その49 墓場のメイドさん
なんていうか、あらゆる意味で人に話せるような話ではないんですが………勇気を出して、話しますね。怖いし、恥ずかしいし、オレのしたことに、きっとみなさんは怒りをおぼえるしれませんが、勇気を出して話します。
オレ、怖いもの、いわゆるオカルトが大好きなんです。どうしてこんなに好きなのか、正直自分でもよくわかりませんが……オカルトの知識と経験なら、誰にも負けない自信があります。
全国の心霊スポットや、自殺の名所や、いわくつきの廃墟などに深夜ひとりで不法侵入して、ひとりで肝だめししているような人間です。危険な目にあったことも一度や二度じゃありません。そういう意味でオレ、アブナイ人間ですから……でも、この秘密だけはどうしても抱えきれないんです。
大学生の頃でした。
山梨県のとある霊園に行ったんです。もちろん深夜、ひとりで原付転がして。
その霊園、『幽霊の女が出る』って噂でしてね。
でも、どんな幽霊かと言うと……目撃情報がちょっとあいまいで。
『スーツ姿の若い女』だとか、『ランドセルを背負った小学生の女の子』だとか、スタンダードに『白い着物を着て長い髪の女』とか………見た目が様々だったんです。共通してるのは『女』ってことくらいで。
その謎の『女の幽霊』の存在にちょっと惹かれてしまったんです。
季節は冬でしたが、その夜はどういうわけか気温は少しあたたかくて……なんともはっきりしない、不気味な夜でした。
それで、深夜その霊園にやってきたオレは、懐中電灯を片手にその中をぐるぐるまわってみることにしたんです。もちろん真夜中でしたから、他に人影はありませんでした。
霊園の入口は軽い車止めにチェーンがかかっているだけで、簡単に乗り越えられました。懐中電灯を奥に向けると、砂利の敷かれた道の左右に墓石がずらりと並んでいます。懐中電灯の光をうけたそれらは、夜闇に溶け込む濃い影に、輪郭を浮き上がらせていました。
影たちは、オレが一歩進むたびに角度が変わって、様々な表情を見せてくれて………動くはずのない墓石が動いたような気がしたり、備えられた花たちの影に何かがいるような、そんな錯覚を見せてくれます。
周囲に響くのは、オレのじゃり、じゃり、という足音だけで………風もなく、木々もそよがず……ほかは完全に無音でした。まるでこの世にオレひとりぼっちになってしまったような、そんな気すらしていたのを覚えています。
オレ、この時間が何よりも好きで……まるでひと時、息苦しい現実から離れて、異なる世界を歩いているような………そんな感覚に夢中でした。
そう………まるで夢の中を歩いているような。そんな感覚を味わいたかったのかもしれません。
それで、しばらく墓石たちのあいだを歩いていくと………やがて、通路の行き止まりが見えてきたんです。
そこに人影が見えました。
オレ、"誰かいる!?"って、すごく驚いたんですけど…………すぐに分かったんです。
"あ、これが例の幽霊だ!"と。
どうしてかって言うと…………。
その女の幽霊、メイド服着てたんですよ。
メイド服………あの、秋葉原とかのコンセプトカフェで働いている人が着るような、肩が出てて、胸元が開いてて、スカートの短い……インチキメイド服です。
そんな、どう考えたって墓場にはいないであろう格好の女が、懐中電灯の光に照らされて、墓場の通路の行き止まりに、淑やかそうに立っているんです。かかとを揃えて、両手をエプロンの前に指先まで揃えて。
髪は長くて、いわゆるツインテールみたいに左右で結んでいました。金髪でしたが、染めている感じの金髪です。スタイルも良くて、まるでモデルさんのようにすらっとしていました。胸も大きく、腰回りも魅力的で………長い足の太ももに、ニーソックスが食い込んでもっちりとした段差ができているのが遠目にもわかりました。
でも、それでもどうしてか顔はわからなくて………光に確実に照らされていたんですけれど、まるでSNSの加工された画像みたいに、輪郭がぼやけているんです。だけどはっきりわかったことがひとつあって。
彼女、優しげに微笑んでいました。
オレ、こんな不自然なのに、彼女のその微笑みを見たら、全然怖いとか感じなくって、彼女の前に棒立ちして、ぽーっと見とれてしまっていました………。
………それから、すぐだったと思います。信じられないことが起こったんです。
彼女……幽霊のメイドさん、揃えていた両手を、それぞれスカートの両はじに持っていって………。
ゆっくりとたくし上げて、その下を見せてくれたんです。
スカートの下は、裸の女の人そのものでした。光に照らされた下腹部の肌は白く輝いていて、とても魅力的で………オレ、抗えなくって………!!
懐中電灯をその場に落として。駆け寄って。
交わってしまったんです。
近くの墓石に彼女の背中を押しつけて………夢中になっていました。
………信じられませんよね。オレ、幽霊とセックスしたんですよ。
だって仕方なかったじゃないですか。あんなことされたら………オレ、それまで女の人と付き合ったことなんてなかったし………それにああいうメイドさん、オレ、めちゃくちゃ好きだったんですよ。どストライクだったんですよ……!
………気づいたときには朝方で………オレは下半身丸裸のまま、墓場のどまんなかで仰向けに倒れていました。
もちろん、慌てて帰りましたよ。
もう二度と忘れられないくらい、すごく、すごく良かったんです。
良かったから………。
数週間が経ったころ、また彼女に会いたくなってしまって………。
また深夜の同じくらいの時間に、墓場の同じ場所に行ったんです。
そうしたらですね、聞こえるんですよ。
おぎゃあ。
おぎゃあ。
おぎゃあ。
………赤ん坊の泣き声が。
その声、彼女と出会ったすぐ近くの墓石………その下から聞こえていました。
直観的にわかりましたよ。
"オレの子だ"って。
"オレと彼女の子供が、この墓の下にいる"って。
そう確信したら、もう………。
その墓石を押し倒して、中の骨壷を納める場所を無理やり開けてみるしかないじゃないですか。
やっぱりいましたよ。オレと彼女の赤ちゃんが。
納骨室の中に、小さな体を丸めて折りたたんで………。
すっかり腐っていましたが。
手のかからない子で……今もオレの部屋で寝ていると思います。
その寝顔を見ると、"頑張らなくちゃな"って思います。
………こんな話、なかなか人に話せませんから。
本日はありがとうございました。
ひとりの人生じゃないって、いいものですよね。




