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14_転生者争いの結末

 

 宿舎での事件からしばらくしたあと。

 ルサレテはひとり、学園の敷地内を歩いていた。今までは妹に嫉妬して嫌がらせをしていた意地の悪い令嬢として白い目を向けられていたが、最近は違う。


「見て。ルサレテ様だわ。……ずっと妹に引き立て役として利用されていたそうよ。遂には濡れ衣を着せられて、お可哀想に」

「私もペトロニラ様を信じて疑っていたけど、申し訳ないことをしたわ」

「きっと相当辛かったよね。同情する……」


 ペトロニラがルサレテの部屋に押しかけて窓から突き落とそうとしたことが知れ渡り、今ではすれ違う度に同情的な視線を向けられている。


 あれからペトロニラがどうなったかと言うと、騎士団が介入し、彼女はナーウェル侯爵家から除籍されて――国外追放となった。ペトロニラだけではなく、ナーウェル侯爵家も一部の財産が没収されている。

 少し前までは国一番の花嫁候補と謳われるほどもてはやされていたというのに、国を出て行くときは王族を騙していた悪女として、民衆から罵倒され、石を投げつけられ、惨めな姿を晒した。


 そんな我が子の姿に両親は大きなショックを受け、憔悴している。特に母親は寝込みがちになった。両親を気の毒にも思うし、疑っていたことを謝罪もされたが、一度失った信頼が謝罪だけで簡単に回復することはなかった。だから、家に戻るつもりはない。

 ルサレテは妹のことを思い浮かべながら小さく息を吐く。


(あのわがままな性格で外の世界でやっていくのは大変でしょうけど……自業自得ね)


 彼女は国外の修道院で一生涯世話になることが決まっている。俗世への執着を手放して、犯した罪を償うための修行の日々が待っている。ペトロニラの場合、前世で犯した罪もそこで償うべきだろう。

 しかし、散々ひどい仕打ちを受けたと言えども、彼女は曲がりなりにも妹だった。妹が追放されてどこかもやもやしてすっきりしないのは、長い間一緒に過ごした情が心の片隅に残っているからかもしれない。


 その後のシャロの話によると、ペトロニラは生まれたときから前世の記憶があり、被験者として美男子たちの攻略に相当夢中になっていたという。

 けれど、ゲームのプレイヤーではなくなって、泡が弾けるように一瞬で周りの信頼を失っていたところを見るに、ゲームが上手くても、元々の人格に問題があったのだと思われる。


 思案を巡らせながらひとり庭園を歩いていると、後ろからルイに話しかけられた。


「ルサレテ嬢。少しいいか?」

「は、はい。構いませんが、どうかなさいましたか?」

「その後……体調は大丈夫か?」

「ええ。特に問題ありません」

「このごろは激動だったから、精神的に参っているのではないかと気になった。困ったことがあればいつでも言うといい。力になる。それが僕がそなたにできる……せめてもの償いだ」

「償っていただく必要はありませんよ」


 ペトロニラが断罪されてから、ルイやエリオット、サイラスにはすでに何度も謝ってもらっている。もちろん、ペトロニラの言葉を鵜呑みにしてルサレテを邪険に扱ってきたことについて。

 ルサレテは首を横に振って言った。


「それより……殿下の方こそ心配です。殿下はずっと妹と親しくしておられましたから。心の傷も深いはずです。どうかご自愛くださいね」

「……!」


 労りの言葉のあとに優しく目を細めれば、彼はわずかに目を見開いた。


「そなたの優しさに長らく気づけなかった自分は、本当に愚かだ」


 そのとき、ルイの頭上に浮かぶ好感度メーターが、0から1に変わった。ニュートラルな状態からプラスへの初めての数値増加だった。

 しかし潔白が証明されたルサレテは、ロアン以外の攻略対象の好感度はどうでもよかった。


 ルイ以外の攻略対象たちも、ペトロニラの断罪を機にルサレテへの一切の疑いが晴れて親切にしてくれている。嫌われているわけでも好かれているわけでもない、ニュートラルな0の状態を今後も維持していきたいと思っている。


 実は今日、攻略対象に話しかけられるのはルイで3人目だった。その前に、エリオットとサイラスもやって来て、「体調はどうか」と同じ質問を投げかけられた。ルサレテはそれぞれに対し、ルイにしたのと同じ受け答えをするのだった。


「ところで、殿下にひとつ、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「ああ、なんでも聞いてくれ」

「ロアン様がここ一週間、学園に来ておりません。何か……ご存知ですか?」

「いや、何も聞いていないな。気になるなら屋敷を訪ねてみたらどうだ?」


 どうやらルイはロアンの病気のことを恐らく知らない。もし知っていたら、一週間学園に来ていない状態に、心配しないはずがないから。

 ルイはそう言って、ロアンが現在生活の拠点にしているタウンハウスのメモをこちらに渡した。メモを手に持ちながら、目を瞬かせるルサレテ。


「突然押しかけて、迷惑ではないでしょうか……」

「ふ。何を言うかと思えば。そなたであればむしろ喜ぶはずだ」


 ロアンの好感度は随分高くなっている。他人からもとりわけ親しく見えていたのだと分かり、気恥ずかしくなって頬が赤くなった。


 ルイと別れてまもなく、空中ディスプレイに『イベント発生』の文字と地図が現れる。それは、病で伏せっているロアンのお見舞いイベント。

 指先で地図をタップすると、視界が歪み、一瞬で彼のタウンハウスへと移動していた。

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