その47 パクリとかではない話
私、昔からよく人に『ちょっとズレた感性してる』って言われがちでして。
だからあんまりわからないんですけど……ファンタジーとホラーってなにが違うんでしょうね?
多分ですけど、そのふたつは"その話を受けとったがわがどう感じるか"の違いでしかないんじゃないかなあ、と思うんです。どっちも超常現象起こってますし。
まぁ、だからなんだって話ですけれど(笑)
これは私が中学生のころの話なんですが……ちょっと、この話、だいぶ"アレ"に似てる話です。有名な『アレ』。
なので皆さん、この話聞いたら、"これ、あの話にそっくりじゃん!"って思うかもですけど、それはちょっと偶然の一致といいますか。
パクリとかじゃないんですよって(笑)
私が実際に経験した話なんで、大目に見てくださいってことで(笑)
それじゃ始めますね。
えーと、まずそもそもの始まりは、叔父の自殺でした。
祖母と同居してたんですけど、ある日部屋を覗いたら、首を吊ってたんですって。
うつ病でもう長いこと療養中だったそうですし……たぶん、人生に絶望してしまっていたんでしょう。それらしい内容の遺書もあったようですし。
それで、その叔父なんですけれど、けっこうな"オタク"でして。
部屋には大きなガラスケースがあって、たくさんのフィギュアが飾られていました。ジャンルも幅広くて、エッチな美少女ものから、リアルなアメコミヒーローもの………いわゆる怪獣ソフビなんてものもありましたね。
床にはマンガ本ばかりたくさん散らばっていて、壁には映画やゲームのポスターがたくさん貼られていました。
そういった山ほどのグッズたちの中には、もちろん私が好きな作品のグッズもありまして……………。
だから"遺品を処分しなくては"という話が精進落としの席であがったとき、つい、"あのマンガのグッズがあったら譲ってくれないか"と言ってしまったんです。
自殺した人間の部屋にあったものなんて、不気味に思えるかもしれませんが………私にとっては、アニメやゲームの話で盛り上がれる、数少ない大人でしたから。
それでしばらく経って、私の家に段ボール箱が送られてきたんです。
中身はフィギュアでした。私の好きなダーク・ファンタジー漫画の主人公の………。
それはいわゆるアクションフィギュアで、腕や足の関節を曲げて自由にポーズをとらせて遊ぶタイプのフィギュアでした。見た目は黒く輝く鎧を着た大男の戦士で、片手にはフィギュア本体と同じくらいに大きくて長い、槍のおもちゃを持っていました。
『魔物狩りに狂ってしまった狂戦士で、戦いの果てに魔界へと消えた』という設定を持つ彼は、血走った赤い両眼を見開き、口を大きく開け、凶暴な印象の笑顔のまま固まっていました。
私は自分の部屋でひとりそれを眺め、ほぅ、と嘆息しました。なぜならこのフィギュアは受注生産の限定品で、中古でも数万円はくだらないほどの高級品だったのです。とても中学生の小遣いでは容易に手が届かないはずのそれを、部屋の照明に照らして眺めながら、私はつい………"ラッキーだったなぁ"と………そう思ってしまうほどでした。
ところで私の家には当時飼い猫が1匹いまして、心配なのはそのことでした。ヤツはでっぷりとした重量感のある、毛むくじゃらのデブ猫ではありましたが、うっかりこのフィギュアを適当な棚の上において、好奇心旺盛なヤツに叩き落とされたり、頭をかじられてしまったりしては、たまったものじゃありません。
私はそのフィギュアを自分の部屋にある棚のなかでいちばん高い場所に置き、今後は猫を絶対に部屋に入れないことを誓いました。
最初の違和感があったのは数日後です。
私が学校から帰って、家の二階にある自室に戻ると、何かちょっと……部屋においてある小物の位置が変わっているような気がしたのです。
両親が勝手に入ったのかもと思いましたが、父も母もプライバシーというものを尊重してくれるタイプの人でしたから、そんなことは今までありませんでした。実際、夕食のときにふたりに聞いてみても、両方とも"入っていない"といいます。
"気のせいだろうか"とも思いましたが、その違和感はまたその次の日も、その次の日も続いて………。
確信を持ったのは、夕方、学校から部屋にまっすぐ戻ったとき、例のフィギュアが床に転がっていたのを見た瞬間です。
それが転がっていたのは棚から離れた位置の床で、自然に落ちただけではまず届かないであろう場所です。私、ぞっとしてしまいまして。
"間違いなく誰かが部屋に入っている!"と、内心すごく怖くてたまりませんでした………。
ですから、私その日、部屋の前で踵をかえして、その足でいちばん近いホームセンターに行ったのです。
そこで南京錠と、鍵の金具を買いました。そしてすぐ、自室のドアの廊下側に取付けたのです。
これで少なくとも、留守にしているあいだに誰かが入ってくることはないはずと、少し安心しました。そして私はフィギュアを棚に戻して………いつものように夜を過ごし、その部屋で寝たのです。
翌朝、私は自室に鍵をかけ、学校に行きました。
ですが帰宅すると……やはり、小物の位置が変わっているような気がするのです。
おまけに例のフィギュアは、とうとう部屋の窓のすぐ下まで移動するようになっていました。窓は、棚がある場所とは反対側の壁にあるんですよ?
