰らうのは覚悟しなきゃダメだな)


 あの量の攻撃を全て躱すことは、男には不可能だ。

 一発、二発はモロに喰らうのを覚悟した男は、行くぞとさらに一歩足を踏み込んだ、その時だった。


 「――!?」


 突如、後方にいたモンスターの内一体が紫色の飛沫を上げながら地面に落ちる。

 異変を感じた他のモンスター達が飛沫が上がったところを見る為に振り返った、刹那。


 「――」


 又も、一体が飛沫を上げながら地面に落ちていく。

 それは何度も何度も、モンスターが視線を移そうとする度に一体、また一体と()()()()()()()()

 ピギ、と困惑の鳴き声を発したモンスターが逃げようと後退しかけたその時、モンスターの頭上を何かが飛んだ。

 小さなレンズの集合体が、それを捉える。


 そのモンスターの頭上を飛んでいたのは、男達と同じ人間だった。

 太陽の光を背に、濡れ羽色の長い髪を一括りにし、穏やかな気候にも関わらず黒いコートを着込んでいるその男は、透明に近い銀色の瞳をモンスターに向ける。

 

 「――!」


 自分達を殺し回る敵を捕らえたモンスターは、その男が地面に着地したのを狙って、男に向かって針を放った。

 モンスターが放つ針は音を置き去りにする程の速さを持つ。目に慣れていないものでなければ、まず捉えるのは至難の業だった。

 モンスターが狙った男は今地面に着地したばかりで、こちらを見ていない。

 殺した、とモンスターは確信する。


 「……」


 だが男は。

 ぐるりと身体をモンスターの方に向けると、そのままモンスターに向かって突進を始めた。

 それにモンスターはギィッ!?と驚いた。

 男がそのまま進めば、針は男の顔に直撃する。絶対に即死であろう攻撃なのに、男は何も怯えた様子を見せない。

 どうして、と困惑の感情が浮かび上がった次の瞬間。


 「ふっ!」


 男が突然針に向かって腕を突き出した。

 突き出された手に、針が向かう。このまま行けば手は貫通し、男の頭も貫くだろう。

 しかしその予想は覆される。

 針は確かに、男の手のひらに触れた。

 しかし――針はそのまま手を貫くことなく、逆にガキィン!!と、金属に触れたかのように跳ね返った。


 「――」


 ………………??

 …………………………???????

 針は無残にも地面に転がる。

 それを呆然と見つめるモンスター達は、今何が起こったのか理解が追いつかなかった。

 だって、あの攻撃を跳ね返されたことは今までで一度もないから。

 跳ね返……え?


 「死になさい」


 混乱するモンスターに、刃は無慈悲にも振り下ろされる。

 最後にモンスターが見たのは、銀色の剣を己に振りかぶる、冷徹な表情を浮かべた美しい男の顔だった。




 全てのモンスターを殲滅した彼は、煩わしそうに剣に付いた紫色の血を振って落とす。

 そして頬にも付いている返り血を親指で拭い、男は顔を思いっきり顰めた。


 「最悪。髪にもかかってるじゃない。帰ったら速攻風呂入ろ……」


 そうぼやきながら、彼は剣を鞘に納めた。

 ふう、と一息吐くと、タタタと彼に近づく二人分の足音が聞こえた。彼が振り返ると、そこには全身鎧の男と赤い髪の妖艶な女が立っていた。


 「ヒイラギ!悪ぃ、助かった」


 そう近づきながら男が感謝を述べる。その隣で女も「ありがとう、本当に……」と心の底からの感謝を告げた。


 二人の存在に気づいた彼――ヒイラギは、「いえ、別に」と二人の感謝を受け取ろうとして、不審な音が聞こえて見上げる。

 見上げたヒイラギは僅かに目を見開いた後、視線を女の方に向き直した。「え、何?」と狼狽える女に、ヒイラギははあと溜息を吐いた後、心底面倒臭そうに彼らに言った。

 

