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この魔剣はイチオシです。 お巡りさんこいつです

作者: 杉乃中かう

来てくれてありがとうございます。ちょっと見ていってください。



 「はは、笑えない」


 どうしよう。


 先ほど、いや今日か。いつこの出来事が起こったかを表現したいのだが、二つ上げたが適当ではないな。刹那、刹那に空けられた穴から光が差している。その光は祭壇にあたり幻想的ですらあった。

 

 偶然ではなく、意図してやったわけでもない。まさかこいつがやるとはの、まさかで。

 

 長々話したいのは山々なんだけども、ぐだつくのもなんなので。


 やったのは誰かって言うと、

 





 





 

 右手にある聖剣、


 こいつがやりました。






   

 ―――物語はとある王国の遺跡から始まる




 「いててて、どこだここは」


 中肉中背の青年が目覚めた。


 暗闇。真っ暗だ。

 ゴツゴツとした地面。平ではある。じっと座っているとヒンヤリして気持ちいい。



 なぜこんなところに俺はいるのだろう。

 

 俺は休日にぽかぽか陽気な空が広がる原っぱでうたた寝してたはず。ここにいる意味が何もわからなかった。

 

 本当に暗闇で何も見えない。見知らぬ場所で起きた。怖いぞ。

 四つん這いになって地面をさわさわと手探りでなぞっていくと、正方形の切石にのっているようだ。さらにわさわさと探ると四方八方に正方形の型が切石がたくさん敷き詰められている。洞窟ではない。人の手で作った建物の中らしい。

 あと、わかるのは空気がおかしいな。ひんやりしてほこり臭い。




 「遺跡か」

 

 目が暗闇に慣れて見えきた。


 人工的に作られた歴史的建造物の中にいるらしい。


 足音を立ててゆっくりと進むと広いところに出た。

 

 


 壁画がある。


 怪物だろうか。向かい合って棒を持つ人だろうかその者が対峙している。三つ首の怪物がいる。杖を持った人達。杖の上が光っている。人と人が向かい合っている。1人棒を持つ者、もう一方は人が大勢。太陽と月、海と大地。羽を持った者。串刺しされた人が掲げられているところで終わる。


 俺、滝光輝たきこうきはこの壁画を見てこう思った。

 

 試練?ーー

 


 さらに、見渡すと奥の方に光っているものがあった。


 

 「剣か」


 近寄ってみると剣だと分かった。それも西洋剣だ。

 刀剣のつかの先に青い宝石が鈍く光っている。青い目のように見える。ブルーアイズ。

 台座にぶっ刺さっている。西洋剣。 

 勇者の冒険を想像して欲しい、あれだ。


 (こいつはもしかして聖剣か?)


 遺跡らしきところに壁画、祭壇、そして台座にブッ刺さっている西洋剣ときた。

 メタ読みするならば…こいつは聖剣と見てもいいのではなかろうか。

 

 いろんな角度から見る。


 そして正面に戻り、滝はしばらく「…」と、沈黙した。


 この時滝の頭の中は欲望と理性がせめぎ合っていた。浪漫だろ好奇心がさわれと欲望の悪魔が囁く。片や触ったら何かあるかもしれない、ここは夢かもしれないが慎重に触ったほうがいいのではと理性の天使が説いていた。どちらかというと滝の天使も触るということに肯定だった。触って何が起きても恨むなよって言っていた。なので…



 歩み寄って剣を握った。


 わりとあっさりだった。刀身が高い音を立てて台座から取れた。美しかった。滝は魅入られた。


 こうなってくると試し斬りとばかりに剣を振った。出鱈目に振りそこはかとなく剣舞を披露しているつもりの人がそこにいる。剣を振る剣舞もどきはガキのようにはしゃぎ、案の定息切れした。


 「ハァハァッハァ」と大の字になって息を整える。


 息切れからしばらくして回復した滝は、むくりの上半身を起こし剣を見つめた。次は物切ってみたいと思った。完全に危ない人である。

 しかし、今の滝にはぶっ飛んだ考えをするのは、完全に好奇心が勝っている状態だからだ。普段は冷静な思考を持ち合わせてはいる。だが、今のところそういった思考性が出てないのは異常事態が続いているためと理解してもらいたい。

