↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
91/186

トキの薬草の使い道

「おっと、国王軍の方で動きがあるようだな」


 サイモンがキャンプ地を見下ろすと、帷幕の中の上級兵たちが集まって、シーラの前に並んでいた。


 上級兵たちは胸に手を当てる仕草をしている。

 あれは騎士たちの最大級の敬礼だ。


「シーラ殿! 貴殿を我が部隊の臨時隊長に任命いたします!」


「うむ、くるしゅうない」


 シーラは鷹揚に頷いたが、頬を赤くして目をキラキラさせており、嬉しいのがよくわかる表情だった。


 どうやらシーラの圧力に屈したのだ。

 上級兵は、さらに言った。


「これより、シーラ隊長の命に従い、我々の目的地へとご案内いたします! ここにいる数名が小編隊を組み、パーティをご一緒させていただきます!」


「全員いかないの?」


 容赦ないシーラの圧力に、ぴくっと眉を吊り上げる上級兵。

 隣にいた老兵が、代わりに言った。


「お言葉ですが、この軍隊はほとんどが徴兵されたばかりの一般市民で構成されています。

 ほとんど戦力にならない上に、慣れない登山と、魔物との戦闘で、みな疲弊しきっております。多めの休息を与える必要があります」


「そっか……それもそうよね。この軍隊、弱っちいもんね」


 シーラは納得して、素直にうなずいた。

 上級兵たちは、にやり、と笑みを浮かべた。


「くっくっく……愚かな小娘め。こんなもの、貴様を本隊から引き離すための方便にすぎん」


「その間に、我々は適当な理由をでっちあげて途中下山よ……」


 あくまでこれは、騎士団長アスレが目を覚ますまでの時間稼ぎにすぎない。

 そもそも『竜騎士団』の礎になるこの調査に、騎士団が本気を出すわけがなかった。


 最強の騎士団の外聞を保ちながら、弱い新兵たちを理由にして『竜騎士団』の成立を邪魔する、そのための完璧な編成なのである。

 じつにシンプルな解決策だ。


「ふっ、待て、お前ら……」


 上級兵たちが企んでいるところへ、帷幕によりかかった状態で、ふらりと騎士団長が現れた。


「騎士団長殿……! お目覚めになりましたか!」


「ああ……だが、のんびり寝てもいられなくなったようだな」


 騎士団長アスレは、脂汗をかきながら兵士たちに言った。


「そのパーティに、俺も参加させてもらおうか」


「騎士団長!?」


「俺は最後まで団長としての責務を果たしたいだけだ……ここで尻尾を巻いて逃げては、騎士の名折れというもの」


 上級兵たちは、騎士団長アスレの覚悟に感涙していた。

 シーラは、思いっ切り嫌そうな顔をした。


「えー……来なくていいよ」


「くっそ! 小娘……じゃなかったシーラ隊長! 露骨に見下げすぎだ!」


「国内外にファンクラブのある騎士団長アスレさまが、ご一緒しようとおっしゃっているのだぞ! ここは快諾してはどうか!」


「わかった……いいけど、遅れたら置いてくよ? で、次の目的地は? ヘキサン村?」


「ヘキサン村に用はない、ヘカタン村だ」


「そう。ちゃんとある程度わかってるんだ。じゃあ、先に行くわ」


 シーラの長い足が地面を蹴ると、土が頭上まで飛び散り、上級兵たちはのけぞった。

 いっしゅん目を離したすきに、シーラは野生の獣のようなスピードで兵士たちの間を駆け抜け、帷幕をかるがると飛び越えて、夜の闇に消え去っていた。


「……速いッ!」


「急げ、追いかけろ!」


「あの動き、やはり『魔の山の子』だな」


 あわただしくシーラの後を追いかけていく準備をする騎士団長アスレと、上級兵たち。


 遠くからそれを見守っていたクレアが、歓声をあげた。


「ひゃー!? シーラちゃんって本気で走ったら野生動物みたい!」


「……でしょ? ……あの『シーラ走り』が出るまで3千回はリテイクしまくったもの……」


「よし、俺たちも行こう。クレア、また偵察を頼む」


「うん、先に行くね、ダーリン!」


 岩の上で様子を見ていたサイモンたちも、シーラの後をついて行く事にした。

 次も『撮影者』がいないか、クレアに偵察を頼んで、ふと、すでにここに1人、ブルーアイコンがいる事に気づいた。


「おっと……アカシノ、お前もついてくるのか?」


「……ううん、私は、仕事の続きしなきゃ……」


 ふすー、と深呼吸するエルフ。

 キャンプ地が静かになると、滝の音だけが静かに響いてくる。

 エルフは、ぺたん、と岩の上に胡坐をかいて座り込んだ。


「……ここ、私のお気になんだ……人来ないし、滝の音しかしないし……チャット切ってるから、用事があったら直接ここに会いに来なよ……」


「そうか、わかった」


「……そういえば……」


 エルフは、急に思い出したように言った。


「……よく考えたら、ソノミネに相談されてたわ……シーラの故郷の『門番』のキャラについて、仲間と意見が割れててさ……貴方の製作には直接関わってないけど、最後にゴーサイン出したの私だったわ……」


