その33 世界滅亡の予言
あの、アタシ夜職でぇ。
だからまぁ、道ばたで泣いてる女のコがいたらそりゃあほっとけないっていうかぁ………。
とりあえず声くらいかけるよねってハナシでぇ。
その日の朝方でしたね。アタシ毎朝5時に退勤なんですけど、その日もそんなカンジで。でもクソおっさん客に当たった日だったから、ちょっとメンタルよくなかったっていうか。
夏場だったから朝5時台にはもう街も薄ぼんやり明るくて。コンビニで水とタバコ買って、ビルの間の目立たないとこで少しフカして帰ろうと思ったんですよ。警官に見つかるとうるせーし。
んで、覗いた路地にそのコがいました。
どっかの高校のセーラー服着てましたね。ホンモノのやつ。んで、地面にうずくまって、膝を抱えてぐすんぐすん泣いてんのよ。
アタシ、"あー、これアレだ。レイプかメン地下だな"ってわかって。まぁこの辺じゃ珍しくないハナシです。
普段ならまぁめんどいからムシするんですけど、でもそのコが着ているのがコスじゃなくて、マジの学校の制服っぼかったのが気になって。本人もかなり若そうだし。
"未成年に手出したカスヤローがいるな"って思うとマジでムカついてきて、そのコに"大丈夫?"って声かけたんです。
そしたらそのコ、顔を上げました。まぁなんていうか、予想通り、まだ子供だなってカンジのコです。遊びとか全然知らなさそうな、真面目そうなコ。目もとは泣きはらして真っ赤で、まぁちょっと見てらんなかったですね。
"連絡するなら友達と親、どっちがいい? 学校とかはナシっしょ?"ってアタシが訊くと、そのコ、頭をぶんぶん振りました。
それで、"友達も親もみんな死んだ"って言うんですよ。
アタシウケちゃってさ。
"なにそれ、超オモロいじゃん"ってヘラヘラ笑いながらタバコに火を点けました。まー、さすがにウソだと思いましたから。
"誰かに殺された? それとも事故かなにか?"って半笑いで質問したら、そのコは"大きな地震がきたから。それでみんな死んだの"って真顔で言うんですよ。
このときですねぇ、アタシが思い出したのは。
ホラ、なんかネットとかてウワサになってたじゃないですか。『世界滅亡の予言』とかいうやつ。
なんか? 『未来が視える人が、その未来予知を本にまとめて出してて、その中に大地震が来る日が書かれてる』とか、『その日がまさに今日だ』とか、お客が話してた気がします。
まぁそのとき酔ってたし、おっさんの話とかどうでもいいんで流してましたけど。
んで、アタシそのコのその言葉聞いたらムカついて。
"なに、ヒトが心配してんのにフザケてんの?"ってそのコに言ったんですね。
そしたらそのコ、なんかマジな感じで目を伏せてさぁ…………。
"私はいくつもの世界が滅ぶのを見てきました。私が超能力で別の世界に行くたびに、その世界はもうすぐ滅ぶ。大地震が起こってみんな死ぬ。私にはどうすることもできないのに、そのたびに地震は起こって、私の親も友達も何度もなんども押しつぶされて死ぬんだ…………!"とかなんとか言ってるワケですよ。
もう、怒り通りこして呆れちゃってね。
こりゃマジでアタマいっちゃってるなって。
なんで、アタシそのコほっといて帰ることにしました。そんでそのコに背を向けて歩き出したんですけど、そしたらそのコ、大声でアタシに向かって
"■■年■■月■■日、この世界も滅ぶ!! あなたも地震にまきこまれて死ぬんだ!"とか怒鳴ってくるもんだからさぁ
アタシも"うるせーバカガキ! 帰って寝ろボケ!!"とか怒鳴り返しながら、タバコ投げつけちゃいましたよね(笑)
…………んで、めちゃくちゃムカついたまま家に帰ったんですけど、よくよく思い返すとですね。
そのコの言った日付、アタシが店でおっさんから聞いた日付と違う気がするんですよ。
まぁ酔ってたトキのことだし? 正直あんまり自信ないけど…………。
もしもあのコが言ってたことが本当なら、この世界が滅ぶのってあと数ヶ月後なんですよね。
アタシ?
どうなんでしょうねぇ………まぁわからないですけどぉ。
少なくとも、アタシにはあのコみたいに別の世界に行く超能力なんてないし。
大地震がきたら、どうしようもなく死んじゃうんじゃないですか(笑)
世界が滅ぶまであと数ヶ月、バカなガキのウソなんか無視して、楽しく生きましょうよ。




