三分岐
サイモンが宿をとれないかシスターたちと交渉していると、不思議に思ったらしいオーレンが尋ねてきた。
「サイモン、今日はこの村に泊まるの?」
「ああ、『鳥』と戦いたいからな。本当はギリギリまで村の外でレベル上げをして、そのまま挑みたいが、そうもいかないだろう」
「どうして?」
「オーレンが途中で眠たくなったら、村まで引き返さないといけないだろう? ヘカタン村だと遠すぎる」
「僕はへっちゃらだよ、なんなら野宿でも平気だよ?」
「だめよ、オーレン。はじめて冒険したような子が大丈夫なんていうのが一番こわいわ。ぜったいに疲れて動けなくなるから」
「シーラの言うとおりだ。それに、魔の山での野宿は恐ろしいぞ。
ついこの前、この近くで夜営をしていた国王軍が、オーガの群れに襲われて壊滅しかかっていたことがある。備えが万全でも、何が起こるか分からんからな」
「へー、国王軍が魔の山に来てたんだ? 何の用事だったんだろう」
「知らない、司令官が逃げたらしいので聞けなかった」
「なにそれ? 冒険者ギルドの人も言ってたけど、嫌な感じねぇ」
シーラが冒険者ギルドの人と言っているのは、恐らく国王軍を毛嫌いしているギルド長あたりだろう。
そういえば、あの国王軍は一体なんの目的でこの山を登っていたのだろうか。
恐らく、今も山の中腹で野営をしているはずだが。
もと軍人とはいっても命令系統が違うので、サイモンには調べられないが。
話しだけでも聞いた方がいいだろうか。
門番として村を通行する理由を聞くぐらいは、聞いても許されるかもしれない。
「ともかく、レベル上げの方が優先だな。イヴ、ヘリオーネ。この近辺でモンスターが出て困っているようなことはないか?」
「モンスターですか?」
二人のシスターは、目を合わせてしばらく考え込んでいた。
モンスターの被害はしょっちゅうだが、たいてい自力で対処しているので、特に困るような事態はない。
「モンスターと言うのかはわかりませんが、この先の墓地に幽霊がよく出るそうです」
「私たちは見たことがありませんが、大勢の村人たちがそう言っています」
「なるほど、墓地だな。よし、行ってみるか」
「ちょーっと待って! サイモン!」
すっかり墓地に行く気になって、槍を担いだサイモン。
女戦士は、がしっとサイモンの腕をつかんで引き留めた。
「な、な、なに言ってるの!? この流れ、ぜったいゴーストと戦うイベントだよ!?」
「戦えばよくないか?」
「ムリムリムリ! 戦えるわけないじゃん!」
「それは戦ってみないと分からないだろう?」
「だって、私たちのメンバー構成みてよ! 戦士! 剣士! 槍使い! ショタ! これでもかってぐらい物理攻撃中心なのに、ゴースト戦とか相性悪すぎじゃない!?」
「たまに、お前は俺よりもモンスターに詳しいな……」
ブルーアイコンの冒険者は、ときどきゲームに関するするどい知見を持っていたりするので、なかなか侮れなかった。
オーレンも、サイモンの腕をぎゅっとつかんで来た。
「サイモン、僕も幽霊とは戦えないと思うよ。考え直した方がいいよ……」
「ふむ、そう思うか」
「へぇー、オーレンきゅん、幽霊が怖い感じなんだ。へぇー」
「ちがうよ、怖いとかじゃないよ、幽霊ってもともと村の人たちじゃないの? 戦うような相手じゃないよ」
「ごめんなさい……心の汚れた女戦士でごめんなさい……」
めそめそ泣き始めた女戦士を、オーレンはよしよしと頭を撫でて慰めていた。
オーレンは病気で動けない間、戦争でいなくなった人たちの事をずっと考えてきたので、もしも幽霊と出会ったらどうするかも考えていたらしい。
「じゃあ、戦わない事にしよう。幽霊が出る原因だけでも探ってみるか?」
「うん、そうだね、僕もそうしたい」
