3本目の薬草
魔導機械兵のなかでも『あたま兵』は、とびぬけて強固だった。
シーラがそのメタリックな体を狙って剣を振ると、バキィン、という派手な音を立てて、剣の方が割れてしまった。
「うそっ、割れちゃった」
「シーラ、下がっていろ!」
サイモンが【紫電突】を使って槍の一撃を加えるが、恐ろしく分厚い鉄板を叩いたような感触がして、怖気が走った。
攻撃を受けた相手よりも、サイモンの槍の方がみしみしと嫌な音を立てている。
それでも、『あたま兵』に少しずつダメージを与えてはいるらしい。
緑の体力ゲージは残すところ半分となっていた。
「捕まえといて!」
女戦士は、斧を構えて姿勢を低くした。
戦士スキル第1階梯、【ガード崩し】を発動させる。
サイモンの倍以上の速さで駆け出した女戦士は、通り過ぎざまに『あたま兵』に斧を叩きつけた。
「どぉぉぉぉりゃあああっ!」
相手がどれほど硬かろうと、ためらいもなく全力で殴りつけるのが戦士のスタイルだ。
吹っ飛ばされた『あたま兵』は、目をぐるぐる回して動きを止めた。
【状態異常:物理防御減(中)】
【状態異常:卒倒】
ここでもエアリアル素材の斧の性能が火を噴いた。
またとない絶好のチャンスだった。
「姉ちゃん!」
オーレンが自分の剣を投げわたした。
シーラはそれを受け取ると、『あたま兵』を7回連続で横なぎ、体力をごっそり奪っていった。
オーレンの剣はみーんと音を立てて震えたが、刃こぼれひとつなかった。
「オーレン、あなたの剣どうして折れないの?」
「えっ、ふつーにメンテナンスしてるだけだよ?」
「メンテナンスってなに?」
「ええー……」
サイモンは、こっそり『グリッチ』でリキャスト時間をはぶくと、槍のリーチを利用して、素早くそこに攻撃を重ねた。
「ガギギギギ!」
『あたま兵』は赤い目の光をふっと消すと、鉛の置物のようにごろりと転がった。
レッドアイコンがグリーンアイコンに切り替わり、サイモンは急に体が軽くなった気がした。
サイモンのレベルが28に上がっている。
「おお、やった。また1つレベルが上がったな」
「うひゃーっ!」
「うわぁぁーっ!」
女戦士とオーレンが、同時に変な悲鳴をあげた。
見ると、レベル上昇のエフェクトで体がずっと光り続けている。
あまりに突然、大量の経験値を得たので、レベル上昇が止まらないのだ。
オーレンはレベル4からレベル13に。
女戦士はレベル8から、最終的にレベル15まで上昇して止まった。
女戦士はこの短時間で、通算12もレベルが上がったことになる。
「は、はは……あはははははは!」
自分の体の変化に震えていた女戦士は、恐怖が一周まわって、とつぜん笑い出した。
「ふふふ、いいわよね、このくらい……だって、魔法使いと双剣士は私に内緒でレベル10まで上げてたんだから……スクショ撮って送ってやらなきゃ、あいつらの泣いて謝る姿が目に浮かぶわ。今日は楽しい学校生活(ミッション系お嬢様学校)が送れそうねぇ、くくく」
「『絶対に笑ってはいけないダンジョン』というのは何だったんだ?」
「いいのよ、笑っても、だって今の私は勝者、このダンジョンの『王』なのだから! はははは!」
「ねぇー、サイモン、剣おれちゃったぁ。メンテナンスしてぇ?」
「メンテナンスか? 俺も鍛冶師に任せてたから、よく知らないんだよなぁ……」
「僕も布で拭くぐらいしかしたことない……」
「シーラちゃんの可愛さにはかなわないなぁ。オーレンきゅんも、いらっしゃい。いい? メンテナンスってのはねぇ……」
女戦士が、布と砥石とオリーブ油で刀剣をメンテナンスする方法を教えているのを、シーラとオーレンは真剣に聞いていた。
ブルーアイコンの冒険者は、メニューの機能でなんでもこなすという印象だったが、女戦士はなぜかこういった知識も豊富な様子だった。
「武具のメンテナンスは自動に設定できるんだよね。けどなんかしっくりこないから全部自分でやってるんだ」
「わたしはいつもタンスの奥に大事にしまってるんだけど、それじゃダメなの?」
「ダメすぎる。いや、この世界の家のつくりなら、外よりましなのかな? とりあえず、血がついたらまず拭くぐらいはしないと」
「わかった、やってみる」
「シーラ姉ちゃん、ふつうは折れる前にやるものだから、折れちゃったら意味がないよ?」
「えぇー」
「なにこの勇者かわいすぎん?」
シーラはともかく、オーレンは本気で冒険者になろうと必死だった。
最初は不安だったが、さきほどのレベル上昇で、もう13になってしまった。
ヘカタン村でも、そろそろ独り立ちしてもいいレベルである。
(……オーレンは、このまま冒険者になってしまうんだろうか?)
ヘカタン村の料理人になってもらえないのは、寂しくもある。
だが、それは村から離れられないサイモンの個人的な意見だし、束縛したところで仕方がないだろう。
サイモンは、倒した『あたま兵』の方を見ていた。
女戦士とは事前に「ドロップとかよくわかんないから、サイモンにあげるよ」と話し合っていたので、そのまま手に入れる。
【魔導機械兵のコア】×1
【失われし文明の合金】×1
【グレムリンの魔導書】×1
どれも聞いたことのないアイテムばかりだったが、サイモンは、【失われし文明の合金】×1を選んだ。
とりあえず武器の素材にできそうだ。
「こいつはだいぶん硬いから、丈夫な武器ができそうだな……」
オーレンが旅立つのなら、これで特別な剣でも作って渡してやりたいところだった。
スミスはまだログインしていないみたいなので、すぐには剣を貰えないだろう。
サイモンはアイテムを送付しておいて、「これで剣を作って欲しい」と注文のメッセージを送っておいた。
他にもたくさん『まどへい』シリーズを倒しているので、そちらを確認してまわっているうちに、サイモンは瓦礫の中に妙なアイテムを見つけた。
「ん?」
瓦礫の山に、緑のアイコンが浮かび上がっているのだが、なにやら地面から植物が生えているらしかった。
こんな洞窟の奥に植物が咲くのか? と思って、じっとそのアイテムを見てみると、なにやら岩の割れ目から、ピンク色のオトギリソウが生えているらしい。
【トキの薬草】×1
サイモンは、こんな所でも【トキの薬草】を見つけてしまった。




