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その13 あのにまさん

 "あのにまさん"って知ってます?


 最近、小学生のあいだとかで流行ってる遊びで、使うのは紙とペンです。


 子供たちはそれぞれ紙ペンを持って、出題者と回答者に分かれます。


 まず出題者が、"あのにまさん"っていう名前に相応しいと思う顔を紙に描く。このとき、べつに本物の人間に似せなくていいです。目が3つあったり、角が生えていたりしても全然いいです。で、出題者は描き終わったらそれを誰にも見せずに伏せておく。


 つぎに回答者たちが、一つずつ質問をしていく。"目の数はいくつですか?"とか、"耳は頭の横についてますか?"とか。それで、出題者は自分の描いた"あのにまさん"の絵を見ながら、それに答えていく。回答者はその答えをもとに、自分の紙にこれが"あのにまさん"だと思う顔を描いていく。


 それを何巡か繰り返して、最終的に回答者の描いた"あのにまさん"で、出題者の描いた"あのにまさん"にいちばん近い人が勝ちっていう……一種の情報伝達ゲームですよ。


 私、小学校の教師やってるんですけど、それが流行りましてね。休憩時間のたびに教室のどこそこでやってる子たちがいる感じでした。


 まぁあまり気にしてなかったんですけど、ある日ちょっと、あるグループが描いた"あのにまさん"の絵を見せてもらう機会がありまして。


 その"あのにまさん"、ちょっと不気味で……人間だったら目と口になってる部分が大きな穴になってて、その中が真っ赤に塗りつぶされてるんです。まるで目玉をえぐられて、口の中が血で満たされているみたいに。その子は絵が上手い子でしたから、わざとそう描いているに違いなかったんです。


 私が"このあのにまさんは怖いね"っていうと、その子、"でもこれがいちばん似てるから"って言うんです。


 私、おかしいなって思って。ゲームのルールでは"あのにまさん"に決まったモチーフはないはずなのに。だって"あのにまさん"に共通了解のモデルがあったらゲームが成立しませんから。


 それで、私その子に"あのにまさんにはモデルがいるの?"って訊いたんです。すると、その子もなんだか不思議そうな顔をして、"いや、いないけど……でも、どうしてそう思ったんだろう"って。


 私なんだか気になって、他のグループの子たちの"あのにまさん"も見せてもらいました。


 するとみんな、最初の子と同じ、目と口が大きな赤い穴になってるあのにまさんを描いていたんです。


 私、こわくなって……何かのキャラクターを参考にしたのか、みんなに訊きました。でもみんな、何も参考にしていないって答えたんです。


 それはつまり……例えば「りんご」と聞いた人が「赤くて丸い果物」を連想するように、「あのにまさん」と聞いた子供たちは、みんな「目と口が赤い空洞になっている人物」を連想したってことです。


 それでその……私、訊きました。


 そもそも"あのにまさん"ってなに? って。


 すると、子供たち、教えてくれました。


 "その顔を想像した人のところへやってきて、自分と同じ顔にしてしまう怪異"だよって。


 ……もちろん、子供たちや私のところに、本当に"あのにまさん"が来たことはありません。今のところは。


 でも、このゲームを繰り返していくうちに、子供たちがいつか「本当の」あのにまさんの顔にたどり着いてしまったら……。


 もうかなり具体的になってますしね。


 もう一息です。

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