 「ゴディゾ、エヴェル。アタシに感謝を告げる前に、アンタ達は消火が先じゃない?」


 そのヒイラギの言葉に、ハッと二人も見上げ、ヒイラギが見ていたところに視線を向ける。

 その先ではぼうぼうと燃えている木々があり、黒煙が天に昇っていた。――間違いなく、エヴェルが放った火魔法によって燃え移ってしまったもので、このまま放置すればすぐに森中に燃え広がることが大いに予想できる。

 それを見た二人は、慌てて消火活動に取り掛かった。エヴェルが必死に水魔法で消火を心見ているのを後ろで見ているヒイラギは、もう一度溜息を零したのだった。

 


***





 ――『冒険者』というものが存在する。

 冒険者は、世界に蔓延る凶悪モンスターの討伐や捕縛、廃坑や遺跡の探索調査など、命の危険性のある依頼を熟すのが主な仕事である。大昔に名声もない無名の冒険者が、人類が太刀打ちできなかったドラゴンを討伐したことから、世の中に「冒険者」という存在が広まるようになった。かつては自営業として各々好きなように依頼を受け持って仕事をしていたが、時代が進みにつれ冒険者は「ギルド」という管轄によって国から管理されるようになり、今ではギルドを介して仕事を請け負うことしか出来なくなってしまった。

 ギルドは各大陸中に存在し、冒険者を志すものは皆ギルドに赴いて冒険者となる。そして様々な依頼を熟し、成長し、名声を上げていくのだ。

 

 ヒイラギは、その「冒険者」だった。





 オルドビル国。別名、「冒険者の桃源郷」。

 春夏秋冬、年中咲き誇る夢幻の花、「不朽の幻想花(エスジオーネ)」の生産国として世界に名が知られている独立国である。街の至る所には滴のように透明な花弁の「不朽の幻想花(エスジオーネ)」が咲き乱れ、煉瓦造りの家が幾つも連なっている。国は四方を壁に囲まれており、その壁をも超える王城がこの国の象徴とも言える存在感を放っていた。いつも人々の笑顔が絶えない活気溢れた街は、名声が世界各国からも途絶えない。

 その国の中心街には、一際大きく造られた建物があった。その建物は民家のような煉瓦造りではなく、白塗りのシンプルな壁で整えられたモダン風な二階建ての建物であった。建物の屋根近くに設置されている看板には、このモダンな建物とは似つかわしくないファンシーな文字で「ADVENTURE GUILD」と書かれている。その看板から、この建物は「冒険者ギルド」という事が分かった。

 内装は床は白の大理石で敷き詰められており、その奥には恐らく冒険者用の受付と思わしき受付台が設けられていた。そこにはギルドの事務員である男性女性がせっせと冒険者の対応をしたり、ボードに紙を何枚も貼り付けたりと忙しなく働いていた。その反対側には白樺のテーブルが幾つも並べられており、そこには数人の冒険者達が意見を出し合っている。天井は天窓まで解放されており、二階の柵から身を乗り出して一階を見下ろしている屈強な冒険者が見える。一階からも二階からもざわざわと人の喧騒が聞こえ、その喧騒を建物内が反響してくれることでさらに賑やかな感じになった。

 あまりにも冒険者ギルドらしくはない、がここは正真正銘、冒険者の為に造られた建物。この建物を伝って、冒険者達は日々モンスター達と死闘を繰り広げているのである。


 「はぁー、さっぱりした」


 ギルドにはシャワー室が何個か設けられており、冒険者はそこでモンスターの血や土等で汚れた身体を落とす。

 ヒイラギはそのシャワー室で先程返り血を浴びて汚れてしまった身体をしっかりと洗い流した。予め共用で置かれている洗濯されたタオルを手に取って髪と身体を丁寧に拭いた。

 