私、たしかに部屋に鍵をかけていたのに………。
だからもう可能性はひとつしかなかったんです。
『あのフィギュアがひとりでに動いている』
……いやまったく、そんなことを思うなんてバカバカしい話です。常識で考えればそんなわけありませんが……でもやはり、鍵のかかった部屋でフィギュアの位置が大きく変わっている状況を説明するには、私にはそれくらいしか思いつかなかったんです。
ですから、私、怖くなってしまって………。
ちょうど窓がそこにあったものですから、開けて、フィギュアを掴んで投げ捨てたんです。
窓の外は、こう………庭ですらない家と家の隙間のちょっとした空間でした。フィギュアは手に持った大きな槍と一緒にその隙間に落ちていき、夜の闇と生い茂った草むらに紛れて、すぐに見えなくなりました。
私は急いで窓のカギをかけて………。
内心すごく怯えながらも、つとめていつものように振る舞いながら、夜を過ごしたんです。
でもとてもその日は寝つくことができなくて………ベッドに横になりながらも、目はさえたままで落ち着きませんでした。
それで……深夜3時とか、そのくらいだったと思います。
家の中は真っ暗で……ときおり、どこか遠くで自動車の走る音が聞こえる以外には何も聞こえないくらい静まり返っていました…………。
そんな中、私、部屋のドアの向こう、廊下のほうで何か聞こえたような気がして、頭をもたげました。
それは小さく、軽いものでしたが………規則的でした。
こつ、こつ、こつ、こつ………そんな感じの。
すぐに分かりました。
これは足音だと。
私、跳ね起きて部屋の電気をつけました。光でくらむ視界のなか、念のため出しておいた金属バットを手元に引き寄せ、ベッドの上で警戒態勢をとりました。いつあのドアをあけて、呪いのフィギュアが部屋に入りこんできても戦えるように……。
しかし、足音はもう聞こえませんでした。照明に照らされたドアは無機質な表情のまま、ただずっと閉じられています。
"気のせいだったのだろうか"と思った私は、恐る恐る部屋のドアに近づき、ゆっくりとそれを開けて……隙間から頭だけを出して、廊下の様子をうかがいました。
あれ、と思いました。
廊下の真ん中に何かが転がっています。見覚えのあるものです。
それはでっぷりとした重量感のある、毛むくじゃらな…………
………片目を貫き、頭に大きな槍のおもちゃが刺さった、デブ猫の死体でした。
………フィギュアの本体の方は、その後見つかっていません。魔物狩りに狂った彼は、原作マンガでも消息不明になってしまっていましたから……ストーリー通りに、魔界の果てにでも行ってしまったんじゃないでしょうか。
これが私が経験した、中学生の頃のお話です。
なんだか、『アレ』みたいなお話だったでしょう?
ほら、有名なやつ。CGアニメ映画のアレです。
カウボーイの人形と、宇宙レンジャーの人形が大冒険する、有名なアニメ映画………。
まるであのファンタジー映画みたいな、夢あふれるお話だと、感じてくれたらうれしいです!
いやほんと、パクリじゃあないんですって(笑)




