その43 奉納プロレスの奇跡
普段プロレスに関心がない人にこれ話すと驚かれるんですけど………実はプロレスって、神事ととても近い位置にある行為なんですよ。
有名なのは神田明神とか、靖国神社とかですね。『奉納プロレス』っていうのを年イチくらいでやっていて、神さまへの捧げものとしてプロレス興行をやるんです。興味があったら調べてみてください。
で、やっぱり初めて知った人は『プロレスと神さまって全然関係なくない?』って最初は思うんですけど、よくよく分析してみると、実はプロレスと神事の共通点ってすごく多くて………。
例えば、神事ではよく『演劇』が行われます。というか、もともと演劇こそが神事だったんです。
シャーマンや巫女が、この世とは異なる場所、即ち舞台の上に身をおいて、仮面や衣装で異なる者の姿になり、神の言葉を伝える。これがもともとの演劇の起源です。
で、言っちゃ悪いかもですけど、プロレスだって演劇の一種じゃないですか。
よく『プロレスって八百長なんでしょ?』とか言ってくる人もいるけど、あれは『演劇』なんですよ。演劇に対してわざわざ『これは嘘だ』って言ってくる人はいないでしょ。みんなわかってるんだから。
それにもうひとつ………プロレスって『戦い』ですよね。
『戦い』も神事ではメジャーな捧げものの一種でして、流鏑馬とか、武具を用いて行うものもありますし、みんな知ってるお相撲だって、もともと神さまへの捧げものとしての戦いです。相撲自体も、一番最初にやったのは神さまだって言い伝えがありますしね。
『演劇』であり『戦い』であり、人々の熱狂を集めるもの……こうして考えると、プロレスって、神さまへの捧げものとしてピッタリだと、そう感じません?
だから、失礼があっちゃいけないんですよ。
神さまを怒らせちゃうから。
……あ、申し遅れましたが、私、元プロレスラーです。この話は私が現役のレスラーだったころの話でして………。
とある地方の大きな神社で、奉納プロレスをやろうって話があったんです。なので私を含む数人の選手たちで出張に行ったんですね。
それで、興行の前日に神社に顔出して、向こうの担当者さんたちと段取りの打ち合わせとかしたり、自分たちで屋外の広場にリングの設営をしたりしたんですが………。
ひとり、ウチの団体に素行が悪いやつがいまして。
夜に打ち合わせ終わったあと、まぁ明日は興行なんで、みんな酒は控えてさっさと寝るぞってことで解散したんですが……ソイツだけ、ひとりで酒を飲みに街へ出てたみたいなんですね。
しかもバカな飲み方したみたいで………二日酔いになりやがったんですよ、ソイツ。
まったく、プロ意識に欠ける最悪なヤツでしたよ。まぁそれでもソイツ、わりとお客さんからの人気があったほうなんで、社長とかからはそれで大目に見られてたんですが……。
あの野郎………それでも試合に出るとか言い張りまして。
当日、興行が始まって、試合やってる最中にさぁ………。
俺が一対一で、ソイツの腹にヒザ蹴りかましたときに、思いっきり吐きやがったんですよ。
リングの上にゲロぶちまけたんてす、そいつ。
しかもお客さんたちの目の前で。
もちろん、あっちゃならないミスです。
もうお客さんたちドン引きだし、会場の空気も最悪だしで…………戦ってた私もどうリカバリーするかめっちゃ考えたけど、全然見えなくってさぁ。
何よりもこの神社の神さまに一番申し訳が立たないでしょって。
とりあえず、ソイツ、リングの上にうつ伏せに倒れて動けなくなってたみたいだから、"担架で引っ込めよう"ってことになり………。
私もリングを下りて、リング上にソイツひとりだけになった瞬間でした。
突然、ズドン! っていう爆発みたいな大きな音と、強い光が起こったんです。
会場はパニックになり、大騒ぎでした。
私も目が眩んでしまって、動けませんでしたが………だんだん視界が回復してきたころに、周りを見て驚きました。
リングが……あのプロレスのリングがですよ? 大きく破壊されてしまっていたんです。真ん中に大きな裂け目と、黒い焦げ目がついていて………ビニール部分が焼けて溶けて、異臭を放っていました……。
"雷が落ちたんだ!"と、誰かが叫んでいるのが聞こえました。
私はあまりのことに呆然としかけましたが………リングの上に雷が落ちたと聞いて、ソイツのことを思い出しました………。
それで、おそるおそる、リングの上を見たんですが………。
………やっぱり、アイツ、全身黒焦げになって死んでましたよ。
私、空を見ました。空は若干曇りがかっているくらいで、雨や雷の気配なんて全然ありませんでした。
でも雷は落ちて、それで、無礼を働いたアイツだけが雷に打たれて死んだ………。
………私、恐ろしいとか、そういう感情よりも、なんだか感動してしまいまして………。
"よかったぁ"………と、そう思ってしまったんです。
だってこれ、どうみても奇跡じゃないですか。
神さまへの無礼に対して、ちゃんと罰がくだされたってことじゃないですか。
ということは、神さまというのはちゃんといて……私たちをいつも見ているってことで…………。
罪に罰がくだされるなら、善に報いがあることも充分に期待していいわけですよね。
………だから私はプロレスラーを辞めて、今はこの通り、ボランティア団体の職員をやっています。
良いことも悪いことも、神さまは必ず見てくださっている。そして因果は応報する。
この確信をくれた彼には……雷で打たれて死んだアイツには、感謝してもしきれません。
ロクでもない人間にとっては、無残に死ぬことが一番の善行なのかもしれませんね(笑)




