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ブルーアイコンの謎

 サイモンは、村を駆け回ってブルーアイコンの冒険者たちを探した。

 夢の中で出会った人物の中で、まだ彼らにだけ会っていない。


 しかし、それらしき姿を探しても、村の中のどこにも見つからなかった。


「どこだ……どこにいる」


 朝の村を行き交う通行人をみわたしていたサイモンは、不意に空を見上げた。

 さきほど水平線に見えていた太陽は、すでに屋根の高さにまで届きそうな位置にある。


「そうだ、確かこの時間は……」


 村に入ろうとしていた冒険者たちを、サイモンが引き留めていた時間だった。

 サイモンの中に、ある考えがよぎる。

 もしも、村人たちが昨日と同じ1日を繰り返しているのならば、彼らもまだ村に入っていないことになる。


 サイモンは、門まで走り出した。

 今ならまだ間に合う。

 だが、途中で考えを改め、走るのをやめた。


(落ち着け……冷静になれ)


 よく考えてみたら、バカらしい。

 自分以外がみな同じ1日を繰り返すなど、まるでおとぎ話だ。

 毎日毎日、退屈な門番の仕事を続けているせいで、立ちながらちょっと変な夢を見てしまっただけではないのか。


 頭の中で勝手にパズルのピースを組み合わせて、ありそうな非日常を夢に見てしまったのだ。

 そう考えた方が、よっぽど自然な気がする。


 だが……あの変な連中は違う。

 もしも昨日の出来事が自分の想像によって生み出されたものだとしたら、あんな変な連中が、現実にもいるわけがない。

 あの変な連中と、もう一度会うようなことがあれば。

 たぶん、ただの夢ではなかったと確信できるはずだ。


 気を引き締めて、サイモンは門の前に立った。


 日が徐々に昇っていくが、ヘカタンの山風はいつも涼しい。


 石塀の巣からウサギたちがひょこひょこと飛び出して、草むらで遊び始めた。

 よし、来るなら来い。


 だが、一向に誰も現れない。


 太陽は、そろそろ真上に差し掛かろうとしていた。

 昨日と同じなら、もうとっくにブルーアイコンの冒険者たちと出会っているはずだ。


 だが、彼らは来なかった。


 サイモンは、息をついた。

 そして、これが現実か、とも思った。


(……やっぱり、俺が変な夢を見ただけか)


 やがて、昼に近い時間になった。

 サイモンは、お腹がすくのを感じて、いつものように丘の上から景色を見晴らそうとした。


(ええと、ホワイトアイコンが……ひとつ、ふたつ)


 ホワイトアイコンの数から、山を登ってくる2つのグループがあるのが分かる。

 一つは、恐らく乗合馬車だろう。

 距離的にも、あと3時間ほどで到着しそうだ。


 そして、もう一つのグループに視線を合わせたとき、ギラっと放たれた金属光に目を焼かれ、サイモンは背中にどっと汗をかいた。


(……ッ!)


 耳の奥で、血管がバクバクと音を立てる。

 じっと目を凝らしたが、サイモンにはそれ以上、詳細に彼らの姿を見ることができなかった。


 恐らく、何らかの装備がたまたま太陽光を反射したのだろう。

 まだ軍旗も見えない、馬も見えない。

 見えたのは、光が一瞬。

 だが、金属製の装備で、この人数ならば、必然的に到着は明日になるはず。

 恐らく、山の途中でキャンプを始める。

 国王軍と同様に。


「……なるほど、ただの夢じゃないってことだな?」


 そう、何もかもが、夢の通りだった。

 まるで昨日の朝の時点にまで巻き戻ったかのように。

 唯一、夢と違っているのは、この世界にはブルーアイコンの冒険者たちが存在しない、ということだった。


「あっ、サイモンじゃーん!」


「サイモーン! なんか超懐かしい! 会いたかったぁー!」


 そのとき、どこからか軽薄な声が聞こえてきた。

 振り返ると、村の奥から出てくる3名の少年少女の姿がある。


「お前ら……」


 サイモンは、言葉を失った。


 彼らの頭上には、蒼天のように澄み渡るブルーアイコン。

 まだ冒険者を始めたばかりのような、ちぐはぐな装備に、腕には炎の盾を身につけている。


「イタチとったどー!」


 どうやら、モンスターを討伐して、山から降りてきたところのようだ。

 女戦士が肩に担いでいるのは、巨大なイタチのようなモンスター、『エアリアル』だった。


 初心者パーティが、本当に魔の山から生還してきたというのか。

 サイモンが声もだせずにいると、冒険者たちはうろたえた。


「あれー!? サイモン反応薄い!」


「俺たち、また何かやっちゃいましたか!?」


 冒険者のリーダーは、はっと気づいたような顔をして、なにやらごそごそ体をさぐり始めた。


「そうだ、そうだ!」


 そして、彼らは首に提げている紐を引っ張り、銅で出来たFランクのネームタグを掲げて見せたのだった。


 ……どこからが夢で、どこからが夢ではないのか。

 サイモンは頭を抱えたが、やがて考えたところで仕方がないのだという結論に至った。


「……なるほど、ただの夢じゃないってことか」

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