表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/69

その57 お笑い芸人の幽霊

 心霊スポットといえば墓場とか廃墟がまっさきにおもいつくでしょうけれど、実はそれらと同じくらい心霊現象が起こりやすい場所が街なかにありましてね。


 それが『舞台上』なんですよ。


 劇場の舞台です。有名劇団がやってるような大きい劇場はもちろん、せまっ苦しい小劇場や、公民館の広い部屋にあるようなちょっとしたステージも含まれます。


 僕のような売れてないお笑い芸人は、もっぱらそういう小劇場とか、ショッピングモールの催し事コーナーとかにしか立てませんけどね(笑)


 これは僕が昔、コンビでお笑い芸人やってたころの話で………。彼、ツッコミの方やってました。僕がボケのほうです。


 持ちネタは『ブサイクネタ』でしたね。………まぁ、自称している通りに彼、率直に言ってブサイクだったんです。


 まだ20代だったはずなのにハゲ散らかしてて老け顔で。あんま言うとアレですけど、犬でいえばパグに似ている感じの顔でした。パグみたいな顔のおじさんを想像してもらえればまぁだいたいそんな感じです。


 僕の方は……まぁ自分で言うとやらしい感じですけど、ご覧のとおり、わりと顔がシュッとしてるでしょう? ステージ上に並んで立つと、ツッコミの方のブサイクさがますます強調される感じでした。


 それで漫才やって、ツッコミのブサイクさをネタにして笑いをとりにいく感じでした。


 例えば………


 "このあいだバンジージャンプに挑戦したんですよ〜"っていう彼のフリに


 僕が"おまえブサイクだから成功しないよ〜"ってボケて


 "ブサイク関係ないやろがい!"ってツッコミを入れる感じのネタです。


 なんとなく想像つきました?


 それで、そうやってときどき舞台のサンパチマイクの前に立ってたんですね。


 でもこのご時世、だんだんそういうネタがキツくなってきて。


 ほら、そもそも人の容姿をイジるのって、あんまよくないじゃないですか。だから時々、僕らのネタを観た人からクレームが入ったりするようになったんですよ。"お笑いとはいえ気分悪いわ〜"ってさ。


 笑いってそういうもんだと思うんですけどね………。


 で、お笑いライブを主催するがわも、そんなクレームがくる芸人をわざわざ出演させる義理もないし………だんだん、舞台に立たせてもらえる回数が減っていったんですよ。


 アイツさ、自分を責めちゃって。


 "俺がブサイクネタ以外にできないからだ!"って、僕に土下座で平謝りされたこともあります。


 僕の方は"しゃあないしゃあない。別のネタ考えよ〜"って言いましたけど………そもそも、それらが上手くいかないからブサイクネタを持ちネタにしていたわけで………やっぱりふるわなかったんです。だからまたブサイクネタに戻るしかなくて…………。


 もともとバイト暮しでしたけど……それでも生活が苦しくなっちゃって。


 でもさ、自殺までする必要はなかったと思うんですよ、ソイツ。


 コンビを辞めるとかさ、お笑い芸人は諦めて実家帰るとかさ、他にもたくさんあったはずなんですよ。


 先に言い出さなかった僕も悪かったのかもしれないですけど…………生きていればなんとかなったはずなのに。


 それからですよ。


 よく出演してた小劇場の舞台に、ソイツの幽霊が出るようになったのは。


 幽霊っていっても肉眼で見えるわけじゃなくて……お笑いのライブを録画した映像とか、写真とかにたまに映る感じです。僕、出演ないときは劇場スタッフも兼ねてたんで、録画映像のチェックしているときに気がつきました。


 他のお笑いコンビがネタやってるときとかに、ツッコミ役の人の後ろとか、影とかに、あきらかに"もうひとりいる"ように見えるんです。


 その"もうひとり"、なんだか見覚えのある服装してるような気がしまして……"あ、これアイツのステージ衣装じゃん"って、あるときわかりました。


 だから、べつに怖いとかそういう感情はなかったですね………むしろ、"幽霊になってもお笑いやりたかったくせに、なんで自殺なんかしたんだよ"って腹立つ思いがありました…………。


 ………でもね。


 たまにその幽霊、顔まで写っていることがあるんですが………もちろん、予想通りソイツの顔で間違いないんですが…………。


 なんか、泣いてるように見えるんですよ。


 僕、不思議でねぇ。ずっと考えてました。


 "大好きだったお笑いの舞台上にいるのに、なんでそんなに泣いているんだろう。何がそんなに悲しいんだろう"って…………"もともとくちゃくちゃの顔を、もっとくちゃくちゃにして、ブサイクな顔で泣いている理由はなんだろう"って………。


 だからあるとき、その小劇場が閉まったあと、こっそりひとりで舞台の上に立って………サンパチマイクの片側、いつもの僕の定位置に立って…………。


 ボケてみたんです。


 "おまえなに泣いとんねん。その顔、ブサイク界のナンバーワンでいらっしゃる?"って。


 そしたら。


 "だから死んだんだよ"


 って声がすぐ横から聞こえてきたんです。


 それで僕、やっと分かったんです。


 アイツ、お笑いが大好きで………お笑い芸人でいることが、アイツの夢だったんです。


 でも一番大事な『笑いのセンス』、僕らには不十分だったから………。


 だから見た目で誰でもわかる、アイツのブサイクさをネタにしてたわけですけど…………。


 アイツ、べつに平気なわけじゃなかったんだなって。


 ちゃんと傷ついてたんだなって。


 それでも夢のために……お客さんら笑わせるために………自分が傷ついても、その心の痛みを見てみぬふりし続けてたんだなって…………。


 じゃあさ。


 何回も何回も、お客さんたちの前でアイツのブサイクさをネタにし続けていた僕はさ………。


 そんなの、僕がアイツを殺したようなもんじゃないですか。


 なんで言ってくれなかったんだよ。


 いい加減にしろよ。


 どうも、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