「はー、なるほど、そういう流れになるんだ。……まあ、この展開なら物理モンスターや犯人も出るだろうし、それならいいかな」
「ねぇ、サイモン」
シーラが、サイモンの腕をぎゅっとつかんで来た。
口を開いて、何か言うのかと思ったが、とくにシーラは何も言わなかった。
「どうしたんだ?」
「べつにー」
ぷーっ、と膨れてしまったシーラ。
よく分からないが、握った手を離さなかった。
サイモンが突然手に生えてきた人面のこぶを見るような目でシーラを見ていると、女戦士は、まったく気づいていないサイモンのためにチャットを送ってきた。
『サイモン、シーラちゃんのこと気遣ってあげて』
「そうか、シーラは剣が折れているんだったな。まずは武器を探さないといけないな」
「このにぶちん。シーラちゃんよく見てよ」
サイモンは、シーラをじーっと見てみた。
オーレンと同じあま色の髪の毛、頬には少し朱がさしている。
いつもはその辺のモンスターが逃げ出すくらい鋭いとび色の目が、サイモンを見るときは優しい。
手は握ったまま離さないのに、サイモンの視線から逃れるようにそっぽを向いている。
しばらくシーラを見ていたが、サイモンにはますます分からなかった。
かなり間があったが、ようやくシーラは口を開いた。
「サイモン、ほら、私は剣が、折れちゃったから……ここで探してても、いいかなーって、思うんだけど?」
「そうか、なら一緒に探してから行こう。シーラは主力だからな」
「くあーっ!!!」
サイモンに任せているとらちが明かないので、女戦士はオーレンに抱き着いて騒いだ。
「オバケ怖い~! やだ~! 夜中に墓地に行くイベントとか行きたくない~! ぴぇぇ~!」
「なんだ、怖がりだな、女戦士は。そういう事なら早く言えばいいのに」
「冒険者がオバケを怖がってちゃダメだよね」
「ぐぅぅ、私頑張ったよシーラちゃん」
とりあえず、幽霊の問題は解決できそうになかった。
なんらかのボスモンスターが出るのだろうが、戦えるのがサイモンだけではあまり意味がない。
女戦士はまだレベルが低いので、どうにかすればレベルが1つ2つあげられるかもしれないのだが、サイモンはほぼ無理だろう。
「すまないが、幽霊の問題は解決できそうにない」
「大丈夫ですよ、もともと幽霊が出るという噂だけですから」
「幽霊が出て、困ると感じるかどうかは、生きている人次第です」
シスターとの交渉も流れてしまった。
一行は振り出しにもどって、レベルアップの方策を考え始めた。
「どうする? その『鳥』が来るまであと30分もあるよ?」
「かといって、その辺の雑魚モンスターをだらだら狩り続けても、大して変わらないだろうな……」
商人アッドスが提供してくれるモンスターは、強すぎるので1日に1個が限度だろう。
仮に新しいモンスターを教えてくれたとして、レイド戦にギリギリになってしまうのでは困る。
「よし、今日は休むか。レイド戦まで解散だ。それぞれ必要な準備しておこう」
「ゆっくりできるね。じゃあみんな、まくら投げ大会しよう!」
女戦士が思い切り修学旅行の宿の気でいると、一行はそれぞれ言った。
「私は剣を探さないといけないから、村をぶらぶら歩いて来るわ。冒険者も多かったから、交渉できるかもしれないし」
「僕、墓地の幽霊が気になるから行ってくるよ。シスターさんに詳しい話を聞いて、なにかお供えの料理を作っていこうと思うんだ」
「俺は王国軍に話を聞いてくる。ここからそんなに距離は離れていないはずだし、すぐに戻ってくる」
「はっ、これはまさか『三分岐』……ッ!? どのイベントについていくかで今後の展開が変わっていくやつだ! うわーん、悩むなぁー!」
TRPGでも分岐が苦手な女戦士は、うんうん頭を悩ませていた。