 「服は……乾いてるわね。本当、魔法って便利よねぇ」


 タオルを首にかけたヒイラギは、利用していたシャワー室の横に置かれていた籠の前にしゃがみ込み、その籠の中に入っていた自身の衣類を手に取った。モンスターの返り血を浴びていたであろう服はすっかり洗浄され、新品同様に綺麗になっている。

 魔法様々と感想を零したヒイラギは、ふんふんと鼻歌を歌いながら服を着始めた。

 足にフィットする伸縮性のあるパンツを先に穿き、上半身に白いインナーを着る。その上にベージュ色のシャツを着る。少しダボっとしているのが首元を締めなくて丁度いい。

 服を軽く整えたヒイラギは、さらにその上から膝裏まである黒いコートを羽織った。前のボタンは留めずにそのまま開いたままにする。

 コートを羽織った彼は備え付けられていた長椅子に腰を下ろすと、ヒールのあるロングブーツを履き始めた。しっかりと最後までチャックを締め、ブーツの弛みがないことを念入りに確認する。……うん、問題ない。

 後は手首まである黒いグローブを嵌めれば、取り合えずは外に出れる格好にはなった。


 「よし、オーケー」


 最後に身だしなみを確認し問題ないことを改めて確信したヒイラギは、壁に立てかけていた剣を手に脱衣所から出た。

 コツリコツリと靴音を鳴らしながら廊下を歩くと、今正にシャワー室に向かう身体を汚した冒険者達とすれ違う。今日もシャワー室に赴く冒険者は後を絶たない。混む前に入れてよかった、とヒイラギは安堵した。

 

 受付が設置されているホールに戻ると、見慣れた二人の人影を見つけたヒイラギは足を止める。

 すると、そんなヒイラギを見つけた二人の人影――ゴディゾとエヴェルは、いそいそとヒイラギに駆け寄った。


 「よぉ、ヒイラギ!」


 「アンタ、もう出てたの?相変わらず早いわね」


 「別に汚れ落とせればいいからな」


 ゴディゾとヒイラギは同じタイミングでシャワー室に入ったのだが、ゴディゾは洗い終えるとさっさと出てしまうのでヒイラギを待つような形になったのだろう。

 そんな会話をしていると、エヴェルがヒイラギの後ろに回った。


 「ほら、ヒイラギ。髪乾かすわよ。ジッとしてて」


 「ええ、頼むわ」


 「触るわよ」


 エヴェルは濡れた腰まであるヒイラギの長髪に触れる。

 その髪に向かって杖の先端を向けると、囁くように彼女は詠い始めた。


 「【Warm/Veltoll/Calm】」


 彼女が詠い始めると、ふわりと穏やかで暖かな風が彼女が持つ杖を中心に渦巻き始める。


 「【Dry】」


 さらに彼女が詠うと、その風はヒイラギの髪に纏うように吹き始めた。

 すると、濡れていたヒイラギの髪がみるみる内に乾いていく。

 少しすればあれだけ濡れていた髪はすっかり艶やかで絹糸のようなサラサラとした髪へと変わっていった。手で触って乾き具合を確認したエヴェルは、よしと満足げに頷くと「【Fin】」と呟いた。

 その呟きをした瞬間、ヒイラギの髪に纏っていた風は止む。完全に風が止んだことを確認したエヴェルは、そっとヒイラギの髪から手を離した。


 「ありがとう」


 「いいえ。はい髪紐」


 エヴェルに感謝を告げたヒイラギは、彼女から白い髪紐を受け取るとさっとその紐で長い髪を一つに纏め上げた。

 首より少し高めに髪を纏め、紐が解けないこと確認する。よし、と満足そうに頷くと、その作業をずっと見守っていたゴディゾが近づいてきた。


 「身支度が済んだところで、話がある――今回の俺らのクエスト報酬の件だ」





 「オラ、受け取れ」


 場所は移ってギルドの一角で、ヒイラギ達はお互いに顔を見合わせながら座っていた。

 ヒイラギの前に置かれた袋からは、ジャラジャラと金属がぶつかる音が聞こえる。その音だけで、この袋の中に何が入っているのか察しがついたヒイラギは、この袋を渡してきた元凶をジロリと見た。


