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休憩時間②

 少しトラブルもありましたが……これで50話、語り終えましたね。


 もう50話というべきか、まだ50話というべきか………。


 疲れましたよね。少し長めに休憩しましょう。


 お水、飲みます? とってきますよ。


 ………はい、どうぞ。


 いやぁ、それにしても。


 どうして人間って『怖い話』を聞きたがるんでしょうね?


 だって、良いことないじゃないですか。


 ホラー映画を見る人とか、わざわざ時間やお金を割いて不愉快な気分になってるんですよ。意味わからないでしょ。


 『怖い話』を聞きたがる人は何を求めているのか……。


 …………私が思うに。


 みんな『納得』したいんじゃないですかね。


 人生って理不尽じゃないですか。


 そしてホラーがなぜホラーなのかって、理不尽だからじゃないですか。


 "何も悪くない幼い子供が化物に殺されるから怖い"のであって、"連続殺人犯が化物に殺されても、何も怖くない"でしょう。


 でもそういうことって、私たちの実際の人生には溢れているじゃないですか。


 ごくごく身近な人間関係の諍いから、国家間の戦争まで……。


 事故、病気、貧困、差別、すれ違い、嫌悪………ホラーの怪物や幽霊も、もとをたどればそういったことにたどり着くことも多いでしょう。


 そういった理不尽を、フィクションの世界で客観的に眺めることによって、ある種の『整合性』を自分の中で成立させたいのだと思います。


 『理不尽な目にあっているのは自分だけではないのだ』、『生きていれば理不尽な苦痛を受けるのは当たり前のことであるのだ』、そういった納得を得るために………人は怖い話を求めるのではないでしょうか。


 ………それともうひとつ。


 人が『感動』するときって、どんなときか考えたことあります?


 実はですね、感動も『理不尽』に直面したときに起こるものなんですよ。


 例をあげると………そうですね。


 "難病を患って長い間入院していた母親が、とうとう亡くなった。残された息子が、母親の残した手紙を読むと、そこには息子を気遣い、心から幸せを願う内容の文が書かれていた"。


 これ、感動エピソードですよね?


 でもさ、これ、迫りくる死に恐怖していた母親の苦しみを無視していません?


 『死期が迫っているのにも関わらず、息子を気遣うこと』への感動って、その母親の大きな苦しみの上に成り立ってるものじゃないですか。


 おまえが感動するためなら、母親が経験した苦しみが癒やされることは不要なのか? と……私は思います。


 あとは『笑い』も理不尽からもたらされるものですね。


 漫才のボケがおかしなことを言って、そこにツッコミが"そんなわけあるかい!"とボケの頭をピシャリと叩く。


 ボケが、常識では考えられないようなおかしなことを言うのも理不尽ですし、それに対してツッコミが暴力を振るうのも理不尽ですよね?


 でも私たちはそれに感動し、笑う……あ、いまさらですけど、ここでの"感動"は"大きく感情が動かされる"という意味の感動です。


 思うに、そういった『感動』はある種の防衛反応なんじゃないかなぁと。


 目の前の出来事に対してリアクションをとることで、その出来事と自分の内面をきっちり区別する、そういう心の免疫反応のようなものなのではないかと、そう思うのです。


 ではもし………


 矛盾するようですが………『理屈に整合性のとれた有害な呪い』が存在したとしたら………。


 …………我々はそれに嫌悪感や危険性を感じず、己の内面にすんなりと受け入れてしまうのではないでしょうか?


 『感動』はおこらず、逆に『納得』はある………。


 優れた呪いというものは、科学の姿をしてやってくるのかもしれませんね。


 今はみんな、科学が大好きですからね。


 ………ところで。


 あなた、ここまでのお話たち、どれくらい聞いてくれました?


 たくさん聞いてくださいね。


 そのほうが納得できると思いますから。


 …………さて、そろそろ休憩も終わりにしましょう。


 あと50人。


 あなたを嫌な気分にさせるために、がんばりますからね。


 どうかおつきあいください。


 いまさら逃げても遅いですからね。

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