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その46 お花の教室にある呪いの掲示板

 (ゴトッ! という大きな音がする)


 あ、あら………すいません、マイクを取り落としてしまって。目測を誤ってしまって。


 壊れてしまっていないでしょうか?


 あー、あー……テスト、テスト…………。


 大丈夫ですか? 録音はされてらっしゃいます?


 ………あ、大丈夫。


 すいません、ちょっと緊張してしまって………こんなに大勢の方々の前に立つなんて、普段しないものですから……失礼いたしました。


 では、あらためまして……よろしくお願いいたします。


 私、専業主婦というものをやっております。夫の職業は……いわゆる官僚というものをやっておりまして。おかげで私はここ20年ほど働くということもせず………刺激はないですが、なにひとつ不自由のない生活をさせていただいております。


 それで、お話したいのは、私が通っていたお花の教室であったできごとでございます。


 私がそのお花の教室に通い始めたのは、1年ほど前からのことでございます。ふたりの息子もそれぞれ独り暮らしを始めてしまいましたし、家で暇を持て余していたのでございます。ですから、何か新しい刺激が欲しくなってしまい、習い事でも始めてみましょうかしらと思いまして。そうしたら、義母が勧めてくださったのです。


 お恥ずかしい話、私、それまでもともと花というものにあまり関心がなく、名前すらろくに知らないものでしたから……贈り物をするときとかは、そういったものはいつもコンシェルジュさんが見繕ってくださっておりましたし………。

 

 ですから、通うのがたいへん楽しかったのです。


 教室は、銀座のとあるビルにございました。ビルの一階からエレベーターで上がりますと、すぐにエントランスと受付がございまして、いつもそこで教室の予約の旨をお伝えするのです。


 すると、少しだけ長い廊下の先にいくつかお部屋がございまして、教室はそこでひらかれているのですが……。


 その廊下の途中の壁に、掲示板がかかっておりますの。


 なんの変哲もない掲示板です。板はコルクでございまして、そのふちに薄いプラスチックの枠がついている、ごくごく普通のものでございます。そこにはいつも、開催される特別教室のお知らせの紙や、催しごとの最中に撮られた写真などが画鋲で貼りつけられておりまして、たいへん楽しそうな雰囲気がありました。


 でもある日、その教室の友人……○○さんから、不穏なうわさを聞いてしまいまして。


 その掲示板、『呪いの掲示板』なんですって。


 なんでも、"掲示板に写真を貼るとき、その写真に写っている人の体に画鋲を刺すと、同じところを怪我してしまう"のだとか。


 私実は、結婚するまではそうした残酷趣味なホラー小説なども好んで読んでおりましたから、久しぶりに聞いた、そういった不思議な話に心躍ってしまって………"まぁ、まさかそんなことが本当に?"と、年甲斐もなくわくわくとしてしまったのです。


 ところで私、その教室に嫌いな方がおりまして。


 お名前を■■さんと仰るんですけど、とにかく嫌な人でございまして………ことあるごとに嫌味を言ってきたり、とにかく皮肉が多い方でいらっしゃいます。夫が社長であるだけのくせに…………。この方と教室が一緒だと、せっかくのお花も心から楽しめないことも多く………。


 ですので、少しだけ気を紛らわそうと思って、例のうわさを試してみようと思ったのです。


 ちょうど手元に、先月教室の催しごとであった、骨董の即売会のときの写真がございまして、その写真に■■さんのお顔が大きく写っていたものがありましたから、それを使うことにいたしました。


 そしてついにある日、受付の方の目を盗んで、その掲示板にこっそり写真を貼ったのです。


 画鋲を刺す位置は………少し迷いましたが、■■さんの右目にいたしました。"どうせ呪いなどないのですし、それならせめて、■■さんがこの掲示板の前を通りがかったときに、この写真を目にして嫌な気持ちになってくれればいい"と、そう思ったのです。


 そうして掲示板に写真を貼りつけたあと………私、そのまま予約していたお花の教室に参加いたしました。


 先生のご指導のもと、畳の敷かれた教室で、正座しながらいつものようにお花を切ったり、剣山のうえに活けたりしていたのでございますが………。


 その、途中でお手洗いに行きたくなってしまいまして。


 正座から立ち上がろうとしたんです。でもそのとき私、足が軽くしびれてしまっていて……そのために足がもつれて、バランスを崩してしまい……………


 転んでしまいました。


 顔から、思い切り。


 そして、そこに置いてあった剣山が、見開いた右目に刺さったのです。


 私、あまりの痛みに悲鳴をあげていたことしか覚えていません……先生がたがすぐに救急車を呼んでくださいまして……そのまま入院、手術をしました。


 でも、それ以来右目はもう見えなくなってしまいました。失明してしまったんです。


 ………わかっています。


 これは"呪い"です。


 私、あの掲示板に貼った■■さんの写真の右目に画鋲を刺しましたから………だからきっと、右目を失うことになってしまったんです。せめて腕とかだったら、ここまでひどい怪我にはならなかったでしょう。


 思えば、私に"呪いの掲示板"のことを教えてくれた○○さん………彼女、仰っていましたもの。


 "掲示板に写真を貼るとき、その写真に写っている人の体に画鋲を刺すと、同じところを怪我してしまう"と。


 『誰が』怪我してしまうのかまでは、○○さん、言ってなかったですものね。


 ………たぶん、わざとだと思います。


 だって、この怪我をしたのは、完全に私自身の責任ですもの。○○さんは"呪い"のことを私に伝えただけで、実行するように唆してはいません。


 もし………。


 『完全に自分に責任がないまま、誰かに大怪我をさせられる仕組み』があったら………。


 それがどのように動作して、どんな結果をもたらすのか…………。


 あなただって、気になってしまうでしょう?


 ○○さんは満足されたようで、もうあの教室には通ってらっしゃいませんから…………次は私の番なのです。


 次に教室に新しく入ってこられた方に、タイミングを見てあの"呪い"のことを教えてあげれば…………。


 きっと、すごく興奮することがおきるに違いありませんわ。


 とっても刺激的なその瞬間が訪れるのが、今からとても楽しみで………。


 私、わくわくしてしまっています。

 

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