 「……突然何?賄賂?」


 「ちっげえよ。今回の討伐の報奨金の分け前だ。まあ、迷惑料と言った方がいいか?」


 そう言う強面の男――ゴディゾは、ガリガリと頭を掻きながら、隣にいる女――エヴェルを見た。

 エヴェルはゴディゾの言葉に、うんうんと頷く。


 「助けられちゃったし、あの後の消火も結局手伝ってもらったしね。この報奨金は感謝の印。受け取ってくれると嬉しいわ」


 「……まあ、貰えるなら貰っておくわ」


 彼らに他意がないことを知ったヒイラギは、机に置かれた報奨金を仕舞う。金はあればあるほどいいのだ。貰えるのなら遠慮なく貰っておこう。

 ごそごそを金を仕舞っていると、ゴディゾが「そういえば」と話を続けた。


 「お前なんであんなとこにいたんだ?クエストか?」


 「ええ。アンタ達がアシェラバチを討伐している場所よりもっと奥で討伐してたのよ。アンタ達に出会ったのは、その帰りね」


 「もしかして、アシェラグマの討伐?」


 「ええ」


 素直に肯定すると、彼らは納得したように頷いた。

 今回彼らがいたのは「アシェラの森」という、オルドビル国を西に進むとある広大な森だ。この森は希少な果物や遺物品があり、財宝欲しさに訪れる人々がいるのだが、反面この森はモンスターの巣窟となっている非常に危険な森で有名だった。

 森には特殊なエネルギーが流れているとされ、その森に生息するモンスターは、そのエネルギーを摂取しながら産まれ生きているのだという。だから森からモンスターが絶滅することは現時点での研究段階ではないと証明されている。が、アシェラの森で産まれたモンスターはアシェラの森でしか生きられないことが判明している。なので一時期は森を全て燃やすことも議論に挙がったのだが、森を全焼させた後の想像がつかなく、全焼案は見送りとなっている。

 しかし森の中に希少な財宝が眠っているのもまた事実。なのでその財宝欲しさに財宝探索の依頼や、なにかモンスターを絶滅させることはできないかと定期的に国からモンスターの討伐が冒険者達に舞い込んでくるのだ。

 今回彼らは後者で、アシェラの森に蔓延っているモンスターの討伐を承っていた。ヒイラギは特に問題なくモンスターを討伐。さあギルドに帰ろうと帰路についていた時に、アシェラバチに苦戦するゴディゾ達と偶々会った、といった流れである。

 同じく討伐クエストを受けていたヒイラギに、ゴディゾは笑った。


 「はっはっは!いやぁ、お前が同じ討伐クエを受けていたのに感謝だな!お前がいなかったら、今頃俺らは焼き殺されるか毒殺されるかのどっちかだったぜ」


 「本当よ。元はと言えば貴方が……」


 「は?そういえばお前、森を焼きそうになった謝罪をまだ受け取ってねーぞ!反省しろ!」


 「だからあれは仕方なかったって言ってるでしょ!」


 「ちょっと、喧嘩なら他所でやってくれる?……聞いてないし」


 突然鬱憤をお互いにぶつけ始めた二人を睥睨するヒイラギ。一応苦言も呈したが彼らは聞こえている素振りもなく。

 仕方なく、ヒイラギは溜息を吐きながら席を立ち、クエストボードに向かった。彼らがヒイラギに話したかった報酬の話は既に終わっており、もう彼らの話に付き合う必要が見出せなかったからである。それなら明日用に次のクエストを事前に受注しに行った方が時間の無駄にならない。

 

