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ドラゴン談義

 シーラの家からまっすぐ村長宅におもむいて、門番の役目を1日あける許可をもらったサイモン。


 相変わらず村長は、


「ひどいのぅ。未来のある少年のためなら、わしのような老い先短いか弱い年寄りのことなどどうでもええんじゃろ? この薄情者めが。化けてでてやるわい」


 などと、ぐちぐち文句を言っていたが、いつも通り許可してくれた。

 もうサイモンも慣れたものである。


 こんな事を言ってサイモンを困らせているが、この村長はサイモンの知る限り、とんでもない知恵者だった。


 魔の山に挑む冒険者が増えると予想して、ヘカタン村に自由市を築き、ただの貝殻をヘカタールという通貨としてでっちあげ、商人を通じてそれを山の全域にまで流通させてしまったほどの大賢者である。


「村長、ところで『ドラゴン』が『覚醒』状態になるっていうのは、どういう事なんだ?」


 この村長は、まだ魔の山に『ドラゴン』がいた開拓時代の生き残りだった。


 その戦い方にも詳しい。


 前回サイモンが分かったのは、『トキの薬草』を手に入れるには、『覚醒』状態の『ドラゴン』の血が必要だという事だった。


 その『覚醒』がよく分からない。

 極端に強くなる、という事しか聞いたことがなかったサイモンは、対策がないのか聞いてみることにした。


 すると村長は、きゅぴりん、と音を立てて目の色を変えた。


「『ドラゴン』の中でも多頭種は、ひとつの体に複数の頭を持っていて、交代して眠るらしいのじゃ。

 ゆえに昼も夜も起きていて、寝込みを襲うことが出来んという。それは知っているかな?」


「頭の多い『ドラゴン』がいる、というおとぎ話なら、聞いたことがある」


「まあ、今の世代なら、そんなもんじゃろう。聞くところによると、どうやらひとつの頭の中でも、脳がわかれて複数の人格を持っているらしい」


「それは聞いたことがなかった」


「『最強の生物』を目指した結果じゃからな。回游魚の一種もこれと同じで、眠らずに泳ぎ続けるらしい。

 これのお陰でドラゴンは眠らないが、その代わりに普段は本来の力の半分しか出せない。

 これに対して、すべての脳が起きている状態が『覚醒』状態じゃ。

 種族によっては100年に一度とも言われるが、このとき『ドラゴン』は最大の力を発揮すると言われている」


「『覚醒』状態のドラゴンを倒す方法はあるのか?」


「そんな方法は知らんのぅ。すべてのステータスが十倍に膨れ上がり、星の加護を受けて、あらゆるデバフを無効にする『無敵状態』になるらしい。

 歴戦のドラゴンスレイヤーでも『覚醒』状態のときはやり過ごすものじゃよ。しばらくすると、ほとんどすべての脳が眠る『休眠期』が来るので……そこを狩る」


 開拓時代のドラゴンスレイヤーは、この効率よい狩りかたを発見して以降、覚醒した『ドラゴン』との戦闘はほとんど避けるようになったという。


 それでも命がけの戦闘にはなったが、『休眠期』を待った方が結果的に人的な被害も少なく、より確実に利益をられる。


『トキの薬草』は、弱っている者を救うために必要なものだ。

 それを手に入れる方法はあっても、他の大勢の者まで犠牲にすることになるため、あえて見捨てられてしまったのだ。


 ふと、サイモンは思った。

 これほどの知識を持っている長老ならば、もう一つの方法も知っているのではないだろうか。


「長老は、『混合竜血』の血が『トキの薬草』を産むというのは、知っていたのか?」


 これは恐らく、国王軍も知っていた事だろう。

 サイモンの血が『トキの薬草もどき』を産むのを見て、「末期症状だ」と言い当てていた。


 長老は、これまで多くの『混交竜血』を見てきたはずだ。

 だったら、その血がもつ不思議な作用も、知っていてもおかしくない。


 長老は、首を横に振った。


「その事は、どうか他言しないでほしい。末期患者の血が『トキの薬草』を産むというのは、村の大体の老人が知っておる」


「どうして隠しているんだ? それが分かっているんだったら、オーレンの事もどうにかなったんじゃないか?」


「わしには、どうにかなるとは思えんかったがな。本当に『ドラゴン』になる直前の血が大量に必要なので、あの病弱な子どもでは、まず命がもたないじゃろう。

 自分の血が薬になると言って大量に出血していたら、たとえ病気が治っても命が助からんわい。『混交竜血』が治ったところで、それでは意味がない。

 けっきょく、誰かの命と引き換えに得られたものを、他の者の為に使わなければならないのじゃ」


「そうか……」


 サイモンは、『混交竜血』にかかっているはずなのに、ぴんぴんしているが、おそらく体が頑丈すぎるのだ。


 それどころか、『ドラゴン』になる直前までその異変に気づかないのだ。

 どうやら、自分の基準で考えていてはダメなようだった。


 長老は、目じりを下げて悲しい目つきになった。


「もしもその製法が広く知られれば、世の中に多くの血が流れるじゃろう……たとえばシーラなら、冒険者ギルドで他の依頼書を見ているじゃろう?」


「ああ、自分の依頼書を出すときに、他の依頼書も見ているはずだ」


「そこから他の末期患者の居場所を突き止めて、どこかに監禁し、そいつが『ドラゴン』になる直前に血を奪って、その血で『トキの薬草』を育てて弟を助けていたかもしれない」


「容易に想像がつく……そうか、長老、そこまで考えてくれていたんだな」


「そうでもないがな。いわゆる『呪い』じゃよ、『混交竜血』は。

『最強の生命体』になるために自らに魔法をかけつづけたいにしえの魔法使いファフニールの呪いなのじゃ。

 この呪いの力が『最強の薬草』を産む、というのは分かっておる。……じゃが、所詮それは『呪い』の力なのじゃ」


 村長は、髭を膨らませてため息をついた。


「わしは、老い先短いか弱い年寄りなのでな、これと似たような悲劇を他にもたくさん見てきただけじゃよ。

 たとえ人を救う方法がそれ以外になかろうと、『呪い』の力は新たな悲劇を生むだけじゃ」


 なるほど、とサイモンは頷いた。

 まさに呪いなのだ。


『覚醒』状態のドラゴンと戦えば犠牲者が出る。

『混交竜血』の血を使っても犠牲者が出る。

 だから、老人たちはその製法を秘密にしているのだ。


 けれども、それさえ分かれば、あとは行動するのみだ。

 サイモンは、さっそく立ち上がった。


「なるほど、村長、為になる話をありがとう」


「礼にはおよばんよ」


「いや、礼はかえさせてもらうよ。必ず」


 つまり、同じ日をずっとループしている『混合竜血』のサイモンは、異例中の異例。


 もっとも効率よく『トキの薬草』を量産できる、チート状態にある、と言う事だ。

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