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その3 風呂場の換気扇

 住んでみないとわからないことってあるもので……。


 あのー、私、何年かまえ引っ越しをしましてね、職場が変わったのがきっかけで。


 それでいくつか物件を内見して、いいと思ったマンションがあったんです。


 部屋は4階。駅まで歩きで15分、オートロック付き。築年数も20年くらい。風呂トイレ別。窓は西向きでしたけど、私は別にそこはこだわりませんし、コンビニも近い。家賃も許容範囲内。


 まぁいいじゃないってことで、そこに決めたんです。


 それで引っ越しの荷物を運び終えて、くたびれたなーってことで、お風呂入ろうと思ったんです。


 お風呂は窓がなくって、代わりに天井に大きめの換気扇がついてるタイプ。24時間まわし続けなきゃいけないやつです。やや狭めですけど綺麗に掃除されてました。湯も自動で張ってくれるやつでした


 それでお風呂が沸いたんで、シャンプーとか着替えとか準備して、湯船に浸かったんですよ。


 そんでまぁいろいろ考えながら、ボーっと天井を眺めたりしてたんです。


 すると、ふと気がつきまして……換気扇の回るゴーッていう音に混じって、なんだか人の声がする気がして。


 なんだろうと思って耳をすますと、どうやら天井の換気扇から聞こえてるみたいなんです。


 ああ、これはあれだな……換気ダクトがマンションの別の部屋と繋がっていて、他の部屋でお風呂に入っている人の声が伝わってしまっているんだな、とわかりました。


 こういうのは住んでみないとわからないしなぁ、お風呂で歌ったりするのは聞かれたら恥ずかしいからやめたほうがいいかもなぁ、なんてぼんやり思っていると、ふと、その声がなんだか聞き覚えのある言葉を言ったような気がして……しかも、どうやら同じ単語を何度もくりかえしているようなんです。


 私、すごく気になって、いったん湯船から上がって換気扇を止めちゃったんです。するとその声の話してる言葉がはっきり聞こえました。


 私の名前だったんです。


 同じマンションのどこか別の部屋、私と同じタイミングでお風呂場にいる誰かが、ずっと私の名前を何度も何度も繰り返して喋り続けているんです。このマンション、まだ私誰とも挨拶してないのに。


 すごく怖くなったので、次の日からお風呂は銭湯にして、その部屋はすぐに引っ越しました。


 似たような目にあったことは、それきりありません。

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