 クエストボードには幾人もの冒険者が集っており、皆、ボードを見ながら何を受けるか、このクエストの報酬が良いのではと話し合っている。

 そんな彼らを一瞥したヒイラギは、堂々と前に出てボードに張られたクエストを吟味し始めた。


 (今回の討伐と、後はイレギュラーのアシェラバチを斬ったせいで、剣のストックが少なくなっちゃったのよね。だから出来れば討伐クエは避けて……討伐以外で、報酬が良さそうなの……)


 しかし、そう都合よくそんなクエストがあるわけがないとはヒイラギも頭の中ではわかっていた。

 冒険者は基本、モンスターの討伐と捕獲を主に活動している。それ以外に荷物運びや掃除の手伝いなどはあるが、どれも報酬が安すぎてあまり人気がない、というのが現状だ。大抵の冒険者は名声を上げたいが為に一見派手なクエストを選びがちで、そういったクエストを取るのは、モンスター討伐が苦手な冒険者や、地道に安全に稼ぎたい冒険者くらいだろう。

 そのせいでクエストボードには好条件のクエストは軒並み取られており、今貼り付けられているのは荷物運びや掃除の手伝いなどの地味なクエストしかなかった。当然、報酬もそれに見合った対価となっており、ヒイラギが求める条件とは少し違っていた。

 ヒイラギは別にモンスター討伐が苦手でもないし、地道に安全に稼ぎたいという意思もない。報酬が大きければ、討伐クエスト以外でも受けるのがヒイラギだった。

 しかし今回は討伐クエストに加えてイレギュラーも発生したため、出費が痛んでしまったのだ。ゴディゾ達からは報奨金は貰ったものの、それだけでは心許ない。

 だから出来るだけ討伐クエストを避けて、なにか別のクエストで報酬が良いものがないかと探しているのだが。


 「ま、そんなものあるわけが……?」


 やはりそんな好条件のものがあるわけがないと諦めて荷物運びのクエストを手に取ろうとした時だった。左上に、ポツリと一枚のクエストが貼られているのに気づいたのは。

 手を伸ばして、ヒイラギはそれを剥がす。そして、そのクエストに書かれている内容を読み始めた。



 依頼主は、船で三日かかる大陸にあるとある村の村長からだった。

 内容は、村でよく行われている”儀式”の手伝い。若い一人娘が一人で儀式を行うのだが、いつも一人で儀式を行う娘が心配で心配で。だから手伝いを頼みたい、という内容だった。

 内容はそれだけで儀式の詳細は書かれていない、怪しさ満点のクエスト。よく受領したな、と呆れた感想を心の中に零しながら報酬の方に目を落としたヒイラギは、そこに書かれていた内容に目を張った。


 「――報酬20万Jに、移動費は全部村長持ち――!?」


 報酬20万Jも魅力的だが、特に魅力的なのは移動費は全て依頼主持ちの部分だ。

 これならば、実質かかるのは食費くらいだけ。後は儀式とやらの手伝いをすれば、報奨金20万Jが一気に手に入る。

 しかもこの村がある大陸――フェルスナ大陸は、長年ヒイラギが行きたいと願っていたところだった。今までは同僚にフェルスナ大陸の依頼は全部取られてて行けなかったり、遠い場所というところもあってお金も馬鹿にならず、さらにフェルスナ大陸自体が広大な土地の為、行くなら永住する覚悟で行かなければならないという理由で見送りしていたのだが、総取りする同僚は今正にフェルスナ大陸にクエストに向かっていて、さらにさらに馬鹿にならない移動費は全て依頼主持ち。

 こんな好条件、逃すわけにはいかない。


 「――このクエスト、受けるわ!」


 怪しさ満点のクエストだが、その時はその時だ。

 そんな行き当たりばったりの精神で、ヒイラギはいそいそとそのクエスト用紙をカウンターに持っていき、無事クエストを受注することに成功したのだった。





お読みいただきありがとうございました!



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