その4 被災地の千羽鶴
数年前、あったじゃないですか。日本海がわのほうで大きい地震が。
家屋とか道路とかにすごく被害が出て、おまけに大きな津波までくらって、みんなたいへんだったやつ。
だから私、復興ボランティアに参加したんですよ、隣の県だったし。就活でのいいアピールポイントになるかなって。善意もありましたよ、もちろん。
ボランティアをまとめる支援団体さんのとこに集まって、崩れた家屋のゴミ出しを手伝ったり、家帰れなくなった人の世話したり。保育園がなくなった子どもたちと一緒に遊んで面倒を見たりとか、いろいろやりました。肉体的にはかなりハードでしたけど、楽しかったですよ。
しんどかったのはどっちかというと、支援するべき人たちからの言葉でしたね……。けっこう辛辣なものがあったので。まぁいきなり被災して、住むところがめちゃくちゃになって、ストレスもスゴいだろうから心に余裕がなくなってイライラしてしまうのも当然ですけど、ボランティアの人をなじったり、怒鳴りつけたり、暴力をふるったり……。正直、あんな目に遭うくらいならもう同じような災害があっても復興ボランティアなんてやりたくないです。あんなこと言うようなクズどもはそのまま死んじまってくれたほうがうれしいですよ(笑)
って、まぁそれはちょっと脱線で。私が話したいのはそのボランティア作業のなかであったことなんですけど。
全国から支援物資が届くんですよ。食料とか、古着とか。で、復興支援団体がそれらを受け入れて、いったんダンボールから全部出して記録して、どこどこへどれくらいって書類上で振り分けるんですね。
それでモノを実際に被災者に送る用のダンボールに積み替えて、軽トラックとかに積みこんだりするのも私たちボランティアたちの仕事で……けっこう肉体を使います。一日中立ったり屈んだり、重いものをいくつも運んだりでキツいですよ。
そんななかでも、"ちょっといったん保留"みたいなやつがあって……どういうものかというと、こんなの貰っても困るだろ、みたいなやつです。具体的には、ボロボロすぎる服とか、生モノの食べ物とか、由来のわからない手料理とか、大きな健康器具とかですね。送ってきた人たちは善意なんでしょうけど、なんかちょっとズレてるやつ。
で、千羽鶴ってあるじゃないですか。具体的な送り先が指定されてない千羽鶴もそのカテゴリーで……あ、明確にどこどこへ送ってくださいって書かれてたらもちろん送りますけど、なぜかわからないけど、あて先のない千羽鶴ってのが届くんですよ。
たまにSNSとかでも話題になりますけど、千羽鶴って正直迷惑で……だって本当に使いみちがないんですから。腹が減った、風呂入りたい、服がない、寝る場所がない、そういった人に折り紙の鶴送って何がしたいの? とは私も思ってます。
また話がそれましたね……それで、そのとき送られてきたものの中にも、折り紙でできた千羽鶴があったんです。
その千羽鶴も送り先が書いてなかったようで、"保留"のところに入れられていました。同じような千羽鶴もいくつかもう入ってたんで、あまり気にならないはずだったんですけど、そのとき私はちょっとやることが途切れてて、なにかできることはないかと探していたところでしたから、その千羽鶴のちょっとおかしなところに気づいちゃったんですよね。
あのー、折り鶴って、翼部分の下がわ、あそこの部分の折りが甘いと、紙の裏側がちょっと覗けちゃうじゃないですか。すき間ができるので。
そのすき間から、紙の裏側に何か書いてあるのが見えたんですね。
私、気になってしまって、指で広げて見てしまったんですよ。
そしたら、細かい字でたくさん"しね"って書いてあったんです。たぶん子どもの字でした。
びっくりしてほかの鶴も見てみたら、"ざまあみろ""くるしめ""なけ"とか、そんな言葉でうめつくされた鶴ばかりなんです。しかも、どれも子どもの字で、微妙に筆跡が違うように見えました。
怖くなったのでその千羽鶴の送り元を見ると、とある保育園なんですよ。
……つまり、その保育園は、たくさんの子どもたちにそんなことを書かせて、それを千羽鶴にして被災地に送ってきてたんです。
なんていうか、そういうことをさせてる施設がたしかに実在しているってことがすごく怖くて……私、それからさっと離れて忘れようとつとめてました。
そのすぐあとにボランティアの契約期間がきれたので、私は地元に戻ったんですけど、結局あの千羽鶴はどうなったんでしょうね……?
燃えるゴミに出されたんでしょうか。