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その7 ペット

 ええと、小学生くらいのことだったと思います。


 私、両親の仕事の都合で引っ越しが多くて、そのマンションに住み始めて半年くらいだったかなあ。同じ階の人と仲良くなりまして。ほら、子どもだったんで、わりと誰でも話しかけられる時期だったといいますか。


 女の人でしたね。何歳くらいだったかはさすがに覚えてませんが、けっこう年配の方だったと思います。いつもニコニコしてて、穏やかな人で。だから両親もあんまり心配しなかったんでしょうね。私、小学校から帰ったあと、両親が家に帰ってくるまでのあいだ、たまにその人の部屋で遊ばせてもらったりして。よくおやつとかも出してくれましたし、一緒にお絵描きとかボードゲームとかもしました。


 ところでそのマンション、ペット可だったんですよ。私の家は飼ってませんでしたけど、その人は飼っていました。でも全然見せてくれないんですよね。その人の部屋、ふた部屋あったんですけど、そのうちひと部屋を完全にペットのために割り当てて、ふすまで完全にもうひと部屋と分断してるんです。ふすまなので、中も見えません。でも中で何かが動く気配と、ときどきにゃーにゃー鳴く声がするんです。


 猫がいるんだと思って、私、その人に猫ちゃん見せてほしいって何度もお願いしたんですけど、何だかすごく渋られて……その猫がすごく人見知りするタイプで、知らない人を見るとあばれるからって言いまして。結局、見れたのは一度だけでした。


 その一度っていうのが、私の家がまた引っ越しをすることになった前日で、最後かもしれないからっていって、その人が特別に見せてくれたんですよ。


 ふすまを開けたその先はまぁなんの変哲もないフローリングの床で、猫が逃げ出さないような高さの柵がしっかり設けられてて、ペットを大切にしてる家庭の部屋だなぁって。


 で、猫なんですが……その柵の内側に、こっちを向いてちょこんと座っていました。茶色の毛の、大きめの猫です。私を見ても、その人が言ってたように暴れだしたりはしませんでした。


 わぁかわいいって思って見たんですけど、私、すぐにおかしいことに気づいて。


 猫って、こう……座っているときって、前足を揃えてコンパクトな感じで座るじゃないですか。


 でもその猫、前足のあいだが空いていて、後ろ足も大きく広げて座ってたんですよ。私、すぐに気づいて。


 あ、これ、犬の座り方だって。


 その猫、頭は猫なんですけど、首から下が犬なんですよ。勘違いじゃないです。骨格も、体格も、しっぽのかたちも、確実に犬のそれで。そんな人面犬ならぬ猫面犬が、じっとこっちを見てるんです。私、怖くて近寄れませんでした。


 そしたら、その人が言うんです。昔、ワンちゃんとネコちゃん両方いたんだけど、今はもうひとつだけになっちゃったって。


 私、それ以上聞けなくて……そのあとすぐ、帰りました。翌日が引っ越しでしたので。


 もうそのマンションは解体されてどこにもありません。


 あれは子どものころの見間違いだったんでしょうか。


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