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魔導機械兵との対決

 サイモンたちはシーラとオーレンを連れて、ふたたびダンジョンの奥に向かった。


 大部屋に入る直前のあたりまで来て、シーラはみなを押しとどめた。


「いい、なにも知らないままボスに突っ込んでいくのは良くないわ。まずは敵情視察からはじめなきゃ」


「一体どうしたんだシーラ、まともな事をいってるじゃないか」


「どうしたの、当たり前でしょう? 真面目にやらないと、命がないわよ」


 以前シーラが、サイモンとHランクモンスターの狩りに出かけた時は、他のメンバーなど後方に置いてけぼりにしながら、文字通り音速でモンスターを倒しまくっていた気がするのだが。


 今回は、初心者のレベル上げも兼ねているし、オーレンと一緒のパーティを組むようになって、慎重な行動をとるようになったのかもしれない。


 とにかく、シーラは敵情視察から始めた。


 ガチャガチャと機械音を立てながら動く『まどへい』たちを物陰から観察すると、あるていどの規則性があるのがわかった。


「『うで兵』、『からだ兵』、『あし兵』、『あたま兵』の4種類がいるわね」


 シーラは、それぞれにわかりやすい名前をつけてくれた。

 サイモンはうむ、と頷いたが、女戦士とオーレンは笑いをこらえていた。


「それが不規則に合体したり、別れたりして色んなタイプの魔導機械兵になってる。レベル150の『完全体』になるには、最低でも4種類がぜんぶ合体しないといけないみたい」


「俺の見た限りでは、『あたま兵』がいないと周りの様子が見えないみたいだったぞ」


「じゃあ、『あたま兵』を先につぶせばあとは楽に戦えるってことかしら?」


「その『あたま兵』が硬くて倒せない上に、すぐ逃げるんだ。罠かもしれない」


「そうなると、戦う順序が大事って話ね。ちょっと情報収集してくるわ」


 シーラは、すっと立ち上がると、そのまま大部屋まですたすたと歩いて行った。


 しばらくして、シーラは情報収集を終えて戻ってきた。


「ちょっと一通り倒してみたわ。『うで兵』が戦いやすいと思う」


「ぶふーっ!」


 女戦士は盛大に吹き出した。


 シーラは大まじめにやってくれているのだが、逆にそれが面白かったらしく、ここまで笑わずに済んだのはサイモンだけだった。


「なにがおかしいの? 真面目にやらないと、本当に命にかかわるんだからね?」


「ごめんなさい、というかこれ、『絶対に笑ってはいけないダンジョン』みたいなイベントだったんだ? わたし耐性ないから無理かも」


「姉ちゃん、もうそれ一人で倒しちゃった方がよくない?」


「私が倒しちゃったら、みんなが強くなれないでしょ? ちゃんと聞きなさい」


「俺が聞いているから、続けてくれ」

 

「サイモンが聞いているならいいわ」


 ぷー、と膨れてしまったシーラ。

 やはり、シーラはやることなす事すべてが異次元なだけの女の子なのだ。


***


 ともかく、サイモンは『まどへい』たちがバラバラになったタイミングを狙って、攻撃を開始した。


 サイモンは、部屋中に入り乱れている機械兵の中から、腕の異様に大きな『うで兵』目掛けて突進した。


「ギギギッ!?」


 槍による先制攻撃を受けた『うで兵』は、魔導機械兵(完全体)に匹敵する大きさの剛腕を振り回し、すぐ隣の鍾乳石を崩落させた。


 だが、サイモンがすぐに遠くに離れると、それ以上は追って来れないみたいだった。


 主武器の巨大なモーニングスターを引きずっているぶん、機動力がないのだ。


「なるほど、『うで兵』は戦いやすいな」


「合体すると厄介だけど、一体一体は見た目通りのガラクタみたいね。司令塔の『あたま兵』は味方が弱いと真っ先ににげてくし」


「この数は脅威だが、連携ができないなら大したことはないな。思ったよりやりやすそうだ」


 あらかた『うで兵』を攻撃し、体力を十分に削ってから、女戦士に任せると、斧の一撃でばこん、と遠くに弾き飛ばしてしまった。


 やはりエアリアル素材の武器が強い。レベル上げを無視して強い武器を手に入れた魔法使いの選択は正しかったようだ。


 経験値が入り、女戦士は一気に5までレベルが上がった。


「おぉー! サイモーン! なんか戦士スキル覚えたよ!」


「第3階梯【岩石飛ばし】だな。そいつを次の敵にに当ててくれ」


 戦士ウォリァースキル第3階梯、【岩石飛ばし】は、岩やモンスターなど、あらゆるものを飛ばして敵にぶつけるスキルだ。


 武器の押し返し(ノックバック)性能に飛距離が依存し、さらに与えるダメージもまちまちという扱いにくいスキルだったが、近接戦闘しかできない戦士にはけっこう重宝されていて、サイモンもよく見知ったスキルだ。


