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その68 9人の野球チーム

 さすがに今は反省してますって………


 これは私が小学生のときの話なんですけど。


 私、草野球チームに入ってたんですよ。徳島県に住んでたころです。


 小さなチームで………メンバーは、私が入ったときは上級生も何人かいたんですけど、彼ら、中学生に上がるときにごっそり抜けちゃって。


 少年草野球チームなんて流行るものでもなかったですし、それで、所属しているメンバーが、ちょうど9人になっちゃったんてす。


 まぁギリギリですが野球はできますし、みんなうっすら"たぶん自分たちがこのチームの最後の代になるんだろうな"って感じてました。そのおかげでみょうな連帯感もあり………。


 それでですね。そのチーム、めちゃくちゃいい感じだったんですよ。なんていうか……すごく噛み合っていたんです。


 守備も打撃もすごく良くって……贔屓目なしに、強いチームだったと思います。なんでなのかわかりませんでしたけど。


 だけど、さっきも言ったとおり、"自分たちがこのチームの最後の代だな"ってみんな感じてたものですから、新しくチームに入りたいって人はみんな断ってたんです。この9人……この9人で小学生時代のいい思い出にして終わろうぜって意識が、私たちの中にありました。


 それで、小学6年生の最後の秋………草野球チームが集まる地区大会に出たんです。


 参加チームの数も少なかったので、トーナメント形式でした。私たちのチームは順調に勝ち進んで………それで決勝まで行ったんです。


 みんな、"勝って終わろう"って思っていました。メンバーはみんな気合充分で、やる気に溢れていました………。


 それで決勝戦、私たち9人は懸命にプレイしました。あれは本当に楽しい試合でした………点をとって取られての追い抜き合戦で、確か9回裏で3対3、私たちが1点とれば勝ちの場面で………私、1塁に出塁していて。すごく集中していました………。


 結局、そのとき打席に立った私たちの主砲がホームランをうって、その試合は終わったんですけどね(笑)


 いやぁ……嬉しかったですねぇ………。あれからもう何年も立ちましたが、いま思い出しても嬉しくなります。


 でもひとしきり喜んで……解散直前になったときに、ふと気づいてしまったんです、私たち。


 "8人しかいなくない?"……って。


 『アイツ』が居ないって。


 そのときは、"『アイツ』、ひとりで先に帰ったのかなあ"なんてみんな思ってましたけど………ケータイでも連絡つかなくて………。監督のおじさんも何も聞いてないって心配してたんですが…………。


 翌日です。その『アイツ』が亡くなったって連絡を、学校を通じて知ったのは。私、同じクラスだったので。


 『アイツ』、前日の朝早く………つまり、試合の会場に向かう道中で、交通事故に遭っていたそうです。そのまま病院に運ばれる最中に、亡くなってしまったとか………。


 だから、『アイツ』が私たちと一緒に試合に出ていたわけがないんですよ………。


 でも私たち、ちょうど9人しかいなかったから………『アイツ』、無理して出てくれてたんだと思います。


 もう死んでるのに……まるで生きてるような顔をして………。


 私たちが"あの試合を最後のいい思い出にしよう"って、強く思っていたから………。


 だから、『アイツ』は………私たちの願いを叶えてくれたんだと思います…………。


 ………


 ………


 ………


 ………それで、その『アイツ』の葬儀も終わって、墓も立ったあと………


 小学校卒業の2ヶ月前くらいですね。


 私たちのチームに試合の申し入れがあったんです。なんとなく解散を先延ばしにしていたせいで、まだチーム自体は残っていたんです。


 もちろん監督も最初は断るつもりだったそうですが………メンバー足りないですし。


 でもそのときの試合はちょっと特別で………。


 現役プロ野球選手のA選手が見学にくるって噂があったんです。なんでも、相手のチームにその選手の息子さんがいるそうで………それで見に来るんですって。


 私たち、びっくりしました。だってその選手は、いつもテレビで見てる……私たちみんなが大好きな選手だったんですから。


 もしその試合で活躍すれば、プロの目にとまるかもしれない。


 私たちだって野球少年です。"プロ野球選手になりたい"って思わなかった瞬間なんてありません。ただ、現実的に考えると難しいから、その夢に目を背けていただけで………。


 だから……私たち、どうしてもその試合に出たくなりました。


 でもメンバーが足りない。


 『アイツ』じゃないと、自分たちの実力が発揮できないってことは、良くわかっていましたから………だから。


 私たち、監督と8人、全員揃って『アイツ』の墓石の前で頭を下げたんです。


 "お願いだからおまえも出てくれ"って。


 "おまえがもう幽霊でもかまわないから、俺たちにチャンスを掴ませてくれ"って。


 心の底から頼んで、頼んで…………地面に額をこすりつけて。


 それで、当日…………。


 やっぱり、8人しかいませんでした。


 当たり前ですよね。だって死んでるんですから。


 死人がそうそう都合よく蘇って、都合いいときだけ力を貸してくれるなんて………大人になった今だからわかりますけど、そんなワガママな話はありません。


 だけど、そのときの私たちはまだ小学生でしたから。


 "『アイツ』がこなかったせいで試合ができなかった"


 みんな、そう思ったんです。


 相手チームに謝罪して、そのまま帰って………その帰り道に、みんなで『アイツ』の墓の前に寄って。


 全員で怒りをぶつけました。


 墓石を倒し、花を踏みにじり、中の骨壷を引っ張り出して、金属バットを振り下ろして…………。


 試合にこなかった『アイツ』の墓を、もう全部めちゃくちゃにしてやりましたよ(笑)


 …………


 …………


 …………


 いやだから、さすがに今は反省してますって。


 してるっつってんだろ。

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