表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/186

冒険者ギルドの闇

 リアルの時刻は、午前8時ちょうど。

 サイモンの世界では、深夜の時刻。

 またひとつ日付が更新され、秋アプデまで残り39日となった頃。


 ようやくヘキサン村を通過したサイモンは、辺りのブルーアイコンが異様に増えていることに気づいた。


 みな、一様に空を見上げて、驚きの声をあげている。


「おい、『鳥』だ!」


「デカい!」


 どうやら、リアルの世界で公開された『ドラゴン』の動画を見て、レイド戦に参加しようとしているパーティらしかった。


 山の斜面を埋め尽くすような、凄まじい人の数だった。

 いずれもレベルは30前後、現時点における最強装備を身に着けている。

 これが全員サイモンの味方なら頼もしいが、『鳥』ではなく、『ドラゴン』討伐のためのパーティだ。


 前回は、この辺りで『ドラゴン』が鳥の背中に突如出現したことになっている。

 いったいこの人の海は、どこまで広がっているのか。


 彼らの前で『ドラゴン』に化けるところを見られてはならないサイモンは、周囲の人ごみが上空の『鳥』に夢中になっているのを見計らい、さっとメニューを操作した。


「クレア、ヘカタン村にブルーアイコンはいるか」


『ぜんぜんいないよ、大丈夫。けどちょっとダーリンがこっちに来ていい状況かどうかはわかんないな』


「なぜだ?」


『突然空に謎の鳥が現れて、シーラちゃんと騎士団長アスレが、なんかいい感じになって来てるから』


「いい感じ?」


 映像は送られてこなかったが、サイモンは、その様子を想像してみた。

 先ほど争っていたシーラと騎士団長アスレが一時休戦し、並んで鳥を見ている状況だ。


 冒険者ギルドと騎士団が手を組めば、レイド戦のさらなる戦力となるだろう。


 この場合は、サイモンがいても邪魔になるだけだ。

 もしも彼らの近くで『ドラゴン』に化けたら、村ごと吹っ飛ばされるかもしれない。


「……なるほど、じゃあ俺が行ってはいけないな」


『はぁぁ~ッ!?』


 クレアの怒りに満ちた声が聞こえてきた。


『なんでそこで嫉妬に狂わないわけ!? あなたたちNPCの恋路をこっそり応援している一般プレイヤーの身にもなってよ! ヒロインが他の男の手に落ちようとしているんだよ!? むしろそういう属性なの!? アスシラ派なの!?』