 初心者が確実にレベルを上げるのなら、強い敵に遠距離から攻撃を重ねていくのが一番確実だった。


 女戦士は、手近にある大きな岩を斧で殴りつけると、ボールのように飛ばしてしまった。


 大岩が次々と『うで兵』を押しつぶしていく。

 この攻撃もエアリアル素材の斧との相性がすごくよかった。

 これも魔法使いの計画のうちだったとしたら、彼の慧眼けいがんには驚くほかない。


 さらに、広間を大きく横切った岩石が『あし兵』に当たると、敵意ヘイトを女戦士に向け、両足からジェット噴射の火を噴いて飛んでくる。


 サイモンは、その『あし兵』の前に立ちはだかり、突進攻撃をまともに受けた。


 機械兵の足だけの『あし兵』は、動きの派手さに関わらず、攻撃力はほとんどない。

 動き回るぶん他の機械兵とも合体しやすかったが、『うで兵』を先につぶしておけば、さほど攻撃力があがる心配もなかった。


 突進を鎧で受け止めて、そのまま押し返すと、至近距離から槍で体を貫き、とどめを刺した。


 すべての『あし兵』を倒しきると、女戦士のレベルが6まであがった。


「すごい! どんどんレベル上がってく! さっすがサイモンししょー!」


 女戦士はサイモンを崇拝していた。

 すごいのは魔法使いの計画だったが、彼の功績は完全に無視される形になった。


「よし、次はどいつだ!」


「『からだ兵』よ、体力が大きいから反撃に気を付けて」


「待って~! 岩を当てるよ!」


 戦士は、レベルが上がるほど押し返し(ノックバック)の性能が高くなるという特殊な職業特性を持っていた。


 本来は、攻撃と同時に相手をよろめかせて隙を作る『ガード崩し』や、強制的に敵をふっとばす『シールドバッシュ』などの性能に関わる特性だったが、【岩石飛ばし】においても効果を発揮する。


 大部屋に『からだ兵』は1体しかいない。

 先ほどより勢いよく岩石が飛んで、『からだ兵』に当たって砕け散る。


 宙に浮かんだオベリスクのような『からだ兵』は、ぐぐぐ、と力をためると、周囲に黄色い光を振りまいた。


 どうやら、魔法を使うらしい。

 自らの体力を回復して、傷が癒えていく。


 それと同時に、他のモンスターにも変異が起こった。

 先ほど倒された『うで兵』と『あし兵』が、むくりと起き上がったのだ。


「まずい!」


「うそーっ!?」


「あっ、ごめん」


 シーラは、ほんの一瞬しか調査してこなかったので、『からだ兵』がこんな行動をすることは想定外だったみたいだ。


 復活した『うで兵』と『あし兵』はそのまま合体し、完全体とほとんど遜色ない機動力と攻撃力を持ち合わせてしまった。


 足からジェットを噴いて、穴のあいた風船みたいに大広間をばるばる音を立てながら高速移動し、モーニングスターをぶんぶん振り回して、手当たり次第に壁を破壊していく。


 周りの様子が見えないらしく、攻撃対象はデタラメだったが、あまりに暴走しすぎて、サイモンも手をつけることができなかった。


 さらに『からだ兵』と合体すると、背中から昆虫の羽のような噴出孔バーニアが生え、炎をふきながら一気に加速した。

 魔法でシールドを展開し、ますます手がつけられなくなる。


 さらに、『うで・あし・からだ兵』は誰かに呼ばれたようにぐるりと向きをかえ、部屋のすみに逃げていた『あたま兵』めがけて飛んでいった。 


 どうやら『あたま兵』が出している救難信号を受け取っているのだ。

 どうやらこいつは強い兵士が生まれるのをひたすら待っていたらしい。厄介な司令塔だ。


 いずれにしろ、このまま合体されると完全体になってしまう。


「とまれっ!」


 そうなる事を読んでいたシーラは、すでに『あたま兵』を先に押さえていた。


 助けを呼ぶ『あたま兵』を足でむぎゅっと踏みつけて、彼らの前に立ちはだかり、剣で3体を分断して、無理やり『うで兵』と『あし兵』と『からだ兵』とに切り分けた。


『あたま兵』は逃げ出して、戦局はまた振り出しに戻っていた。


「ごめんごめん、気づかなかった。もっぺん最初からやり直しでいい?」


「シーラちゃんって、ぜったいに私を笑わせようとしているね? この中で一番不真面目だよね?」


「ちがうぞ女戦士、シーラはいつも大真面目だ。いつもあんな感じだ」


***


 サイモンたちは、先ほどと同じ手順で『うで兵』と『あし兵』を倒すと、今度はその2体を復活させられる前に『からだ兵』を全力で倒した。


 もう経験値稼ぎがどうとか言っていられる相手ではなかったので、全員で一斉攻撃するしかなかったが、それでも女戦士のレベルは一気に8まであがった。


 当初の目的を達成した女戦士は、両こぶしをあげて快哉を叫んだ。


「やったー! 目標達成!」


「ようやくだな。オーレンはどうだ?」


「うん、なんか強くなった気がする」


「そうか」


 すっかり忘れていたが、サイモンのように視界設定を変更しないと、ホワイトアイコンはレベルもステータスも見えないのだ。


 それでもレベルという概念は知っていて、普通は神官みたいな特殊な職業の者に見てもらっている。


「隣村に行って、見てもらってくる?」


「そういえば、ヘキサン村に教会があったな。一度見てもらった方がいいな」


 オーレンのレベルは4まであがっていた。

 戦闘に参加していないので、最低限の経験値しかもらっていないが、着実に強くなっている。


 ヘカタン村で独り立ちができるのはレベル13だ。

 それまでは目が離せないので、今のうちに教会への行き方を覚えておいた方がいいだろう。


「あとはあれだね、『あたま兵』は?」


「さあ? あれは逃げるし、硬いから放っておいたけど。もういいんじゃない?」


 大部屋の隅を見ると、メタリックな体の『あたま兵』がぴょんぴょん跳ねて、サイモンたちから逃げているところだった。


 イベントを生成するAIの気持ちがわかる女戦士は、その姿を食い入るように見て、なにかがピンと来たらしく、興奮気味に叫んだ。


「あーっ! ぜったい逃がしちゃダメ! あれ倒して! 間違いない! あれが『ジャックポット』だよ!」

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