その37 電車の夢
私の話は、怖い話とかじゃなくて、ちょっと不思議な話なんですけど…………
私、子供のころからときどき見る夢がありまして。だいたい二ヶ月に一度くらいのペースで。
なんていうか、毎回同じような夢なんですけど。
一番最初は小学生のころでした。
普通に寝たと思ったら、気づいたら家のベッドじゃない、全然違う場所にいたんです。
駅のホームでした。地下鉄の駅で、小さな駅です。線路は一本だけで、ほかに人は誰もいませんでした。
天井には蛍光灯みたいな灯りが点いていて、冷たい光に、壁や床の白いタイルが照らされていました。
出入口らしき通路とかもなくて………ホームと、線路、あとはベンチくらいしかないんです。線路の先は真っ暗で何も見えないんです。
不思議なことに、この夢を見ているときは、すぐに"これは夢だな"とわかるんです。だから全然不安とかもなくて、いつも私はベンチに座って足をぷらぷらさせたりして、目が覚めるのを待っているんです。
私はこの夢が好きでした。夢の中は静かで、すごく落ち着く感じがしました。お腹も減らないしトイレに行きたくもならないし………できることなら、ずっと目覚めずに夢のなかに居たいと、いつも思っていました。
そんな夢に変化があったのは、中学生になったころです。
その日も私は夢のなかのホームのベンチに座ってじっとしていました。
すると、何か聞こえるんです。
遠くから近づいてくる音は、電車の車輪の音でした。
私、こんなことははじめてでしたからびっくりして………ホームにその電車が到着したとき、目をみはりました。
ブレーキ音を反響させながら停車した電車は、銀色の車体で、少し古臭いデザインのように見えました。
電車の窓から覗くなかには、赤い布地の座席がいくつも並んでいるのが見えましたが、他に誰も乗っている人は居ないようでした。
自動ドアが左右に開くと、照明に照らされた電車の中がよく見えましたが………中には広告も何もなく、殺風景な光景がありました。
降りてくる人も乗る人もいませんでしたが、電車はドアを開けたままずっと停車したままでした。
私なぜか、"ああ、この電車は私のために来たんだ"と分かって、ベンチから降りてドアに近づいたんです。
そして乗る前に、"どこへ向かう電車なのだろう"と思って、行き先の表示を見ました。
すると『じごく』とあったんです。
夢のなかの出来事ですから、私それを見ても落ち着いていて、"へぇ、この電車は地獄行きの電車なんだな"と、とくに取り乱したりはしませんでした。でも同時に、"地獄に行くのはやだなぁ"って思って、くるりと振り返ってベンチまで戻ったんです。
そしてまたベンチに座りました。私の視線の先には、ドアを開けたままの電車がずっと停車したままで…………いつまでもそこにあるんです。
するとですね。
"『ご乗車になりませんか?』"って、誰かが声をかけてくるんです。
見ると、私のすぐそばに、いつの間にか誰かが立っていました。
その人は大人の男の人で、車掌らしき制服を着ていました。顔は………なんだかボヤケていてよく思い出せませんが、たぶん知っている人のような気がしました。
"地獄には行きたくない"と私が言うと、その車掌さんはうなずいて、"『もう決まってしまったことですから』"と返してきます。
私が"私のことはほっといて、出発していいよ"と言うと、車掌さんは"『あなたがご乗車なさるまで発車はできません』"と言います。
"私が死んだときも、あなたが迎えにくるの?"と訊くと、"『あなたが自身でご乗車されるのです』"と応えます。
…………目が覚めるのは、いつもこのあたりです。
それからはいつも同じ夢です。
私は駅のホームのベンチに座っていて、視線の先にはドアが開いたままの電車が止まっている。私が乗車しないままだと、車掌らしき人物が現れて、さっきみたいな会話をする。そして目が覚める。
………べつに、何も怖くない夢ですよね。ただ、何度も繰り返す不思議な夢……………。
でも、私…………この夢のせいで。
"あの電車は何があってもあのホームから離れないんだと"と思うと………"すでに自分は絶対に地獄に行くことが決まってしまっているんだ"と思うと…………。
………ずっと人生がからっぽのままに感じてしまうんです。
……………何をやっても、人に親切にしようが、何かに成功しようが…………
…………どうせ私は地獄に行くんですから。




