表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/186

教会の祈り子

 リアルの時刻は、午前6時10分。

 サイモンたちの世界では、日が西の空に傾くころ。


 一行は、隣村のヘキサン村へとやってきた。

 集落の規模はヘカタン村とさほど変わらないが、この村にしかないものがある。

 教会と、転移ポートだ。


「久しぶりだな、この村に来るのは」


「今日は人がいっぱいいるわね。お祭りかしら?」


「お祭りはもう少し先のはずだよ。向こうの世界でなにかあるのかも」


 オレンジ色の転移ポートの周りには、大勢のブルーアイコンの冒険者たちが集まっていた。


「ふんふん、朝のプレイヤーがみんな目覚めはじめたみたいねー。やっぱみんな朝ログインするよねー」


 同じブルーアイコンの女戦士は、シッポをぶんぶん振りながら彼らを見渡していた。

 初ログインしてから雑踏をのんびり眺める暇などなかった彼女は、その風景を珍しげに見ている。


「あ、あの人もログインしてる。サイモンししょー、ちょっと待ってもらっていい?」


「知り合いがいるのか?」


「いるのよ、とりあえず朝起きたらログインボーナスもらっとかないと1日がはじまらない人が。うちのメンバーにもねー」


「『ログインボーナス』とはなんだ?」


「おい、女戦士!」


 すると村の奥から、見覚えのある双剣士がやってきた。

 彼はまっすぐ人ごみをかき分けて進んでくると、女戦士とまっすぐ顔をつきあわせた。


「きたー! リーダー! おはよー!」


「おはようはいいけど、そ、そのレベルどうしたんだ!? なんかすごく増えていないか!?」


「へっへーん、ここにいるサイモンししょーが、私を鍛えてくれたのよ!」


「なッ……!? さ、サイモン!? どうして、お前が……!」


 びっくりした様子でサイモンを見るリーダー。

 まるで『裏切られた』とでも言いたげである。

 女戦士のためにあまりイベントを進めないように配慮していた彼らからすれば、女戦士にだまって勝手にイベントを進められていたのはひどい裏切りなのかもしれない。

 だが、サイモンはとくに彼らと約束をしたわけでもない。

 サイモンは、肩をすくめた。


「女戦士が、お前たちに置いて行かれたとか言ってて、可哀そうだったからな」


「だからって、あげすぎじゃないか? どうやったらレベル15まで上がるんだよ!」


 女戦士は、にやにや笑いながら言った。


「わたし、とうとうこのゲームのジャックポットに遭遇しちゃったみたいなの」


「マジか、どういうイベントだ!? リーダー権限でくわしい説明を求める!」


「仕方ないなぁ、リーダーには特別にヒントを教えてあげてもいいよ? あー、けどこの前リアルのポケパークで見たカビゴンの巨大ぬいぐるみのことが忘れられないなぁー。どんな寝心地なんだろう、とっても気になって教えられないよぉー」


「ぐうっ、俺に買えっていうのか!? どんだけカビゴン好きなんだお前。はっ、いいさ、サイモンのイベントだから、どうせこの山のどこかなんだろう!? 学校(チャリで2時間かけて通学している)から戻ったら徹底的に探し回ってやる!」


「えっへへぇ~、がんばれ~! 双剣士ぱいせーん!」


 双剣士のリーダーは、オレンジ色の転移ポートに飛び込んで消えていった。


「『学校』とはなんだ?」


「んー、子どもが勉強するところかなー。けどリーダーが通ってるのは、たぶん大人の学校だと思うなぁ」


「リアルの世界には色々な奴がいるんだな……」


***


 教会に向かうと、赤髪と青髪のシスターが彼らを出迎えた。

 相変わらず不思議な雰囲気の双子だったが、前に会ったときよりも、目つきがどことなく柔らかくなった気がする。


「あらあら、子羊さんたちが、ひい、ふう、みい、4人もいらしたわ」


「ようこそ、黄昏の地の教会へ。やがてくる滅亡の日まで、ゆっくりしていらしてね」


 どうやらこの2人は素でこんな感じらしい。

 はじめてこの村の双子のシスターを見たらしい女戦士は、目を丸くしていた。


「ええっ、なにこのラムレムシスターちゃんは。かわいー! ウィンプル(白い頭巾)から髪の毛がはみ出てるの減点だけど、そこがまたいいー!」


「なにが減点なんだ、これが普通だぞ」


 毎年この村に通っているシーラは、2人に気楽に挨拶していた。


「お久しぶりー。月餅祭以来ね。今日は弟つれてきたわ」


「まぁまぁ! これがオーレンちゃん? 大きくなったわねぇ」


「私たちのこと覚えてる? 覚えてないかなぁ」


 オーレンは人見知りをしているのか、シーラの背中に隠れてしまった。

 旅立ちにレベルが十分でも、まだまだ子どもなのだ。


「……すみません、頭撫でられるの、めっちゃ恥ずかしいのでやめてもらえますか」


 照れているだけだった。


「そういえば、ブルーアイコンの冒険者は教会に来たりするのか?」


「うーん、聞いた話だと、教会は入信すると特別なログインボーナスがもらえるらしくて、各地の教会で1日に1回無料ガチャができるらしいよ。だから1日の決まった時間に来る人が多い。熱心な信者だねぇ」


「お前たちの1日というと、俺たちの18日間に相当するわけだから、そこまで熱心な信者というわけでもなさそうだがな」


「甘いねサイモン。リーダーみたいな廃課金プレイヤーは、朝のログインボーナスをもらうついでに、世界中のすべての教会を参拝してまわっているんだよ」


「なるほど、そこまでくると熱心な信者だな」


 女戦士は詳しくは知らないそうなので、双剣士にチャットでどうやって教会に入信するのかと聞いてみると、「『課金』」という返事が返ってきた。


 つまり、リアル世界のお金を使ってアイテムをもらっているのだ。

 サイモンにとってリアルマネーとは、神の世界の通貨みたいな存在なので、諦めるしかなかった。


 ともかくサイモンも、久しぶりに双子のシスターに話しかけてみた。


「すまない、今日はこの辺りで宿を取りたいんだが、この村に宿はあるか?」


 ここに来たのは、教会でオーレンのレベルを確認するという目的もあったが、もう一つの目的もある。


 レイドボスの『鳥』に一番近づけるのがこの村の付近なのだ。


『鳥』が出現する日付変更の瞬間まで、こんな大人数でぶらぶら歩いている訳にもいかない。

 とくにオーレンはまだ小さいので、どこか安全なところで休ませてあげたかった。


「すみませんが、この村には宿はございません」


「そうか」


 宿など、ヘカタン村にもない施設なので、ダメもとで尋ねたのだが、シスターたちも困ったように顔を見合わせた。


「当教会でしたら屋根をお貸しできます。泊まってゆかれますか?」


「おお、是非もない。ゆっくりさせてもらおう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