 

 滝は周囲を見渡し、そして体をまさぐって切れるものを探す。ポケットの中にこれ幸いと紙の切れ端があった。メモ書きだった。ちょうどメモをしてあるのを見た。

 

 「今晩はカツカレーが食いたい」


 なんか滝がアホみたいだ。これを書いた俺は何を思ってこれを書いたと滝は一人愚痴る。今の俺は温野菜が食いたい。

 これを書いた俺に数刻問い詰めたいところだが生憎何の意味もないだろう。

 ともかく切れ味を確かめようじゃないか。


 左手に紙切れ、右手に剣を握り直し、紙を切る。


 スカッ


 スカッスカッ


 「?」


 


 スカッスカッスカッスカッスカッ


 切れない。

 

 こう、柳にそよ風のように紙が不自然に動く。

 きっとカット、じゃなくてきっと切れるような張りじゃないからだな。科学的論理的に説明したいが滝の頭では出てこない。ニュアンス的にペラペラだから切れない。ピンと張ってなきゃいけないんじゃないかと考える。


 体勢を変えて切ろうと思う。

 具体的には座って左足の裏と右足の裏をくっつける。その間に紙切れを挟む。何も持っていない。右手に聖剣。で、空いた左手で紙切れの端っこを持って切る。どうだ、これで切れると思わないか?

 これで切れないってのはないと思う。

 故に切れなかったら、聖剣は聖剣では、ない。駄剣だ。


 切れなきゃそれは剣とは言わないよ。

 滝は手のひら天に開き首を振る。周りに人がいたらさぞイラっとする態度と顔だった。最悪殴っていたかもしれない。ではなく、最低殴っていたかもしれない。


 イラっとする態度と顔だが周りに人はいないし、いたとしても暗闇だ。仮に見える状況で知人がいれば間違いなく殴られている。

 と、話が脱線したが、当本人は再び、紙を切っている最中だ。


 「……」


 スカッスカッスカッスカッスカッ


 切れない。

 紙は切れない。

 

 何度試しても切れない。


 紙にペシっペシっと叩く音がなる。刃はもちろん潰されておらず、指はスパッと切れるだろう見た目をして。


 「なんでだ?」


 そう呟いて、呟いて、冷めた。

 目が覚めたとでも言おうか。先程まであった、天使と悪魔の一致の好奇心浪漫が一切合切無くなった。

 あれほどキャッキャッしてた奴がスンってなっている。はなはだしくもり上がっていた感情が、普通の滝を通り越して駄々下がり陰になって。

 それはもう、ここからどうやって出ようかなど自身の心配をし始めたくらい。酷く正しい。正常に戻って来たくらいだ。


 「こいつの名はなまくらぁだ」


 紙すら切れない剣は剣として機能していない。短い間だったが楽しかった。名前をつけてあげた。命名、なまくらぁ。なまくらぁと語尾を伸ばすのがポイントだ。

 楽しかったよ、ありがとう。


 そんな感情の変化があって、持っている剣、駄剣を、滝は台座に刺しに戻す。刺す時、つい力んでしまったのはご愛嬌だろう。

 これでヨシと駄剣のことなど滝にはすでになく、これからについて考えている…のだが、

 

 だが、そう問屋は下さなかった。いや、駄剣は滝を離さなかった。


 「?!」


 ()()()()()()()()()()()()()


 再び台座から引き抜いて右手から駄剣を引き剥がす。


 ブンブンと上段から振り落とし下段から振り上げ、または地面に近づけて足を乗せて頑張った。

 流石に刃こぼれするような、地面に振り落とす台座に振り落とすなどと言った行動は起こさなかったが。


 なんでだ。こんなところで不思議要素出さなくて良いじゃんよ。


 聖剣というより魔剣。祝いより呪い。そんな感じでアワアワ慌てている。

 駄剣、聖剣疑惑を振り切って魔剣疑惑のある剣と格闘して。剥がし作業をして…


 それでも、右手から、剣が、離れなかった。


 

 