「なんだなんだ、急にどうした」


『ダーリンはさ、ぶっちゃけシーラちゃんの事なんだと思ってるの!?』


「なにって……村の勇者だが?」


『はいブー!』


「じゃなくて、剣士」


『ちがう職業じゃない!』


「アタッカー?」


『ぜんぶ不正解! 戦闘から離れてー!』


 サイモンは、どうしてクレアが怒っているのかよく分からなかった。

 彼は13の時に戦争のために村を離れて、それから戦う事しか考えてこなかったのだ。

 人間もAIも、いちど学習した答えしか出すことができないのは同じである。


「それよりも、クレア。村から少し離れたひと目につかない所を案内してくれないか?」


『だから、そうやってひと目をしのんで逃げ回っても……はぅっ!?』


 クレアは、急にサイモンの言わんとしている事を理解したのか、大きく息をのんだ。


『そ、その……それって、ひょっとして、隠れて私と逢引きしたいって事じゃないわよね!? ひょっとして、く、くるの……!?』


「ああ、そろそろ『ドラゴン』に化けそうなんだ」


***


「……なんだあの『鳥』は」


 場所は変わって、ヘカタン村の入り口。


 クレアがサイモンと押し問答をしているそばで、シーラと騎士団長アスレも、上空の怪物を見上げ、声を潜めていた。

 シーラは、よだれを垂らしていた。


「美味しそう……『竜田揚げ』にしよう……」


「騎士団長どの、あれは……」


「ああ……」


 騎士団長アスレは、小さくうめいた。


「『ジズ』だ」


 どうやら、騎士団長アスレは巨鳥の正体を知っていたらしい。

 全身に鳥肌を立てて、いまいましい鳥を見上げていた。


「『ジズ』?」


「ああ、我が家に伝わる伝説によると、あの『鳥』は……」


 クレアは彼の話をよく聞き取ろうと、耳をそちらに傾けた。

 だが、その次に聞こえてきたのは、騎士団長アスレのうめき声だった。


「ぐぅっ!」


 何者かが背後から騎士団長アスレに襲いかかり、地面に引き倒し、真上から胸にナイフを突き立てていた。

 胸から鮮血が吹き出し、騎士団長アスレは悲鳴をあげた。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 周囲の上級兵たちも数名、刃のようなもので胸を貫かれていて、その場にばったりと倒れた。

 異変を察知したクレアは、咄嗟にサイモンに助けを求めていた。


「……! サイモン! すぐに来て!」


 残された兵士たちが散開し、咄嗟に身構えた。

 相手も同じ上級兵の鎧を身にまとっているのを見て、血相を変えた。


「貴様ッ!」


「一体なんだこのジョブは……宮選暗殺者インペリアル・アサシン……隠れジョブか!」


 暗殺者は、流れるような動きで兵士たちの間をすり抜け、通り過ぎていく。

 手には短いクサビ形のナイフを持っており、先端には一撃で致命傷になる毒が塗られているのだろう、上級兵たちも次々と倒れていった。


 シーラはその上級兵に対して身構えた。

 だが、相手はシーラに対しては攻撃をするそぶりをみせない。


 静かに兜を取ると、短い髪を揺らした。

 シーラは、こんな所に現れるはずのない彼女の登場に、驚いていた。


「メイシーさん……受付けしてなくていいの?」


「これもギルドの受付の仕事です」


 ギルドの受付嬢は、『鳥』には目もくれずに崖の下を覗き込むと、薬草の群れを見つけた。


「クエスト完了です、シーラ。報酬はあとでギルドに受け取りに来てください」


 なにやら手に金属の筒を持つと、パキっと音を立ててリングの部品を引き抜いた。

 筒をそのまま崖の下に放り込むと、地面が揺すぶられるような爆発が起こった。


 シーラは、崖の下をのぞいて言葉をうしなった。


 たちまち周囲が高温につつまれ、『トキの薬草』は炎につつまれていた。


「貴様ら……一体どういうつもりだ……!」


 騎士団長アスレは、地べたでうめき声をあげた。


「デセウスは、『竜騎士団』の推進派ではないのか……!? これほどの『トキの薬草』があれば、莫大な資産になるというのに、燃やしていったい何の得が……!」


 騎士団長アスレは、はっと気づいた。


「まさか……『トキの薬草』が見つからないのは、そういう事か……貴様ら推進派の貴族が、すでに独占しているのか!」


 受付嬢は、素早くムチをふるった。石の上で火花が散り、騎士団長アスレの胴体を引き裂いた。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「困るんですよね……いざ我々が売りに出す前に、市場価格が暴落してしまっていては。

 1本1万ヘカタールの値段で集めているものが、それ以上の値段になってくれなければ、ギルドマスターにお叱りを受けてしまいます」


 もう一度、騎士団長アスレの背中に一振する。

 びしん、と音を立てて、騎士団長アスレの背中が切り裂かれた。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 受付嬢は、ムチをくるくると巻き取ると、ふたたび崖の下を見下ろした。


「私にも剣を向けてみますか、シーラ」


 シーラがすでに戦意を失っているのを、受付嬢は理解していた。

 彼女にとって、冒険者ギルドは家族も同然だ。

 裏切られた事がいまだに信じられなかった。


 燃え上がる『トキの薬草』をじっと見降ろして、ギルドの受付嬢は言った。


「やってみなさい、あなたはギルドが認めた勇者です。勇者には、運命に抗う権利がある」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