 サイモンは、目を膨らませた。

 人の誕生には、生まれる当人の想像以上に複雑な多くの人の手が関わっているものだった。

 エルフは、優しい微笑みを浮かべて、サイモンの肩に触れた。


「……最初みたときは何だこりゃって思ったけど……よく見るとカッコいいじゃん……また会いたかったら、ここに来るといいよ……」


***


 リアルの時刻は、午前7時50分。

 シーラの世界では、港町の明かりがすっかり消えてしまった頃。


 ほとんど低空飛行するような速度で魔の山を登りつめたシーラは、ひときわ高い丘の上で立ち止まった。


 目をつぶっても、においでわかる、ヘカタン村の入り口にやってきた。

 今朝この村を出たばかりなのに、懐かしくて涙が出そうになった。


 どうしてこんな気持ちになるのかわからない。

 彼女の心は、今まで遠い遠い場所まで旅をしていて、ようやくここに戻って来たのかもしれない。


「ただいま」


 来た道を振り返ってみたが、当然のように誰一人、シーラの後ろにいない。

 一緒にパーティを組んだ連中は、いまどのあたりにいるのか。


 サイモンがいつもやっているように、シーラも崖から道を見下ろしてみた。


 木々に遮られて見えなかった崖を見下ろすと、ピンク色の薬草がざわざわと群生しているのが見えた。


「……」


 シーラは、目の前の光景を信じることができず、しばらく声も出さずに黙っていた。

『トキの薬草』だ。

『ドラゴン』の血を必要とする秘薬。


 どうしてこんな所に『トキの薬草』が生えているのか、考えてみた。


 だが、考えても、考えても。

 彼女には、毎日ずっとここに立っていた門番の顔しか思い浮かばなかった。


「サイモン……何があったの?」


 シーラがぼんやりと考えている間に、どかどかと足音を立てて、騎士団が村までやってきた。


 上級兵たちの直剣は、それぞれ青白い光を灯している。

 どうやら騎士団長アスレは『魔剣複製』のスキルを駆使し、デビルホース(魔の山に現れる馬形のモンスター。蹴られると遠くに飛ばされる)から奪った【機動力上昇】のスキルをそれぞれの兵士の剣に持たせていたようだった。


 自分はまともに歩けないので、一人の兵士に背負われている状態だったが。

 ぜーはー息を切らしながら、シーラのいる崖までやってきた。


「まったく、信じられない脚力だ……冒険者にしておくのは惜しい」


「騎士団長どの! あれをご覧ください!」


 同じく『トキの薬草』の群生を目の当たりにし、騎士団長アスレは息をのんだ。


「まさか……おい、なんだこれは……」


 騎士団長アスレは、恐怖で鳥肌を立てていた。

 その光景は、『覚醒状態』の『ドラゴン』が近くにいることを示唆していたからだ。

 上級兵の1人は、嬉々として言った。


「やりましたね、騎士団長どの! これほどの『トキの薬草』があれば、国内の『混交竜血』の問題はほぼ解決するでしょう!」


「解決……? なにがだ……?」


「あれは『混交竜血』の特効薬ですよ。推進派が『竜騎士団』を結成すべき根拠としてかかげているのが、国内の『混交竜血』の問題が野放しになっているからだったはず」


「……逆だ」


 騎士団長アスレは、首を振った。


「よく考えろ……ここにある『トキの薬草』を使いつくしたら、『混交竜血』は二度と発生しないのか……? 違うだろう。これは数に限りがある……」


「ですが……少しでも救うことができれば……」


「だから考えろ。この『トキの薬草』は、逆に『竜騎士団』にも利用できるとは思わんか……? 量をわざと少なく投与すれば、『ドラゴン』になった兵士を大人しくさせるムチとしても使えるではないか……。

 さらに国内の『混交竜血』を根絶させずに、軍隊として保有し続けていれば、いずれ『覚醒状態』の患者から、いまよりさらに大量の『トキの薬草』を手に入れられる……」


 つまり『竜騎士団』は、『トキの薬草』を量産する機関なのだ。

 国内の『混交竜血』の問題を一方で利用し、なおかつ一方で解決するために結成される。


 帝国の編み出した、恐るべき『呪い』の循環システム。

 根絶するのではなく、共生するのである。


 騎士団長アスレは、目を怪しく光らせて言った。


「これが推進派に発見されてはならない……すべて燃やせ」


 騎士団長アスレの命令に、上級兵たちは震え上がった。

 これは『病気』ではない、『呪い』なのだ。


 上級兵が呪文を唱えると、指先に魔法の火を灯した。

 ふいに、その火がかき消された。


 とっさに、シーラの剣がその火を弾き飛ばしたのだ。

 シーラは、そのまま騎士団長アスレの首筋に銀の剣を添えていた。


「止めろ!」


 周囲の上級兵たちが、シーラに剣や槍を突き付け、ぴたりと動きを止めていた。


「薬草を粗末に扱っちゃいけないって、お母さんに教わらなかった……?」


 騎士団長アスレは、身じろぎひとつせずに言った。


「この剣をどけたまえ、シーラ隊長……私は最強でなければならない。この領地の盾でなくてはならない。……自分の目が届く人間を救って、自分の気持ちを守って満足しているような弱者ではいられないのだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。