その8 網棚の上の雑誌
最近はめっきり見かけなくなりましたけど、昔はそこそこあったらしいですよ、網棚の上の雑誌って。
その日、私すっかり帰りが遅くなってしまって、終電でした。大学のサークルの飲みが長引いたせいで。私は全然飲んでなかったんですが。
それで乗った電車の網棚に、その雑誌を見つけたんです。周りを見渡すと、車輌には他に人はほとんどいなくて、離れたところにひとり酔ったサラリーマンがうなだれているくらいで……だからちょっと気が大きくなってたっていうか。
私、その雑誌を手にとって座席に座りました。降りる駅まで30分はあったし、マンガ好きだったので。いい暇つぶしになるかなって。
雑誌自体はいわゆる中とじで、青年誌の漫画雑誌でよくあるタイプです。表紙には知らないグラビアアイドルが水着姿で笑顔を見せたりしてて、でも雑誌名が、私の知らない雑誌だったんですよね。けっこう漫画には詳しいから、メジャーどころはだいたいわかるんですけど、まぁ知らない雑誌もあるだろうってことであんまり見てませんでした。
それで適当にペラペラとページを流し見して、なんか面白そうな絵の漫画載ってないかなーって、手を止めたのが1作品ありました。いかにも青年誌っぽい、写実的な画風の、現代を舞台にした漫画みたいでした。
きっとなにか犯罪者とか社会の闇とか、そういうのをテーマにした漫画なんだろうと思って、とりあえずそれを読んでみることしたんです。
漫画の内容を軽く説明すると……ガラの悪い男の人が、マンションのとある一室に無理やり押し込んで、そこに住んでる若い女の人、ひどい目にあわせてから殺すって内容でした。
レイプして、拷問して……女の人が泣き叫んで……お腹の中にいた赤ちゃんも血まみれで……ごめんなさい、ちょっとこれ以上は喋りたくないです。
漫画雑誌ですからね、この前後のストーリーを知らないとこれがどういうお話かわからないんですけど……その描写がすごく真に迫ってて、私、気持ち悪くなってたのにとても目が離せなくて。じっくりと細部まで読みこんでしまいました。
だから、その漫画の中に出てきた女の人の顔と名前とか同じ人が、翌日のニュースに出てきたときはすぐにわかってしまったんです。
もしかしたら勘違いなのかもしれませんけど、もうあの雑誌は網棚の上に返してしまいましたから、確かめる方法はありません。
きっとあの雑誌、ノンフィクションだったんでしょうね。