 冷静になった通常の滝にはこう思っていた。こんなところで駄剣なんて祀るなんてのはない。それに、この剣しか入らないようにギミック的な感覚が初め引き抜いたときにはあったからなと滝はひとり思う。

 

 そんな受け入れとも承諾とも言えるような思いを抱いた時、台座が光り輝き、光落ち着いてそこには鞘があった。


 無言で無造作にとり無感情で鞘に納めた。


 したら右手が解放された。

 右手がフリーになった。

 右手が空いた。


 言い寄れぬ安堵感が滝を支配する。


 なかなかに緊張感あったぞとバクバクしていた心臓の音を感じながら思う。このまま右手が聖剣しか握れないのかと、ナニを握ることはできないんだなって錯乱するほどに。

 

 心臓の音が安定する間を経て。


 

 一時は右手が聖剣から離れずあわてふためいたわけだが、鞘に納めた聖剣をどうするのか。次の問いも難問だ。

 

 「イヤダイヤダ」


 聖剣に忌避感を抱き始めた滝には聖剣を持っていくという選択肢が薄くなっている。しかしながら、聖剣が離れないということは付いてくるということ。聖剣を持っていかなければならないかもしれない。滝の意志に反して。

 まだ聖剣鞘付きを()()()()()()()のでなんとも言えないが…薄々わかっている。


 「どうか離れますように」


 祈った。

 初めてだ。真剣に祈ったのは。


 そうして、鞘から抜いて聖剣をぶん回した。


 あり得ないことが起こった。

 擬音語でいうとブンとシュンだ。

 聖剣をぶん回して、両手から聖剣がすっぽ抜けて薄暗い闇の中に消えてった。そして、鞘・に・戻・っ・て・い・た・。


 は?!はぁっ??!

 わけがわからない。


 間違えて両手から離れて聖剣が戻ってきた。

 離れたは離れた。離れて戻ってくると…状況が悪化した。

 

 滝の心はスゲーけど嫌だった。


 もう一度やってみた。


 ブンシュン ブンシュン ブンシュン


 鞘に戻ったり、右手に戻ったりした。


 「…」

 

 右手にある聖剣を見てざっと後悔。これが剣に振り回されるってやつかとごちる。

 手から離れずぶん投げても鞘に戻るなまくらぁ。今度は戻ってきたよー。スゲーな。これこそ聖剣。もう聖剣でいい。ただし、名前はなまくらぁだ。これは覆らない。たとえ本当に聖剣だったと、確実に、わかったとしても、俺はこいつをなまくらぁと呼ぶ。

最初こそ剣を振るが紙すら切れないんだ。やけくそに中二よろしく気合いを込めて「はぁっあ」



……



………今ありのまま起こったことを話すぜ!


 中二よろしく気合いを込めて剣を振ったら、なまくらぁから眩いほどのエネルギー砲がでて遺跡に風穴開けよった。

 何言ってんの剣からビーム出てくるわけねぇと思ったよな。ねぇ見てよ、歴史的建造物にきれいな穴開けたんだぜ。

 すごいだろ、はっはっはっはっはー


 どうしよ。


 どっからどう見ても立派な歴史的建造物に穴開いてる。そこから神殿の祭壇にちょうどよく陽の光があたって幻想的にまでなっている。価値が高まったかな、ははは。


「なまくらぁっ」


 剣としてなまくらだったろ?どうしたぁ長き間ひとりぼっちだったから溜まってたもんブッハしたかったのかー?そうなんだろぉ。

 勘弁してよねー弁償しなきゃ…


 「うーん…ヨシ」


 トンズラしよ、さようならそしてごめんなさい。

 この国?のためなんか少しずつでも良いことしますから。

 

 さすがの滝も罪の意識があった模様。善行すると言っている。

 そうして滝はこの場からスタコラサッサと盗人のような足取りで姿を消したのだった。



 かくして駄剣は聖剣だった。


 好奇心は猫をも殺す

 大砲を撃って、手から離れない。手から離れない、大砲を撃つ。ロマン砲に舞い上がる前者に扱いきれないと悟る後者。果たしてどちらが良いのか…

 




最後まで読んでくれてありがとうございます。

よければポチッと評価をもらえるとうれしいです。

ご縁があればまたどこかで。

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